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パスが出てこない場面、川辺がすかさず「パスを出せ!」と味方にアピール
グラスホッパーで活躍する川辺駿【写真:Getty Images】

 スイスリーグ2年目となるMF川辺駿は、グラスホッパーで紛れもなくチームの主軸だ。取材に訪れたのは1部リーグ第28節のシオン戦(1-3)。ホームのレッツィグランドスタジアムのピッチ上に姿を現した川辺の佇まいはどっしりと落ち着いたものだった。


 ひとたび試合開始のホイッスルが鳴ると、一気に戦闘モードに入っていく。4-3-3の左インサイドハーフでスタメン出場した川辺は開始1分でいきなり吠えた。味方のビルドアップでバイタルエリアに顔を出したがそこでパスが出てこないと、すかさず鋭いジェスチャーとともに「パスを出せ!」とアピールを見せる。

 試合を見ていると、川辺にいい形でボールが入るといいチャンスを作れる。そんなふうにチームメイトが全幅の信頼を寄せているのが感じられる。川辺は3分にチーム最初となるシュートを放つと、その後もペナルティーエリア付近でボールを落ち着かせて起点を作ってチャンスを演出し、素早いダイレクトパスで攻撃スピードを上げるなど、次々にタクトを振るっていく。

 そんななか、特に速さを感じたのがボールコントロールからシュートへ持ち込むまでの動きだ。ボールをもらう前からシュートへという動きが身体に染み付いていると感じさせられる。この試合でも度々鋭いシュートで相手ゴールを脅かしていたのが印象的だ。

「自分がそうやって点を取ってきたっていう自信もありますし、やっぱりもうゴール前だとできるだけシュート、時間ができたらシュートってまず思うようになりました。もちろんパスするシーンもありますけど、それは多分、結果を出さなきゃいけないっていう気持ちと、結果を出したあとの喜びだったり、そういうプレーが評価されるっていうのを知ってるからこそ、あんまり迷わないというか、そんなに考えすぎないようになったかなと思います」(川辺)

ダッシュで相手を猛追、スライディングでボールを奪い取る川辺のプレーにファン熱狂
 攻撃だけではない。守備でも魅せる。中盤で鋭い出足からボールを奪うと、味方にパスを出すや否や素早く前線へと走り込む。プレーの連続性は川辺の特徴の1つではあるが、そのスピードとスムーズさは間違いなくアップしている。

 シオン戦ではクリアボールの競り合いで相手を引っ張りながらも譲らず、結果としてファウルとなったシーンがあったが、監督はこのプレーに対して拍手を送っていた。前半途中にはダッシュで相手を猛追し、スライディングでボールを奪い取るとファンからの大きな歓声を受けていた。まさにファンの思いをプレーで体現している。

 プレー判断のところで迷いがないから精度が高い。ガツガツ行くところとその状況の判断で無理をせずに対応する場面の駆け引きがしっかりと習慣になっているようだ。

「そうですね。もう言ってもらったとおり、自分でもその感覚があります。こっちに来た当初は、『そういうガツガツした部分を出さなきゃいけない。まずそういう部分でやらなきゃいけない』と思っていたんですけど、あんまりしっくりこなくて。だからまずは『自分の特徴を出そう。そこを認めてもらおう』っていうふうに捉え方を変えて。ゴールに絡める部分や、チャンスが作れる部分をしっかり出そうと思ってやってきました。徐々に点を取り始めてアシストもでき始めたので、今年はそういう部分、守備の面でもどれだけできるかが重要になってくると思っていた。もちろん毎回毎回、全部球際とかで勝てるわけじゃないですけど、勝てるようにはなってきたかなと思います」

内容的には悪くなかったが…「アンラッキーなことが全部起こった。しょうがない」
 川辺を中心に攻撃を組み立て、チャンスを作り続けていくグラスホッパーだが、なかなかゴールを奪えない。そんな矢先の前半39分にFWメリタン・シャバーニが一発レッドで退場となり、前半終了間際と後半開始直後にゴールを許してしまう。

 1人少ない苦しい展開ながらグラスホッパーは後半にもチャンスを作り出していく。その多くに川辺が絡む。試合展開的にも縦ばかりになりがちななか、ボールを受けて素早く的確に展開していく川辺のプレーは、グラスホッパーに秩序をもたらしていた。後半17分にはコーナーキックから精度の高いボールでトーマス・リベイロのゴールを演出。相手選手と交錯で少し足を痛めた影響もあり、後半30分にペタル・プシッチと途中交代となった。

「足は大丈夫です。そんな痛めた感じではなくて、ぶつかった感じだったんで。退場がなければ、といういう感じですね。1人少なくなってからもチャンスはあったので。でもまあ、こういう時もあるかなって。みんなも言ってましたけど、アンラッキーなことが全部起こった。ポスト直撃のシュートもそうだし、レッドカードもそうだし、逆に相手のゴールも何か不運な形でシュートが人に当たってバーに当たってこぼれて、それを決められてだったので。しょうがない」(川辺)

 試合は落としたが内容的に悪くはなかったのだから、次の試合に向けて気持ちを切り替えることが大切だろう。グラスホッパーは翌第29節にヴィンタートゥールに2-1、そして第30節では首位ヤングボーイズに4-1と連勝。2位から10位までの勝ち点差が16という混戦のスイスリーグで現在グラスホッパーは5位につけている。

 2位ルツェルンまでの勝ち点差はわずか5で、来季UEFAチャンピオンズリーグ(CL)予選の出場権獲得までもそう遠く離れてはいない。すべては自分たち次第。残りは6試合だ。川辺の活躍でチームをヨーロッパの舞台へと導きたい。

[著者プロフィール]
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで、さまざまなレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、16-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで精力的に活動している。

中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano



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