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元豪州代表のコーチがアドバイス

スコットランドで躍動する前田。得点とアシスト、両方で二桁を目ざす。写真:元川悦子

 2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)で、グループステージのドイツ戦とスペイン戦、ラウンド・オブ16のクロアチア戦、それぞれのゲームで最前線で先発し、驚異的なスプリントと「鬼プレス」で相手を恐怖に陥れた前田大然(セルティック)。ご存じの通り、クロアチア戦では値千金のゴールも奪っている。


 その大仕事が勝利につながらず、ベスト8という新たな景色を見られなかったのは本当に残念だったが、松本時代の恩師でもある日本サッカー協会の反町康治技術委員長も「大然の2度追い、3度追いが『前から行くぞ』というメッセージになった」と、大会を通しての献身的な姿勢を高く評価していた。

 そんな前田だが、クラブでは昨年12月17日のアバディーン戦でスタメン出場し、いち早く今季の後半戦をスタート。それから早くも2か月近くが経過しようとしている。後半戦のゴールこそ3点にとどまっているが、今の彼は日本代表における“弾丸1トップ”とは異なり、「左サイドのチャンスメーカー」として異彩を放っているのだ。

 劇的な変貌の背景には、1人の恩人との出会いがあったという。
 
「ちょうど1年前にセルティックに来たんですけど、最初は全く仕掛けなかった。今季に入ってからも仕掛けやドリブルとか、そういうタイプじゃなかったんです。

 だけど、今季から来たコーチのハリー・キューウェルが『お前は足が速いのに何で仕掛けないんだ』『どうしてやらないんだ』と言い始めた。ワールドカップ前くらいから毎試合後、個人ミーティングを始めて、自主練も付き添ってもらうようになったんです。

 それからは自分も変わりましたね。『ミスしてもいいからどんどんチャレンジしろ』『とにかくいったん仕掛けろ。ムリやったら下げていい』みたいなことを言われるようになって、どんどんドリブルで打開するようになりました」

 キューウェルといえば、現役時代はリーズやリバプールで一世を風靡し、オーストラリア代表でも2006年ドイツ、2010年南アフリカの両W杯でも活躍した左利きのテクニシャン。打開力にも秀でたアタッカーだった。スプリント能力に長けた韋駄天FWをドリブラーに改造しようとしたのは、自身の経験値を踏まえてのことではないか。

 確かに「オフ・ザ・ボール」で勝負できるだけでなく、「オン・ザ・ボール」でも違いを見せられるようになれれば、前田は一段階、二段階、大きく飛躍できる。そう確信して、指導者になった元オーストラリア代表FWは新たなアプローチを試みたのだろう。

「僕自身、サッカーの見方が変わった」

 前田は、しみじみと言う。

「僕は今も英語はそんなに喋れないので、ミーティングもあんまりしたくなかったし、『サッカーもあんまり見なくていいや』というタイプやったんです(苦笑)。でもハリーと出会って、映像を見て、自分なりに意識するだけで、こんなにも大きく変わるんだと実感しましたね。

 ハリーも僕には簡単な英語で分かりやすく説明してくれますし、映像の内容も幅広い。単にドリブルで仕掛けた場面だけじゃなくて、前でのポジショニングや動き出しのタイミング、動くコースやゴールに至る過程など、ホントにいろいろ厳選された内容なんで、1試合フルで出ている時は結構な長さになります。

 それを試合ごとにやるので、すごく勉強になっている。僕自身、サッカーの見方が変わったし、改めてサッカーの奥深さを学んでいる段階ですね」

 2月1日のリビングストン戦でも、4-3-3の左ウイングに陣取った背番号38は、序盤から積極的にボールを受け、対面にいたデブリンに対し、スピーディかつ迫力あるドリブルを披露。一気に抜き去り、ゴールライン付近までえぐってマイナスクロスを上げるパターンを何度も繰り返していた。
 
 それによって1トップの古橋亨梧や左インサイドハーフの旗手怜央がビッグチャンスを迎えるシーンも少なくなかった。

 左SBテイラーの先制点、前田自身が泥臭く押し込んだ2点目も、いずれも左からの崩しが起点になっていた。それだけ左の前田は、三笘薫(ブライトン)顔負けの存在感と打開力をスコットランドで示しているのである。目を輝かせながら前田はこう語る。

「今まで仕掛けるっていうのを全くやってなかったんで、それこそ今、薫の映像やったり、他の左サイドの選手のドリブルを見たりするようになりましたね。この前もレアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオールのプレーを見たりとか、主に左サイドの選手ですけど、彼らがどういうふうに仕掛けているのかを気にしてチェックしています。それを練習で試してみることにもトライしています」 

森保Jでの可能性も広がる

 松本、水戸、マリティモ、横浜。前田が辿ってきたプロキャリアの中で、ここまで突破を求められたケースは皆無に等しかった。だからこそ、探求心を持って世界トップ選手を分析したり、フィードバックするようなこともあまり積極的にはしなかったのだろう。

 しかしながら、キューウェルという目のつけ所の異なる指導者の出現によって、前田は自分自身の新たな一面に気づき、その才能を懸命に開花させようと努力するようになった。もちろんW杯という世界最高峰の大舞台に立ったことも大きいが、こうした貴重な出会いと経験が、25歳になった彼を確実に変えようとしているのは間違いない。
 
「サッカーをすごく考えるようになったのは確かです。ワールドカップに一度出て、『また出たい』という気持ちも強くなった。だから、自然とサッカーのことを知りたいって気持ちが湧いてきたのかなと思います。

 ここからまだまだシーズンは続きますけど、今はアシストとゴールが両方とも6ずつくらいなので、どっちも二桁に引き上げたいですね。これまでの自分はゴールを二桁取ったとしても、アシストが全然ない選手でしたけど、どっちもできれば、アタッカーとしての幅も広がる。いろんな仕事ができる選手になれるように1日1日、1試合1試合を大事にしていきたいです」

 セルティックのリーグ戦は残り8試合。その間に着実に数字を上積みできれば、本人の理想とする領域に到達できるはず。それによって新たな前田大然像をより多くの人々に印象づけることができるし、日本代表の森保一監督もこれまでとは異なる起用法を考えるだろう。そういう意味でも今後が非常に楽しみだ。

取材・文●元川悦子(フリーライター) 


















































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