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「次に行ったチームでも絶対に日本人選手を獲る」

日本人選手と縁が深いホラーバッハ。(C)Getty Images

 21世紀に入ってから、シント=トロイデン(STVV)が一番強かったのは2001-02シーズン(8位)、02-03シーズン(6位)。一桁順位でリーグ戦を終えたのは他に09-10シーズン(5位)、18-19シーズン(7位)、21-22シーズン(9位)の5回しかない。そのうち2回は、DMMが運営に乗り出した5年内の出来事だ。
 
 現在、STVVの指揮を振るのは2シーズン目のベルンド・ホラーバッハ。昨季はスタートでつまづいて残留争いから抜け出すのに苦労したが、後半戦で見事なラストスパートを見せて9位の結果を残した。


 今季は26節を終えた時点で10位と健闘中。もし9位以上でフィニッシュすれば21年ぶりの2シーズン連続一桁順位になる。ホラーバッハ監督は今季いっぱいでSTVVを辞めることを発表しているが、求心力を下げること無くチームを引っ張っている。特に際立つのが守備力だ。29失点はリーグ内で3番目に良いスタッツである。

 規律正しいドイツ人指揮官、その要求に応える日本人選手の相性は良さそうだが、実際のところ、ホラーバッハ監督は日本人のことをどう思っているのだろうか? STVVの立石敬之CEOにストレートに切れ込んでみた。

「彼は本当に日本人が好きですよ。『次に行ったチームでも絶対に日本人選手を獲る』と言ってますし、『日本人のスタッフが欲しい』とも言っています。実際にスタッフを誘ったのも知っています。ホラーバッハが大きなクラブに行くんだったら、そのスタッフにとっても良いこと。私たちのプロジェクト(「ここから、世界へ」)にも合います。ホラーバッハ監督は日本人のことを本当に高く評価しています」


 昨季、STVVで活躍した原大智はこの1月、アラベスから期限付き移籍で復帰した。

「大智がSTVVに戻る前、あるドイツのクラブがホラーバッハ監督に『原大智はどうなんだ?』と聞いた。すると彼は『目をつぶって獲れ』と推薦しました。そのくらい日本人選手を高く評価している」

 ホラーバッハ監督と日本人選手の縁は2003年、ハンブルクに高原直泰が入団してから。当時、ホラーバッハはハンブルクの左SBだった。ヴォルフスブルクのコーチとして長谷部誠、大久保嘉人、シャルケのコーチとして内田篤人、ハンブルクの監督として酒井高徳、伊藤達哉と仕事をし、STVVの指揮官として9人の日本人選手と関わってきた。そして今は日本人のテクニカルスタッフ、メディカルスタッフの働きぶりも知った。

「ホラーバッハは(大久保)嘉人のことが大好き。ウォルフスブルクはグラフィッチ(28ゴールで得点王)、ジェコ(26ゴールでランキング2位)の2トップがすごかった。この2人のカウンターでブンデスリーガを制したんです。『嘉人にはかわいそうだったけれど、彼は本当にタレントだった』と言ってます」

「長谷部は先頭を走るんだ。トレーニングで見せる姿勢がいい」

 今夏、無所属の岡崎慎司が調整のためSTVVの練習に参加した。

「最初は獲得するつもりはなかったんです。『次のチームが決まるまで練習してもいいよ』ということでした。しかし、監督が気に入った。あれだけの実績もありますし、岡崎は頑張るじゃないですか。だから大好きなんです。彼の入団が決まってから、STVVは『岡崎+10』。監督が『俺がスタメンを決めるときは、岡崎をまず入れて、それから10人をゆっくり選ぶ』と言うんです。本当かと思いながらも、毎試合スタメンですからね。試合で疲れてフラフラし『もう代えてもいいのでは』と私が思っていても、なかなかベンチに下げない」

 ストライカーを本職とする岡崎は、STVVでMFを務めている。

「監督は長谷部、高徳、岡崎のことをべた褒めします。リーダーシップのある選手が好きなんです。どちらかというと言葉より背中で見せるタイプですね。彼がよく言うのが『長谷部は先頭を走るんだ。トレーニングで彼の見せる姿勢がいい』『岡崎は練習を全て100%でやる。その姿を見て若手選手が育つんだ』ということ。もしかしたら今の岡崎は全盛期の力はないかもしれない。それでも岡崎のメンタリティがチームに与える影響は大きく、ホラーバッハ監督率いるSTVVの象徴として岡崎を外すことはできない。だから『岡崎+10』なんです」
 
 このインタビューはちょうどJ1開幕戦、川崎フロンターレ対横浜F・マリノスの試合と時間が被っていた。横浜を率いるのはケビン・マスカット。昨季、横浜をJ1優勝に導いた采配、そのサッカーコンテンツの高さで評価を受け、今季も優勝候補だ。しかし、2020年夏から指揮を執ったSTVVでは結果を出せず、冬には解任されてしまった。日本で彼が成功した事実は、STVVは良い指導者を招聘したことの証明になるのではないか?

「彼が率いたSTVVは良いサッカーをしていた。あるメディアとランチをしたとき、私は『結果が出なかったからみなさんがどう思っているか知りませんが、ケビン・マスカットのときのサッカーが一番良かった』と言いました。また、辞めた後、選手はケビンのことを決して悪く言いませんでした。ケビンには悪いことをしたと、私は思います。メルボルン・ヴィクトリーでもマリノスでも優勝しているんですから、STVVでも成功させてあげたかった。うちにもっと潤沢な予算があったら、もっと彼も手腕を発揮することができたんでしょうけれど」 

「ベルギーのクラブは『日本人選手は堅い』と見ている」

 STVVの予算規模は18クラブ中12番目くらいと推測される。サポーターからは「プレーオフ1(リーグ優勝、欧州カップ戦出場権を決めるプレーオフ)は俺たちの悲願」と訴えられるが、今季は上位4チーム、来季は6チームに与えられるプレーオフ1行きのハードルは高い。

「今、ベルギーは8強で、どこが優勝するか分からない。彼らの予算はSTVVの2倍、3倍ある。18-19シーズンは7位で惜しくもプレーオフ1に行けなかったけれど、やり続けて思うのは選手個々の力の差が正直あります。今季はアンデルレヒトが苦しんでいる(26節終了時で9位)とは言え、冷静に一人ひとりの個を見ると質が高い。監督が個をうまく束ねてないだけなんです。しかし、STVVが監督で失敗すると苦戦する。うちは『選手はいるから監督を変えれば立て直すことができる』チームではない」
  
 資金力の差を補うのが日本人選手ということになる。

「STVVのストロングポイントはやっぱり日本人選手なんですよ。僕らが獲る日本人選手には外れがまず無い。ピッチの上には日本人選手が4人、5人いる。サッカーは11人でやるスポーツだから大きいですよね。だから日本人選手の補強で失敗することはできない。林は昨季7ゴール。今季もここまで(第26節時点)7ゴールだから、もっと数字が伸びるでしょう。このくらい得点を獲るアタッカーを獲得するのはお金がかかる。こうした選手の供給源が無くなると、STVVはキツくなると思います」
 
 日本人で半分近く固めたSTVVが毎年安定した成績を残していることによって、ベルギーの各クラブは日本人選手の利点に気づいた。

「私たちが運営し始めてから、STVVは1シーズンだけ残留争いをしましたが、安定して真ん中くらいにいるじゃないですか。それを見たベルギーのクラブは『日本人選手は堅い』と見ている。ユニオンで昨季、三笘薫が活躍しましたが、今は町田浩樹の評価が高いんです。オーステンデの坂元達裕、コルトレイクの渡辺剛、サークル・ブルージュの上田綺世はチームの主軸ですよね。怪我をする前はアントワープの三好康児も活躍した」

 以前、STVVにいたベルギー人のフロントは日本人選手に対する評価が低く、現在のクラブで働き始めたとき「俺は日本人選手を獲らない」と言っていたという。しかし、彼は今、積極的に日本人選手の獲得に乗り出している。この心変わりが、ベルギーリーグに於ける日本人選手に対する評価の変遷を示している

取材・文●中田徹 



















































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