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「何も変わっていないじゃないか?」
 
 コロンビア戦の逆転負けに熱いサポーターの間からは、そんな声が出るのかもしれない。しかし、今は勝敗は関係なくテストの段階。長い目でチームを見守ってもらいたい、というのが私の本音だ。
 
 森保監督は、ウルグアイ戦から大きくメンバーを変えてきた。ワントップに町野を使い、2列目に三笘、西村、伊東を並べ、ボランチが守田と鎌田のコンビ。左サイドに代表初招集となるバングーナガンデ、右サイドには菅野、CBコンビは、伊藤と板倉で、先制点は森保監督が理想とするような形で取った。
 開始3分。町野がエリア内で起点となってボールをタメてからパスを出し守田がゴール前に正確なクロス。そこに三笘がピンポイントでヘッドを合わせた。だが、ここから先の試合の進め方がうまくいかなかった。町野のポストプレーも先制点を演出した場面だけ。
 
 Jリーガーゆえの“壁“が見えた。焦りからか我慢できずにボールに寄ってしまうので、潰されるケースが目立った。海外の選手は足も長くフィジカルも強い。ボールを迎えにいくのではなく、体を張って抑えないとボールをコントロールできないのだが、国内だけのプレー経験では、その駆け引きもわからないのだろう。いい経験にはなったと思うが、後半から入った上田も含めてポストプレーのできるFW不在という問題点が残った。
 
 森保監督は“遅攻”からのビルドアップをこの2試合のテーマにしていたが、それには起点となれるFWが不可欠。残念ながら、その適材はまだ見つかっていない。今なお大迫を超えるポストプレーのできるFWが出てこない。今後、発掘していかねばならない“宿題”である。
 
 世代交代をはかったディフェンスの問題も露呈した。
 
 前半33分に同点に追いつかれた場面は、左サイドで板倉がマチャドに振り切られ、マイナスのアーリークロスに反応して走り込んできた19歳のコロンビア期待の若手デュランにゴールを決められた。中に人数はいたが、鎌田とバングーナガンデが寄せ切れなかった。一瞬の隙と球際の弱さ。経験不足で片づけられる問題ではない。
 
 勝ち越しを許したのは、久保と瀬古を投入した直後の後半16分。エリア内を狙ったカウンターのロングボールを争った瀬古が、デュランを倒してしまいシュートを放たれた。シュミットが前に出てセーブしたが、そのこぼれ球をボレがガラ空きのゴールへオーバーヘッド。GKの判断は仕方ないが、ここも、瀬古の経験不足と球際の弱さが招いた失点。後半からコロンビアにチェンジペースされ、パスの精度が上がり、テンポが速くなると、ついていけなくなった。
 
 後半に投入されたのが、久保、堂安らの守備意識が高いとは言えないメンバー。堂安も前へ行きたいタイプで、中盤が間延びしていたし、後半から入った遠藤が、後ろに重心をかけたため、バランスとして受けに回り、後手を踏んでコロンビアに主導権を握られる形になってしまった。


 驚いたシーンがある。
 
 1点を勝ち越されると、後半33分に浅野を投入したが、彼にメモを持たせてピッチへ入れ、それをゲームキャプテンの遠藤に手渡して、フォーメーションを変えようとしたのだ。  
 
 言葉で伝えるのは難しいと考えたのかもしれないが、指示をメモで伝えるケースは初めて見た。結果的には浅野と上田の2トップを形成、遠藤をワンボランチにして4-1-3-2のシステムにしたが、メモを渡したにもかかわらず、一時、3バックになり、選手をベンチに呼んで指示を与えるなど、しばらく混乱していた。おそらく合宿でも準備をしていなかった即席フォーメーションだったに違いないが、異例のメモ指示も含めて森保監督の采配ミスだ。
 
 おそらく森保監督は点を取りにいくと同時にコロンビアの両サイドを警戒して3バックではなく4バックのままにしたのだろうが、3バックにしてワイドに開き、攻撃に転じるべきだったと思う。
 
 2トップにしたものの、このフォーメーションでは、互いにスペースを消してしまうので浅野と上田にボールが収まらなくなった。縦パスも使えない。無理やり入れてボールを奪われるパターンが何度もあった。

 久保もチームにフィットしなかった。
 
 後半13分に新型コロナの陰性証明に時間がかかり、合宿への合流が遅れた久保が、トップ下に投入されたが、劇的に流れを変える原動力とはなれなかった。後半32分には久保が左サイド深くにボールを持ち込んだが、空いていた堂安へのパスを躊躇、結局、伊東を選択してゴール機会を失うシーンも。自分一人で何かを起こせるのが彼の武器である。右に開いたりもしていたが、もっと周囲との連携力を高めなければ、彼の良さが代表チームでは出てこない。総体的なバランスや全体に与える影響と守備への貢献度を考慮すると、現状ではトップ下として「西村の方が久保より上」というチーム内評価になっているのではないか。
 
 個の能力では、レアル・ソシエダで5ゴールをあげるなど存在感を示している久保が上なのだろうが、代表チームに入ると空回りする。彼自身も「もっとやりたいけどやれない」というもどかしさがあると思う。
 
 これは久保だけでなく、今回代表漏れしたセルティックの古橋や、この日、ボランチで起用された鎌田にも言えることだが、所属チームでは活躍できるが、代表に来ると別人のようになってしまう。森保ジャパンではまず守備が優先され、守備からの攻撃への展開というコンセプトがある。代表のスタイルに適応していかねばレギュラーは遠くなる。
 
 一方で、この試合で光った新戦力があった。左サイドのバングーナガンデ。所属するFC東京でのプレーよりも自由自在にいい動きをしていた。高い位置へ積極的に走り、三笘は、その動きに合わせて中へ、逆に三笘が外へ開くとバングーナガンデが中へ入るなど、2人のポジショニングが非常に機能していた。おそらく周りから「思い切ってやれ」と指示されていたと思う。左利きを生かし、ウルグアイ戦でチグハグだった三笘―伊藤の縦関係に比べるとコンビネーションの差があった。守備への課題や経験値の少なさなどクリアすべき問題はあるが、“ポスト長友”としての可能性を見せた。

 まだ第二次森保ジャパンが何をしたいかというサッカーは明確になっていない。名波、前田という2人の新コーチが加わったが、彼らの効果も見えなかった。現段階では、いろんな選手を起用して“化学反応”を見たかったのだとは思う。その方針は理解できる。
 
 2026年のW杯はアジアの出場枠が8.5に増え、アジア予選は勝って当然なのだから、今後も、あくまでも本番でのベスト8突破を意識して、どんどんいろんなメンバーを試してもらいたい。バングーナガンデの試合中の怪我で予定が崩れたのかもしれないが、半田らも使わなかった。セルティックの旗手や、浦和のボランチの伊藤ら、今後、招集してもらいたい面白い選手もいる。森保監督が勝利を欲しているのはわかるが、まだ焦る時期ではない。
 
(文責・城彰二/元日本代表FW) 



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