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名古屋グランパスと浦和レッズは10日、豊田スタジアムで9日に行われた両チームのリーグ戦前に、浦和サポーターによる複数の違反行為が確認されたと公式HPで発表した。立ち入り禁止エリアへの侵入などに加えて、警備員への頭突きや胸ぐらをつかむといった暴力行為や威嚇行為が起きたことを浦和が謝罪し、当該サポーターへの処分を検討すると表明した一方で、名古屋は「クラブ間の信頼関係を失墜させる行為」と浦和の対応を非難するなど、両チームの溝が深まってる。


「横断幕を除去すれば乱闘も辞さない」と恐喝とも受け取れる威嚇
 
 一部のサポーターによる違反行為を非難するだけでなく、対戦チームに対しても遺憾の意を表明する。名古屋と浦和の関係が異例ともいえる状況に陥った。
 
 事の発端は豊田スタジアムで行われた9日の明治安田生命J1リーグ第7節。開場直後に一部の浦和サポーターの立ち入り禁止エリアへの侵入や横断幕掲出不可エリアへの横断幕掲出、事前に許可を得ていない座席への装飾物の貼り付けが確認されたと名古屋は発表した。
 
 さらに警備員が対応にあたった際に、頭突きや胸ぐらをつかむなどといった暴力行為や、名古屋サポーターに対する威嚇行為が発生。キックオフ直前に警備員と名古屋のスタッフが再び対応した際には、当該サポーターが「横断幕を除去すれば乱闘も辞さない」と恐喝とも受け取れる威嚇の言葉を発し、さらに違反行為に伴う強制退場命令にも従わなかった。
 
 試合の前後にはマッチコミッショナーとJリーグ側、両クラブの実行委員が一連の違反行為や事象を確認。そのうえで名古屋は「違反行為を行った該当者に対しては浦和レッズが特定したうえで、Jリーグ罰則規定に則った厳正な処分を行うと確認した」と発表した。
 
 異例だったのはこの後だ。名古屋は次のように浦和を非難している。
 
「Sスタンド運用変更に伴う浦和レッズの各種発信においては、クラブ間で合意した内容を独自に書き換え、事実と異なる認識を与えてしまう発信となることがありました」
 
 いったい何が起こっていたのか。舞台裏を紐解くには名古屋が3月下旬に急きょ発表した、豊田スタジアムの南側ゴール裏のSスタンドの運用再変更を振り返る必要がある。
 
 名古屋は昨シーズンのホーム最終戦から、アウェイチームのファン・サポーターが立ち上がって観戦・応援できるエリアをSスタンドの1階から2階へと移動。同時に1階部分をすべてホーム側の指定席に変更し、今シーズンも継続させてきた。
 
 しかし、施設利用規定には明記されていないものの、豊田スタジアムの上層階スタンドでは安全上の理由で、立ち上がっての観戦・応援が従来から禁止されてきた。開幕後に豊田スタジアム側から安全順守を要請された名古屋はSスタンドの運用を急きょ変更。2階エリアに設けていた、立ち上がって観戦・応援できるアウェイ指定席を1階エリアに再び移動させた。
 
 浦和戦を含めてすでにチケットが販売されていた公式戦3試合に関して、名古屋はアウェイチームのファン・サポーターの希望者に対しては、2階から1階へ座席を振り替える措置を取ると発表。3月28日と4月2日、8日の3度にわたって公式HPで告知している。

 ただ、アウェイへも数多くのファン・サポーターが駆けつける浦和戦へ向けては、Sスタンド2階の全席がアウェイ指定席として発売されていた。こうした状況を受けて、浦和側も4月1日、5日、試合当日の9日と3度にわたって公式HPで変更の詳細を告知した。
 
 この過程で名古屋が指摘した「事実と異なる発信」があった。
 
 たとえば浦和は5日の時点で、名古屋が指定する振替券WEB取得専用サイト上で、1階アウェイ指定席が「予定枚数終了」と表示されている点を指摘。そのうえで「事前に2階アウェイ指定席チケットをご購入されたみなさまが、1階アウェイ指定席でご観戦いただけますよう、引き続き名古屋グランパス様と調整を行ってまいります」と報告した。
 
 これに対して名古屋は次のように指摘している。
 
「アウェイ応援席の座席位置について、チケット発売前には名古屋グランパスと浦和レッズ両クラブ間で確認を終え、その後に試合開催まで追加の協議を行った事実はないにもかかわらず、2階から1階への座席位置変更の協議を継続しているかのような発信」
 
 浦和は名古屋戦当日の「試合情報」で、名古屋が再変更を発表する前にアウェイ指定席チケットを購入したファン・サポーターへ「試合当日、アウェイ指定席入場入口付近にクラブスタッフもおりますので、お声がけください」と呼びかけてもいる。
 
 これに対しても、名古屋はこう記している。
 
「チケット振替の対応について、当初から振替に必要な座席数を確保し、試合当日のスタジアムでは名古屋グランパスが対応することを両クラブで確認を終えていたにもかかわらず、浦和レッズのスタッフが振替対応を行うと誤認させるような発信」
 
 シーズン途中でアウェイ指定席を変更した時点で、名古屋は「イベント主催者判断で観戦ルールが定められるものと理解していました」と認識の甘さを謝罪している。浦和戦から一夜明けて急きょ更新された公式HPでも、Sスタンドの運用変更を「当クラブの瑕疵」とあらためて認め、そのうえで浦和サポーターだけでなく浦和の対応を糾弾している。
 
「試合時に発生した違反行為は、運用変更における当クラブの瑕疵とは独立した試合運営規則の違反行為であり、多数のご来場者ならびに運営スタッフの安全・安心を脅かす行為で決して許されものではありません。(中略)これらの(浦和による)発信および今回の浦和サポーターによる違反行為は、クラブ間の信頼関係を失墜する行為として大変遺憾に思っております」 

 どれだけ告知を徹底しても、情報が行きわたらないケースは避けられない。開場時には混乱が生じていたと推察できるし、浦和側の発信が混乱に拍車をかけた可能性も捨てきれない。なかにはいら立ちを覚えたファン・サポーターもいたはずだが、だからといって違反行為は絶対に許されないし、ましてや名古屋が発表した暴力行為や威嚇行為は言語道断となる。
 
 浦和も公式HPを更新し、一部サポーターによる複数の違反行為と、クラブとしてキックオフまでに違反行為の中止や違反掲出物を強制撤去できなかった点を謝罪。そのうえで「各違反行為の行為者に対し、さらなる聞き取り調査などを含む事実確認を進め、入場禁止を含む処分の検討を進めてまいります」と今後へ向けた方針を発表した。
 
 ただ、警備員への頭突きや胸ぐらをつかむなどの暴力行為に対しては、浦和は「暴行と思われる行為を含む諍(いさか)い」という表現にとどめている。諍いとは「ちょっとしたもめ事や言い争い」を意味する場合が多い。さらに浦和は次のように続けている。
 
「当事者間ですでに和解済みではございましたが、試合中に名古屋グランパス、Jリーグ、浦和レッズの3者で行為者への聞き取り調査等を実施しました。なお、聞き取り調査時においては行為者が暴行行為を行ったことを認めておらず、また防犯カメラの映像など、客観的に証明し得る情報を現時点で確認できていないため、本発表においては行為内容を上記表現としております」
 
 両クラブの発表を受けて、ネット上ではこれまでも一部サポーターが違反行為を繰り返し、昨年7月にはコロナ禍で禁止されていた声出し応援を繰り返したとして、歴代最高額に並ぶ2000万円の制裁金を科された浦和へ向けられた批判が殺到している。
 
 暴力行為が確認されたと名古屋が発表した今回は、スタジアムの観戦環境を保証していく意味でも、さらに次元が異なる事態に直面している。同時に名古屋が「信頼関係を失墜する行為」と踏み込んで非難したことで、クラブ間の確執という前例のない状況も加わりつつある。
 
(文責・藤江直人/スポーツライター) 



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