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 サッカーの日本代表は次のW杯に向けた最初の強化試合で1敗1分けに終わった。3月下旬のキリンチャレンジカップ。多くの課題を抱えてのスタートとなった。AERA 2023年4月10日号より紹介する。


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 3月シリーズで手にした収穫と課題の数を比べたら、課題のほうが多いだろう。率直に言って試合内容は低調だった。理由は、はっきりしている。チームが新戦術にトライしたからだ。

 16強入りした昨年のカタール・ワールドカップ(W杯)において、森保一監督(54)はボール保持率を高め、試合をコントロールできるようにならなければ、上を目指せないと感じたという。選手も大会後に同様の考えを口にしており、それがそのまま2026年の北中米W杯で上位進出を狙うチームの大テーマになった。

「W杯で課題になったボールを握っていく攻撃(ビルドアップ)を仕掛けられるように選手たちにはトライしてほしい。実はこれまでもやってきましたが、レベルはアップしたものの、W杯のトップ基準の中ではまだまだ力をつけなければいけない」

 24日のウルグアイ戦(東京・国立競技場)の前日会見で、森保監督はボール保持については継続的に目指してきたものだと説明した。それでも世界のトップと戦う水準には達していなかったということだ。

■SBが内に入る新戦術

 果たしてチームは、サイドバック(SB)が内側に入り込むビルドアップという新戦術にトライすることになった。

 大づかみにメリットを記すなら、まずSBが内側に入ることによりピッチ中央で数的優位な状況を作りやすいという点がある。それに加えて相手のマーカーが中央に引っ張られるためスペースが空き、センターバックからサイドアタッカーへのパスを通しやすいという面もある。

「SBがどうやって攻撃に関わるか、またウィングの幅をどう生かすかという攻撃の形にトライしようと、名波(浩)コーチ(50)を中心に取り組んでくれました」

 森保監督は、今回の活動からスタッフに加わった名波コーチにカタールW杯の日本の戦いぶりについて聞いていた。そこでボールが外周りで動くことが多く、中央から攻めていくケースが少ないことを指摘されたという。森保監督も感じていたことであり、今回の活動で新戦術を採用するきっかけになった。

 ただ、この新戦術は一朝一夕で習得できるものではない。19年にアンジェ・ポステコグルー監督(現セルティック)が横浜F・マリノスで実践してJ1制覇を成し遂げたが、結果を出すまでに2年の月日を要した。活動期間が短い代表ならなおさら時間が必要だろう。短時間で落とし込むのは相当にハードルが高い作業と言える。事実、初戦のピッチ上ではたびたび混乱が生じていた。

■形ありきだった第1戦

 左SBの伊藤洋輝(シュツットガルト、23)が内側に入った際に中央エリアで選手が渋滞する場面があり、右サイドでも前半は右サイドハーフの堂安律(フライブルク、24)と右SBの菅原由勢(AZ、22)のポジションが重なって攻撃が滞るシーンが見られた。

「攻撃の動かしのところでSBが中に入ったタイミングがどうだったのか。全部(内側に)入るのが本当に効果的なのか。そこの使い分けは絶対にしなければいけないと思う」

 ゲームキャプテンを務めた遠藤航(シュツットガルト、30)の感想が試合内容を物語る。いつ誰がどこに動くのか。まだまだ探り探りの状況だった。そして新戦術を消化することに選手が集中しすぎて、可能なら素早く攻めるという攻撃の原則が忘れ去られた。どこにポジションを取るかに意識が割かれ、どう攻めるかがおろそかになった。

 こうして形ありきとなったウルグアイ戦を反省し、選手たちは活発な意見交換を行った上で28日の2戦目、コロンビア戦(大阪・ヨドコウ桜スタジアム)に臨んだ。結果、やみくもにSBが内側に入るプレーは減り、相手のプレスがそれほど厳しいものではなかったこともあって、前半は主体的にボールを動かすことができた。

■ボランチ・鎌田の影響

 ウルグアイ戦でトップ下を務めた鎌田大地(Eフランクフルト、26)がボランチの一角を担った影響もあっただろう。鎌田は最終ラインからボールを引き取って前向きにプレーできる選手。そのため守田英正(スポルティング、27)が後方でボールのピックアップに奔走する必要はなく、ウルグアイ戦よりも高い位置に出ていく機会が増えた。

 三笘薫(ブライトン、25)の先取点や相手GKの好守により阻まれた後半21分の上田綺世(セルクルブルージュ、24)の豪快なヘディングを導いたのは、いずれも前に出張った守田のクロスだった。

 前半は、数こそ限られたものの、縦パスが入る場面も見られ、ウルグアイ戦から修正が施されていた。しかし、日本は次第に相手に試合の主導権を握られるようになっていく。球際の争いでことごとく優位に立たれたことが響いた。結果、全体の重心が下がり、先取点を奪いながらも逆転を許すことになった。

 コロンビアの守備の修正が見事で陣形変更によってパスの出しどころを失った。日本も陣形を変更して対応したが、本分であるはずの強度を見せられず、相手のペースにのみ込まれた。ボールを前進させられる鎌田は所属クラブの試合が直後に控えているため、前半のみで交代。後ろでボールを回す時間が増えた日本は相手にとって全く怖さのないチームになってしまった。

■町野らを起用した理由

「これまでの選手を使えば、安定と安心はあるかもしれません。勝利を目指さなければいけないですが、同時に未来を見据えて選手個々のレベルアップと層を厚くし、戦い方の選択肢を増やすことも絶対に必要です。未来を見据えて後悔はありません」

 町野修斗(湘南、23)、西村拓真(横浜マ、26)、バングーナガンデ佳史扶(FC東京、21)ら代表歴の浅い選手を先発させた意図について、森保監督はこう説明した。経験の浅い選手の起用が敗戦を招いたわけではないものの、強度不足に少なからず影響していた面もある。

 とはいえ、彼らの存在は3月シリーズの収穫でもあった。前述の3人に菅原も含め、その起用が「未来を見据えた」ものだからだ。指揮官が期待する層の拡充は彼らの成長にかかっていると言っていい。いずれ花開くことになれば、その選択は全くもって正しかったことになる。

 一方で、課題は今回の活動のテーマだった新戦術に関する全般だ。2試合目にいくぶん改善も見られたが、タイミングの共有、動き方の整理、そもそもの最適な人材の見極め、運用方法、短い時間での落とし込みとアプローチ。いずれも今回の活動では最適解を得られなかった。

 無論、何かを断じるには時期尚早だろう。ただ、時間がないのも確かだ。今年11月にはW杯予選が始まり、来年1月にはアジアカップを控える。新戦術はあくまで本大会仕様と割り切っているなら3年3カ月の時間があるが、浸透度合いについては注視していく必要がある。この状態から目標とする状態に「期限内に」たどり着くのは、相当に難しいと思うからだ。

 第2次森保ジャパンの船出は1敗1分けの未勝利に終わった。前回18年の第1次森保ジャパンが11戦無敗で始まったのとは、対照的なスタートになった。(ライター・佐藤 景)

※AERA 2023年4月10日号



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