スクリーンショット 2023-04-04 18.32.36

スポンサード リンク

今年5月にリーグ開幕から30年の節目を迎えるJリーグが「アジア戦略」を本格的に打ち出したのは、2012年。当時、いくつかのJクラブが東南アジアのクラブと相次いでパートナーシップ協定などを結んだ。しかし、10年以上が経過した今も関係を維持、発展させているJクラブは、そう多くはない。タイリーグの強豪、BGパトゥム・ユナイテッド(当時のクラブ名はバンコク・グラス=BG)との結びつきを強めているセレッソ大阪は「アジア戦略」の優等生と言える。その分野でもキーマンとなっているのが、前週に紹介した猪原尚登事業部長だ。前週のコラム「セレッソ大阪が目指す『協業』の形…パートナーとのウィンウィン構築図る」に続き、猪原部長にセレッソ大阪のアジアでの取り組みを聞いた。

■タイの企業と「協業」で縁結び

先週からの流れで、まずはパートナー企業とのウィンウィンの「協業」の話から始める。セレッソ大阪が手掛ける「協業」の一つに、パートナー企業の海外進出のサポートがある。モデルケースのきっかけとなったのが、将来、プロサッカー選手になることを夢見る東南アジア諸国連合(ASEAN)の子供たちを応援する「アセアン・ドリーム・プロジェクト」だ。2018年にスタートし、テレビ東京系列で番組も放映された。

プロジェクトが進む中で、協賛企業の一つ、紙の加工製品や事務機器を手掛ける「ナカバヤシ」の関係者がタイに視察に赴くことになった。猪原部長によると、2014年からセレッソ大阪のパートナー企業を続けているナカバヤシは当時、商品の多角化を模索すると同時に、既存の日本製文具などをタイ市場で売り出したい思惑もあったという。

ところが、その手応えは今一つ。しかし、視察は空振りには終わらなかった。タイでビジネスをする上で役に立てばと、BGを紹介したときのこと。訪れた会議室のガラスが目に留まった。BGの親会社のBGグループは、日本でも有名なシンハービールのガラス瓶製造からスタートしたタイ大手のガラスメーカーだ。スイッチを入れたり、切ったりすると会議室の調光ガラスの透明度が変わる。「『これはいい!』という話になって、2020年に(ナカバヤシとBGグループの企業が)提携しました」と猪原部長。

内容はタイ国内で生産したBGグループの調光ガラスをナカバヤシが日本国内で販売するというもの。ところがタイミング悪く、新型コロナウイルス禍が世界的に拡大するなどして日本とタイの人の往来が難しくなり、細部を詰める作業が中断。それでも、猪原部長が間に入るなどして品質改善などの検討を続け、商品化に向けて話が進んでいるという。また、BGとの縁でシンハービールの製造元のシンハーコーポレーションもセレッソ大阪のトップパートナーに名を連ねている。

■ヤンマーHDとともにタイに根付く

そもそも、2012年のBGとセレッソ大阪との提携話は、BG側から持ち掛けられたものだった。猪原部長は「最初の話は、うちのアカデミー(育成組織)のメソッドを取り入れたいということでした。ちょうど香川真司選手が海外で活躍していましたし、柿谷曜一朗選手らアカデミー出身の選手も次々と出てきていました。日本のいくつかのクラブとコンタクトを取る中で、セレッソ大阪に決まったそうです」と振り返る。農機具などを製造、販売する親会社のヤンマーホールディングス(HD)が東南アジアでの事業を展開していたこともあり、セレッソ大阪側も積極的に応じた。

2016年にはヤンマーグループが中心となり、セレッソ大阪、BGが共同でタイ国内にNPO法人「ヤマオカ・ハナサカ・アカデミー」を設立した。

アカデミーではバンコク近郊に寮をつくって練習場となるグラウンドも整備。猪原部長は「最初はヤンマーHDの現地法人のディーラーとか、日本でいうところの農協のような組織とタイアップしてサッカー教室をしたり、優秀な選手のセレクションをしたりしました。合格した選手にバンコクに集まってもらい、最終選考を行ってヤマオカ・ハナサカ・アカデミーに入る選手を決めていました」と話す。

■指導者派遣、人材交流でメキメキ力つけ

BG側のそもそもの狙いだった育成組織の充実の面では、練習生の受け入れや指導者の派遣といった人材交流を中心に進展。2018年には年代別タイ代表経験のあるチャウワット・ヴィラチャード選手、2019年にはタワン・コタラスポー選手、ポンラヴィチュ・チャンタワォング選手が相次いで期限付きで来日し、セレッソ大阪に加入した。チャウワット選手は2022年にも再び期限付きで加わった。3人ともトップチームでの試合出場を果たせなかったが、刺激を受けたのは間違いない。

また、セレッソ大阪は2013年からタイキャンプを実施。タイの国内事情などにより中止となった年もあったが、コロナ禍前の2019年まで続いた。2023年は4年ぶりに復活。コロナ禍で途切れた流れを取り戻すべく、猪原部長は「セレッソ大阪のユニホームの胸部分にはヤンマーの文字がありますし、選手たちがタイでキャンプをすることで、ヤンマーHDの認知度を上げる効果もあるでしょう。(コロナが収束に向かい)もう一度やってきたことをしっかりとやっていこうと思っています」と抱負を語る。

ただ、セレッソ大阪と現在のBGパトゥム・ユナイテッドの関係は、10年前と同じままではない。理由の一つは、BGパトゥム・ユナイテッドの成長。一時は2部落ちも経験したが、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)に2年連続で出場し、2022年には準々決勝に進出するなどメキメキと力をつけている。「価値観みたいなものも変わってきていますし、BGのオーナーの考えていることも変わってきているのではないかと直接話してみても思います」という猪原部長は「10年前のBGとは違います。だから、関係も次のステージに入る時期かなと。マーケティング面はいろいろと取り組めています。ですので、強化につながるところをもっとしていきたい。サッカーのレベルは全体的にはセレッソ大阪の方がまだ優位性はあると思いますが、BGのレベルアップのスピードはものすごく速い。ただ、もっとセレッソ大阪の力が必要だと感じてもらっていると思います」と説明する。

現在も選手2人をセレッソ大阪のアカデミーで受け入れるとともに、セレッソ大阪からは生え抜きの丸橋祐介選手がBGパトゥム・ユナイテッドに期限付き移籍している。

■日本と同じようなグラウンド状態に

ACLではこんなこともあったという。2018年の大会の1次リーグで、セレッソ大阪はタイのブリーラム・ユナイテッドと対戦。敵地での対戦の際にBGパトゥム・ユナイテッドのサポートを受けたのだという。「相当協力してもらいました」と猪原部長。逆に2022年にBGパトゥム・ユナイテッドが日本で試合をした際にはセレッソ大阪のスタッフが帯同してさまざまな支援を行ったのだという。

タイでセレッソ大阪がキャンプを行う際にも食事面や飲み物の手配などを含めて協力。猪原部長は「BGが仲介してくれ、日本のグラウンドと同じようにしてくれといったら、してくれるんです」と打ち明ける。

こうしたセレッソ大阪の「アジア戦略」はBGパトゥム・ユナイテッドとの友好関係だけにとどまらない。交流サイト(SNS)は日本語を含めて6カ国語で展開。フォロワーが最も多いのはインドネシア語だという。2021~2022年に在籍したベトナム代表GKのダン・バン・ラム選手も母国で絶大な人気を誇り、出場した試合では大量の応援メッセージが中継したYOU TUBE動画に発せられた。

「SNSは正直、伸び悩んでいるのはあるんですよ」という猪原部長は先日、タイを訪れた際にSNSの活用法についても検討。「日本とタイのカルチャーは異なります。SNSの活用法なども違っていたりする。フェイスブックはホームページのような感じ。ファンとのつながりはインスタグラムとTikTok(ティックトック)が中心だそうです」と話す。

今季の開幕時にはタイのメディア関係者が来日。アカデミーで受け入れている選手の取材がメインだったが、タイで知名度の高い香川選手も英語でのインタビューに応じたという。「協業」と「アジア」をキーワードに事業活動を展開してきたセレッソ大阪。そうしたトップチームの選手たちの人気や魅力もどう生かしていくか。猪原部長の東奔西走はこれからも続きそうだ。



スポンサード リンク

ブログランキング にほんブログ村 サッカーブログへ