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 晴れやかな表情で、ブライトンの三笘薫は本拠地アメックス・スタジアムの場内を一周した。


 5月21日に行われたプレミアリーグのサウサンプトン戦。来季降格がすでに決まっている最下位のサウサンプトンを相手に3-1で快勝し、ブライトンは欧州カップ戦の出場権が手に入る7位以上を確定させた。欧州参戦はクラブ史上初の快挙であり、ブライトンのスタジアムは「ヨーロッパに行くぞ」の大合唱でお祭り騒ぎとなった。

 歴史的偉業を成し遂げた一戦が終わると、スタジアムはセレモニーへと移った。日程上はホーム最終戦だったため、今回のサウサンプトン戦後に毎年恒例のセレモニーが行われたのだ。

シャイな三笘が語った「すごい支えになってる」
 イベントが始まると、三笘は日の丸を手にクリア夫人を連れて登場した。ゆっくりと場内を回りながら、三笘夫妻はサポーターの声援に応えていた。時折笑みを浮かべる2人の姿に、心から楽しんでいる様子が伝わってきた。

 セレモニーを終えた三笘が取材エリアにやってくると、ある記者が尋ねた。「夫人と場内を一周した様子が楽しそうだった。そういうところも、三笘選手のプレーが充実している理由では」。三笘は「これを言うとちょっと記事に出されそうですけど」と頬を緩めて記者団を笑わせた後、素直に認めた。

「その通りですね。すごい支えになってる。確実に、(夫人が)いないと僕もここには来れてないと思います」

 三笘は、ピッチ内のことやプレーに関する質問にはいつも真摯に説明してくれる。だが、プライベートについてはあまり語ってこなかった。記者団も気を使って問いかけることは少なかったが、この時ばかりは、三笘は夫人へ感謝の言葉を口にした。

 シャイな三笘らしく「記事に出されそう」と言って、はにかんだ。ただ、感謝の気持ちを伝えたのは、それほどまで夫人の存在が大きかったからだろう。体調管理やコンディション維持に人一倍、気を使っている三笘。異国の地で長いシーズンを戦っていく上で、精神面における心の拠り所がクリア夫人だったのは、セレモニーでの仲睦まじい姿や、「支えになっている」という言葉からも十分伝わってきた。

「うーん…今日も入んないなって」
 ではブライトンのクラブ史上、最高位となる7位以上を確定させたサウサンプトン戦を振り返りたい。4-2-3-1の左MFとして先発した三笘は、開始早々に決定的なチャンスを掴んだ。ところが、シュートはわずかに枠の外へそれてしまう。その13分後、再び決定機を迎えるも、今度はシュートが左ポストに嫌われた。

 いずれの場面も、三笘が相手のパスミスを見逃さなかったことで生まれた。本人は「“守備のスイッチ”のところを考えてました。相手のビルドアップが捕まえやすかったので、そこを狙ってました」とし、守備から攻撃に素早くつなげる意識が決定機を生んだと説明した。

 しかし肝心のシュートが枠に入らない。「決定機を2本外した後、何を考えていたのか?」と聞いてみると、本人は「うーん……今日も入んないなって」と笑みを浮かべて心情を吐露し、記者たちをまた笑わせた。そして、次のように言葉を続けた。

「やるべきことをやるしかないと思ってました。(記者:気持ちを切り替えていた? ) 毎試合、そういう風に気持ちを切り替えているんですけど、最後のシュートのところがやっぱり、 うーん…集中力の問題なのか、技術の問題なのかわからないですけど、そういうところはまだ足りていないと感じてます。

 あそこは決めないといけない。引き分けか、負けにつながる可能性もあった中で、チームメイトに助けてもらいましたけど。ゴール前の質は、ずっと自分の課題です。今日は勝ったからよかったですけど、次は決めないといけない」

「あれはファウルでもおかしくないプレーでした」
 三笘は序盤の好機逸をしきりに反省していたが、前半40分のアシストのシーンでは、走り込んだCFエバン・ファーガソンにピタリとクロスを合わせた。

 この場面もやはり、守備から攻撃への素早い切り替えが起点になった。

 日本代表MFが中盤でボールをカットすると、カバーに入った相手選手を強引に払いのけ、左サイドを疾走。右足のアウトサイドキックで回転をかけ、絶妙なラストパスをファーガソンに送った。三笘は振り返る。

「(左サイドを抜ける前に、追いかけてきた相手を倒したので)ファウルを取られてもおかしくないプレーでした。(前方に飛び出した後は)敵が2人ぐらい来ているのが分かった。前を見た瞬間、ファーガソンが見えたので、ここは自分で行くよりもパスの方がいいなと。ファーガソンが前方にいてくれたのが大きかったですね」

 なによりこのアシストは、三笘にとって久しぶりの“結果”だった。

 振り返れば、三笘は2月28日のFA杯5回戦・ストーク戦から7試合連続でゴール、もしくはアシストの結果を記録した。しかし、それ以降は沈黙──。ゴールチャンスを何度も何度も作ってはいたが、味方が決定機を外したり、自身のシュートも枠に飛ばなかったりと、結果がついてこなかった。このアシストで、実に約1カ月半ぶり、公式戦で9試合ぶりに得点に関与したことになる。

 そこで聞いてみた。「ホッとした気持ちなのか、それとも、まだまだ足りないという気持ちなのか」と。三笘はこう答える。

「チームの勝利に貢献したので、ホッとはしてますけど。それは良いですけど、 うーん……まあもっと(結果を)稼いでもおかしくないシーンがたくさんあったので、自分のメンタリティのところも改善していかないといけないなと思います。久々に数字(=結果)がついたんで、こっから2試合でもっとつけたいです」

 1アシストを記録した三笘は、3-1の勝利に貢献した。充実のプレーを見せ、後半43分の交代時にはサポーターにスタンディングオベーションで送り出された。

じつはリバプールから誘われていたファーガソン
 そのサウサンプトン戦で、英紙デーリー・メールと地元ニュースサイトのサセックス・ライブから最高評価を与えられたのが、2ゴールを叩き出したファーガソンだ。まだ表情にあどけなさが残る18歳の若者だが、ブライトンの実質的なエース・ストライカーである。間違いなく、欧州行きを決めた原動力の一人だ。

 彼の経歴は非常に興味深い。アイルランド北東部のベッティズタウンという田舎町の生まれ。父親は、DFとしてイングランドの下部リーグやアイルランドリーグを渡り歩いた元サッカー選手である。

 少年時代はアイルランドの首都ダブリンにあるボヘミアンFCで技を磨き、わずか14歳で1軍デビューを飾る。すぐに頭角を現し、当時16歳の2021年1月にブライトンへ籍を移した。

 その際、ブライトンと共に熱心に勧誘していたのがユルゲン・クロップ監督率いるリバプールだった。マンチェスター・ユナイテッドやエバートン、セルティックも獲得に動いていたが、「若手選手に出場チャンスを最も多く与えているから」との理由で、ファーガソンは英国南部ブライトンへの移籍を決めたという。ビッグクラブが獲得に動いていた理由は、18歳にして公式戦10ゴールという今季の活躍ぶりからもよく分かる。

“運転免許のテストに落ちた”ファーガソン
 三笘は、ファーガソンがトップチームに定着する前から「この選手はポテンシャルがすごい」と肌で感じていた。

「オールラウンドなプレーヤーで、 欠点の少ない選手だと思います。味方に合わせるところもあるし、欲を出しすぎないところもある。(利他性の高い)チームプレーヤーで、その中で能力も高い。確実に、このチームに必要だと思いますね。(記者:ファーガソンのメンタリティ、人柄は? )メンタリティ的にも落ち着いています。要求するところはしますけど、 しっかりと自分に集中してるところもある。上に行くメンタリティは持っていると思いますね」

 2人は試合前の選手通路口でよく談笑しており、仲の良さが伝わってくる。三笘も「ファーガソンは前線で敵を背負ってプレーできる。僕としてもやりやすい」と相性の良さを強調する。

 ファーガソン個人にフォーカスしても、サウサンプトン戦の2ゴールで見せたようにそのポテンシャルは計り知れない。本人はカリム・ベンゼマやズラタン・イブラヒモビッチ、オリビエ・ジルーといった名手から影響を受けているようだ。

 ピッチを離れれば、どこにでもいそうなごく普通の若者のようだが、話題には事欠かない。ファーガソンは車の免許をまだ持っておらず、自宅から練習場まで10分の距離を歩いて通っているという。運転免許証のテストに何度も落ちているためだが、本人は「試験官がブライトンのライバルであるクリスタル・パレスのサポーターに違いない」と笑い飛ばす。大物になりそうな予感は、こんなエピソードからもヒシヒシと伝わってくる。

「お祝いはした?」26歳の誕生日だった
 奇しくも三笘は、試合前日に26歳の誕生日を迎えた。「お祝いはしたのか?」と問われると、こう返した。

「特別なことはしてないですね。(誕生日が試合の)前日だったので。なるべくそっちに気持ちを持っていかないようにしていた。毎年そういう感じです。大晦日も、誕生日も、試合がある。サッカー選手なので仕方ないです。シーズン後にちょっと祝えたらと思います」

 26歳。サッカー選手として、これから全盛期を迎える。25歳でプレミアリーグ挑戦、W杯出場と大きく羽ばたいた三笘は、どんな1年を思い描いているのか。

「怪我をしないことと、より安定感を持って、毎試合違いを出さないといけないと思っている。全然足りないと思っているので。成長できると思いますし、そういうところは自分の中でわかっているので、あとはやるだけかなと」

この日、約8分間で4回も記者を笑わせた
 サウサンプトン戦後の三笘から伝わってきたのは、クラブの目標をクリアした達成感、そして充実感だった。例えば、約8分間の質疑応答で三笘が記者を笑わせた瞬間が4回もあった。

 ひとつは、先輩記者が「アシストの場面で相手をふっ飛ばした。今日は気合いが入っていた」と問いかけたシーン。三笘が「いや毎試合、気合い入ってますけど(笑)」と即座にツッコミを入れた。頭の回転の速い三笘らしく、リアクションも素早かった。

 もうひとつは、筆者が「セレモニーでは、どんな気持ちで場内を一周した?」と問いかけた場面。三笘は「セレモニーがあるのは試合前から知っていた。勝ったから良かったですけど、負けたら結構キツイなと(笑)」とおどけて、記者陣を笑わせた。

 残りの2つは、先述した夫人について話したシーンと、シュートミスに「今日もシュートが入らないなと」と心情を漏らした場面。もちろん試合に負けた時はこちらから厳しい質問をすることもあり、記者陣と良い緊張感を保っているが、ブライトンの目標だった「欧州参戦」を達成したこの日ばかりは、三笘も表情が緩んだ。

 だがプレミアリーグの残り2試合に話が及ぶと、日本代表はグッと表情を引き締めた。

「欧州カップ戦出場は大きな目標だったので、それは嬉しいですけど。2試合、しっかりと勝って終わりたい。できるだけ高い順位で終わりたいと思います。監督からは『おめでとう』という言葉と、『あと2試合で、もっと確実に、必要なポイントを取りたい』と。しっかり切り替えようと言われました」

 次戦は、24日にホームで行われるマンチェスター・シティ戦。1ポイント以上を獲得すれば6位の座が確定する。果たして三笘は、シティ相手にどんなプレーを見せてくれるだろうか。

(「欧州サッカーPRESS」田嶋コウスケ = 文)



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