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 三笘薫の快進撃が止まらない。レスター戦での衝撃ゴールの次は、FA杯リバプール戦でアディショナルタイムに決勝点となるスーパーゴールを決めた。英メディアでも「今季ブレイクした選手」にピックアップされる25歳はなぜ最高峰のプレミアリーグで活躍できるのか。東大サッカー部監督・林陵平氏がNumberWebで解説する。


 2020年限りで現役を引退した林陵平氏は現在、東大サッカー部の監督業の傍ら、週末は豊富な欧州サッカーの知識量を生かした解説業でも人気を博す。専門チャンネルの試合解説を“はしご”するほど引っ張りだこの欧州サッカー通を唸らせるのが、センセーショナルな活躍を見せる三笘薫だ。「あっという間にプレミアリーグを代表するウインガーになっちゃいましたね」と進化を感じる理由はどこにあるのか。

「止まる技術」と「初速で相手を剥がす技術」
「シンプルにスピードが突出してますね。しかも、速いだけでなくそのスピードの使い方が本当に上手い。使い方というのは、『止まる技術』と『初速で相手を剥がす技術』の緩急です。それでいて、守備者のタイミングを外すのも上手く、スペースにボールを運ぶタッチも多彩だから、いくら世界最高峰のウインガーばかりを相手にしているプレミアリーグのDFだとしても仕掛けられた時に容易に飛び込めない。

 相手からすればファーストチョイスは“待つ”しかなく、三笘はそれを瞬時に感じ取ってポンとスペースに蹴り出し、かわしていく。あの間合いやテンポは独特ですし、フィニッシュへの意欲も高まっていて、アシストの質も高い。守備者は考えることが多すぎてストレスが溜まっているでしょう。(FA杯で途中交代したリバプールの右SB)アレクサンダー・アーノルドの『勘弁してくれ』と言っているような表情が物語っていましたよ(笑)。常に重心の逆を取られるから消耗も早かったはず。(シーズンが終わる)夏はオファー殺到でしょうね」

 英メディアでも「Kaoru Mitoma」の見出しが躍るなど、その存在感は日に日に増している。林氏は続ける。

「スピードやドリブルの部分は他でもたくさん語られていますが、個人的にすごくいいなと感じるのは、仕掛けるタイミング。『90分をデザインしている』と言いますか。三笘のようなドリブラーは、ボールを持ったらとにかく仕掛けるのが仕事。でも90分すべて1vs1の状況にはならないので、その他の時間にいかに種をまけるかが大事。その点、三笘は味方を使うのがとても上手いんです。試合の状況に応じて、左SBのエストゥピニャン(エクアドル代表)を使ったり、中盤のカイセドに預けたり。いいタイミングで仕掛けるセンスを感じます。本当に頭がいいウインガーですよ。全部仕掛けない分、パワーも残しておける。映像で目立つのはドリブルで仕掛けるシーンやゴールシーンですが、試合全体の駆け引きにも注目してもらえると三笘のスゴさがもっとわかると思いますよ」

三笘が「信頼を置きやすいタイプ」な理由
 仕掛けるタイミングに加えて、林氏は試合中の三笘の表情に注目する。

「攻撃的な選手は感情の起伏が激しいタイプが多い。もちろん、それがいいように働くシーンもあるんですけど、三笘の場合は常に冷静ですよね。淡々と仕事をこなすメンタリティがすごくいい。勝っている時でも負けている時でもブレがないのは、監督視点で考えても信頼を置きやすいタイプですね。振る舞いがいいです」

 振る舞い? 具体的にどういうことか。

「わかりやすいのは、顔つきですよ。表情やジェスチャーを見ればそのプレイヤーの精神状態はわかる。三笘はポーカーフェイスというか、相手からすれば何を考えているかわからないから怖いと思う。特にプレミアリーグとか世界のトップレベルは、わざと削ってイラつかせたりする駆け引きもある中で、(相手に)削られてもあまり感情的にならない。対峙したDFたちはきっと『こいつ変わらねえな』とか『厄介だな』という印象を抱いていると思いますよ」

三笘が生きる「ブライトンのメカニズム」
 こういった活躍の背景には、恵まれた環境に身を置いているという点を見逃してはならない。林氏が「試合を見て狙いがわかる。シンプルに今、一番面白い」と語るブライトンのサッカーにも目を向ける必要がある。

 ブライトンは今シーズン途中に、チームを上昇気流に乗せたポッター監督がコーチ陣と共にチェルシーへ電撃移籍。その後釜としてやってきたのが現在指揮を執る“イタリアのペップ”とも評される、デゼルビ監督だ。  

「ウイングの選手(攻撃の選手)が常に前を向いてボールを受けられることは、チームコンセプトとしてすごく重要。三笘や(右サイドの)マーチが生き生きとプレーできるのは、ブライトンのサッカーがしっかりと設計されている、デザインされているという何よりの証拠です。

 指揮官のデゼルビは、もともとビルドアップから攻撃の崩し方をしっかりとデザインする監督でした。就任当初は以前のサッカーを踏襲して3バックを敷いていましたが、サッスオーロ(セリエA/2018~2021)時代から4バックが主戦システムで、ずっと4-3-3や4-2-3-1を重用してましたね。だから、ウイングに求める仕事は確立してきたはずで、三笘に与えるタスクにも余計なものがなく、明確。どんな仕事でもそうですが、一気にたくさんの仕事を任されたら、何から手をつけるか一瞬考えますよね。サッカーは90分という限られた中で表現するスポーツ。その中でデゼルビは効率よく選手の特徴を引き出せる監督なのだと思います」

「三笘はストレスなく“前を向けている”」
 デゼルビ体制以後、チームの得点王だったベルギー代表FWトロサールは起用法に不満を持ち、この冬に冨安健洋が所属する首位アーセナルへ移籍した。キープレイヤーの放出という懸念を振り払ったのが〈救世主・ミトマの覚醒〉だった。

 ブライトンは2月2日時点で、リーグ6位。このままいけば“プレミアBIG6”に割り込み、17-18シーズンの昇格以降、最高位で終えるシーズンになる可能性が高い。ヨーロッパカップ、さらにはチャンピオンズリーグの出場権獲得も遠い夢ではない。躍進を続けるクラブを支えるベースとは、どのようなものなのだろうか。

「ブライトンのサッカーはわざと最終ラインでボールを繋ぐんです。そこで相手を前に吊り出し、そこから前線へつなげる。チームとしてどうプレスを回避し、前線の選手にいい形でボールを渡すか。デゼルビのサッカーがちゃんと絵を描けているから三笘はストレスなく前を向ける。守備のプレッシングの掛け方、攻撃のサポートの仕方や顔の出し方……試合を見てすぐに強くなることはわかった。今のブライトンはみんなで同じ絵を描こうとしている。好調なクラブの共通点だと思います」

ミトマ覚醒に欠かせない3人
 林氏は三笘の好調ぶりを語る上で、チームメイトの存在にも触れておきたいと語る。

「冒頭で『味方の使い方が上手い』と言いましたが、非常に優秀な選手に囲まれている中でプレーできていることも、選手としての“運”を感じますよね。特に三笘と同じタイミングでスタメン起用が増えた左SBのエストゥピニャンとの関係性。先日のFA杯リバプール戦でもありましたが、三笘がいい状態で1vs1を迎えると、必ずエストゥピニャンがサポートしている。オーバーラップ、インナーラップと状況に応じたサポートの質がいい。ただでさえ選択肢の多い三笘の可能性をより広げている印象です。デゼルビが描く絵に加えて、選手間での連動も素晴らしいですね」

 さらにゲームを作るボランチには、この冬にアーセナルが本気で獲得を目指したというエクアドル代表MFカイセド、そしてW杯優勝に貢献したアルゼンチン代表MFマクアリスターといった売り出し中のタレントが揃う。

「2人とも良すぎる。彼らの存在によって、三笘にボールが渡る前に“貯金”(=囮になったり、相手を引きつけるタメ)を作れるんです。攻守においてゲームをコントロールできる選手が中盤の底にいることは非常に大きいと思います」

日本代表では三笘をどう生かす?
 ここまで毎週のように無双ぶりを目撃している国内のサッカーフリークたちが気になるのは、世界で評価をあげる三笘を日本代表でどう生かしていくか。まさに「三笘を生かすサッカー」を展開するブライトンは、参考になるのだろうか。

「もちろん、あの活躍ですから誰が見ても『サブではもったいない』となるでしょうね(笑)。日本代表が次のステップに進むための課題として、ボールを保持した時、つまり主体的にどうゲームを支配していくか。ウイングで決定的な仕事ができる三笘や伊東純也にただボールを預けるのではなく、よりいい状態でボールを渡すことを考えないといけない。その点では、デゼルビのサッカーはいいサンプルになる。ただ、大事なのは机上の空論ではなく、それを落とし込む作業。代表とクラブは掛けられる時間も違いますし、それは決して簡単なことではありませんから」

「監督なら誰でも三笘を起用したい」
 近い未来、Jリーグでの指揮を志す林氏は目を光らせる。

「監督目線としては、あそこまで個で打開できるタレントがいると戦術の幅は広がる。自分が志すサッカーは根底にありますが、戦術は相手チームとの噛み合わせだけでなく、手元における選手の能力とのバランスが重要。だから、監督なら誰でも三笘のような選手は起用してみたいと思いますよ(笑)」

 毎週のようにSNSでトレンド入りする「三笘薫」の名前。さて、今週末はどんな驚きを与えてくれるだろうか。ブライトンは日本時間5日24時にホームでボーンマスを迎える。

(「欧州サッカーPRESS」NumberWeb編集部 = 文) 


















































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