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【インタビュー】岡崎が指摘「これからまた素走りが大事になってくる」
シント=トロイデンに所属する岡崎慎司【写真:Getty Images】

 日本代表で長年活躍し、現在ベルギー1部シント=トロイデンに所属するFW岡崎慎司は、「子供たちにも『走ることが大事』『走ることがサッカーを楽しむことにもつながる』という実感を持ってもらうことが必要」と語る。育成年代における“素走り”の重要性を説く一方、指導者に求められる力についても言及した。(取材・文=中野吉之伴/全4回の3回目)


   ◇   ◇   ◇

 サッカーは、2つのチームが、ボールと2つのゴールとともにするスポーツだ。そこがサッカーのスタート地点。だからトレーニング理論に関しても、どれだけ時代の流れで求められる要素が深化・変化したとしても、サッカーというスポーツの原点は変わらない。サッカーにある要素をコマ切れにして別々に取り組むのではなく、サッカーへの結び付きを残し、つながりをもたらすトレーニングをバランス良く取り入れることが重要だと強調される。

 そのなかで「素走り」、つまりボールなしでのトレーニングが不要になったのかというと、それはまた違う話になる。

 元日本代表FWで、現在ベルギーのシント=トロイデンで活躍する岡崎は次のように語っている。

「僕はこれからまた素走りが大事になってくると思うんですよね。走れるようになることはサッカー選手にとって、とても大事なことですから」

 サッカーだけでなくどんなスポーツでも、「基礎体力」はとても大切な要素になる。では今、育成年代における基礎体力はどうなのかを考慮することが重要だろう。サッカーのトレーニングにおいて、“サッカー要素”が入ったメニューか否かは非常に大事になるが、僕らは今の時代背景や現代の子供たちが置かれている環境にも目を向ける必要がある。

子供たちが「やってみよう」となるかどうか、指導者に求められる“牽引する力”
 公園でのボール遊びが禁止され、子供たちだけで遊べる機会が激減している現代。外遊びの機会が減っているという事実は、そもそも日常生活で走る機会がどんどん減っていることを意味する。鬼ごっこやドロケイ、かくれんぼ……。そうでなくてもただただ友達と走っているだけで楽しかった思い出がある大人はそれなりに多いと思うが、そうした経験が少ない子供がいるという事実から目を背けることはできない。

 スポーツクラブや少年団、部活動に所属している子供たちはそれでも、日常的に身体を動かして、仲間と一緒にプレーする喜びを感じられる環境が少なからずあるが、そうではない子供たちは本当に身体を動かす機会が限られてしまう。だからこそ、チームトレーニングとは別に、そうした子供たちがただ走り回って遊べる機会を作ることが、これまで以上に求められているのだ。

「子供たちにも『走ることが大事』って思ってもらうことが重要だし、『走ることがサッカーを楽しむことにもつながる』という実感を持ってもらうことが必要なのかなと。だから『なぜしなきゃいけないのか』『だからしたほうがいいんだよ』ということを、分かりやすく理由付けできたり、『やってみよう』って牽引する力が、これからの指導者には求められると思います」(岡崎)

 指導者からできるアプローチもたくさんあるはずだ。「以前は攻撃のあと、自陣にすぐ戻れなかったケースなのに、しっかりダッシュで戻ってサポートできていたね」「苦しい局面だったのに、ダッシュで攻め上がってパスコースを作ってくれたね」など、少しずつ積み重ねたことが確かな成果となったことに気づき、伝えてあげることが大切だろう。

 素走りといっても、子供たちに対して練習や試合後に「30メートルダッシュ30本!」「毎日10キロ走れ」など、スポーツ生理学を無視した量的なアプローチは望ましくない。身体も心も頭も、十分な休みを取らないとパフォーマンスは落ちていくし、怪我の危険性が高まるばかりなのだから。

アプローチは千差万別、岡崎も力説「子供たちがポジティブに取り組めるサポートを」
 子供たちそれぞれに自分のキャパシティー(許容量)と成長段階がある。だからそれぞれに合ったアプローチが考慮されるべきだ。小学生年代だったら、リレーなどの競争形式のほうが好奇心を持って取り組めるだろうし、走ることへの意欲だってある。基礎持久力の向上に取り組むなら、チームトレーニングとは別日にみんなでジョギングしたり、山登りをしたりというアレンジがあってもいいかもしれない。

 最近の子供たちの傾向として、自分がやりたくないこと、よく分からないこと、やってもプラスにならないかもしれないことは極力やらない、などが挙げられる。自分の何かにつながらない無駄なことはしないという考えだ。だが、寄り道しなければ分からないこと、気づけないこと、見つけることができないことも数多くある。その意味で、寄り道の大切さ、そして楽しさを知ってもらうことも育成では重要になる。

 岡崎もこう語っていた。

「自分と向き合う時間を持つ、今までの自分を乗り越えることにチャレンジする。そうやって子供たちがポジティブに取り組めるようなサポートを大切にしてほしいです。そして子供たちには、言われたからやるのではなくて、自分でモチベーションを持って取り組むことがすごい大事なんだよ、っていうのを知ってほしいと思います」

※第4回へ続く

[プロフィール]
岡崎慎司(おかざき・しんじ)/1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。宝塚ジュニアFC―けやき台中学校―滝川第二高校―清水エスパルス―シュツットガルト(ドイツ)―マインツ(ドイツ)―レスター・シティー(イングランド)―マラガ(スペイン)―ウエスカ(スペイン)―カルタヘナ(スペイン)―シント=トロイデン(ベルギー)。J1通算121試合42ゴール、日本代表通算119試合50ゴール。日本代表で長年活躍し、2010年W杯から3大会連続出場を果たした。09年にJリーグベストイレブンに選出され、11年1月に清水からシュツットガルトへ移籍。15-16シーズンにはレスターでリーグ戦36試合5ゴールをマークし、クラブ創設132年目のプレミアリーグ初優勝に大きく貢献した。スペインでは3クラブを渡り歩き、22年夏からシント=トロイデンでプレーしている。

[著者プロフィール]
中野吉之伴(なかの・きちのすけ)/1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで、さまざまなレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス取得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、16-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで精力的に活動している。

中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano



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