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レスター戦で衝撃のスーパーゴールを決め、2週連続でプレミアリーグ週間ベストイレブンに選出された三笘薫(25歳)。三笘本人に、そしてブライトン地元紙の番記者に、ロンドン在住の筆者が聞いた。


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現地アナウンサー「なんて素晴らしいゴール」
「なんて素晴らしいゴール。まるで詩の様だ──」

 21日に行われたレスター対ブライトン戦で、三笘薫がスーパーゴールを決めた。左サイドでパスを受けると、カットインから右足を一閃──。ボールはファーサイドのゴール上に綺麗に吸い込まれた。

 プレミアリーグの試合をダイジェストで伝える英サッカー人気テレビ番組『マッチ・オブ・ザ・デイ』でもこのゴールが紹介され、英BBC放送のアナウンサーは「Poetry in motion from Kaoru Mitoma」と絶叫していた。直訳すれば「まるで一篇の詩の様な動き」。意味合いとしては「非常に優美なゴール」となるが、そんな表現がしっくり来る、実に美しいゴールだった。

 試合後、25歳のアタッカーは得点場面を次のように振り返った。

「余裕があった。リラックスできていたという感じですね。試合前の練習でフィーリングが良かった。あの形は常に狙っているんですけど、力が入りすぎて下に行くことが多かった。今日は力が抜けていて、いいところに行ってくれました」

 それにしても、三笘は勢いに乗っている。リーグ戦の直近4試合で3ゴールの大暴れ。地元ニュースサイトのサセックス・ライブは「対戦相手はこの男を止められない」と得点を重ねる三笘を高く評価し、プレミアリーグと英衛星放送スカイスポーツも日本代表をレスター戦のMOMに選んだ。プレミアリーグの週間ベストイレブンに2週連続で選出されたように、三笘の評価はイングランドでまさにうなぎ登りである。

 しかも三笘のゴールは、自身が挙げていた課題でもあった。前節のリバプール戦後、克服したい課題として指摘していたのが「シュート精度」と「状況判断」。この2つを「自分の足りないところ」と語り、次のように言葉を続けていた。

「精度を高めることと、逆に見えすぎてパスを出したり、(周囲から)シュートと言われて、 シュートを打ってしまうところがある。自分の判断でうまく自分の形を作っていければいいと思いますけど、まだそういう形がなかなかできていないので。そこは課題かなと思います」

 もちろんこの1試合だけで完全に克服できたわけではないが、シーズン序盤に比べるとファイナルサードでの怖さは格段に増してきた。その中での圧巻のゴール──。アタッカーは結果を重ねることで自信が増していくだけに、今後に向けてもレスター戦の得点は極めて大きな意味を持ちそうだ。

「監督との関係?」三笘が語るデゼルビ
 三笘が覚醒している理由として、真っ先に挙げられるのがロベルト・デゼルビ監督の存在だ。もちろん三笘自身が調子を飛躍的に上げていることや、W杯で経験した悔しさが糧になっていることもその理由に挙げられるだろう。だが一番の理由は、チーム戦術の中で三笘の個人能力が存分に生かされていることにある。

 少し乱暴な言い方をすれば、デゼルビ政権の肝になるのが三笘とソリー・マーチの両ウインガーだ。「いかに三笘とマーチが相手選手と1対1の状況を作るか。ここが我々にとって非常に重要なんだ」とイタリア人指揮官が語っているように、この2人が戦術上のキーマンなのだ。

 三笘にボールを届けるまでの過程も実に興味深い。デゼルビ監督のサッカーを端的に言えば、“後方部でボールを保持しながら、相手チームの選手たちをいかに前方へ釣り出すか”ということ。

「ビルドアップのやり方が決まっている。しかもそのバリエーションも多い」と三笘が明かしているように、最終ラインでボールをショートパスでつなぐことで、相手選手たちに前に食らいつかせる。そして、相手を前に引き出してスペースを作り、三笘のいるサイドに縦パスを入れる。このパターンを練習で繰り返しているという。ブライトンを率いる知将デゼルビについて、三笘は次のように語る。

「監督との関係? 戦術上、ワイド(=ウインガー)の選手は得点に絡まないといけないシステムなので、自分も得点の意識をより植え付けられていると思います。自分のオフザボールの動きも少しずつ改善できていると思う。そういうところで、いろんな刺激を受けています」

(監督と話をよくするのか? )ピッチの上だけですけど。ピッチ外では”10点決めろ”と言われています(笑)。ピッチ上では、状況によっての立ち位置と、とにかく自分がゴールを決める位置まで行くというところ。いろいろな決まり事があるので、その中で自分が動いているという感じです。(これまで指導を受けてきた監督たちとの違いは? )より具体的で、オートマティックです。それを全員が共有すれば、どんどんいい形でボールが回る」

 さらに三笘は、「チーム戦術」と「自身の役割」の関係性について次のように説明する。

「(今の活躍はプレミアに慣れたからか? ) いや、チーム次第なので。ブライトンがうまく後ろでビルドアップできているので、自分も前で力を使うことができる。そのおかげで、長所が生きていると思っています。これだけうまく後ろでビルドアップできるチームは、世界的に見てもなかなかないので。

(ブライトンはどこからでもゴールを奪えるイメージだが、こうしたこともビルドアップとすべてつながっているのか? ) もちろんです。後ろのビルドアップで、もう全てが決まっているぐらいのチームなので。その形は練習ですごいやっています。試合を見てもらえばわかると思いますけど、いろんなパターンがある。サイドバックのところで、うまくフリーを作ってというところもそうです。そういうところは、ほかのチームも参考になると思います。日本代表に落とし込めるところもあるかなと考えています」

 これまでも三笘は、「ブライトンはビルドアップの形が決まっている」との説明を繰り返してきた。ビルドアップから選手たちの動きを型にはめ、オートマティックに攻撃の形を作っているのだ。その中で、最終局面の決定的な仕事を託されているのが三笘なのである。

 振り返れば、レスター戦のスーパーゴールも、三笘が相手SBと1対1の状況になったことで生まれた。もちろん三笘のシュート自体も素晴らしかったが、チーム戦術としての狙いがこのゴールで結実したとも言える。

 そう考えると、三笘がここまで急速に活躍するようになったのは、やはりデゼルビ監督の存在が大きい。そして三笘自身も、結果を残すことで監督の期待に見事に応えているのだ。

地元紙記者「私も三笘の急成長に驚いている」
「三笘にとって監督交代が大きな転機になった」と語るのは、地元紙アーガスでブライトンの番記者を務めるブライアン・オーウェン氏である。丁寧な取材に定評のある同記者は次のように語る。

「レンタルで在籍したロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ時代も三笘のプレーを見ていたので、優れた選手であるのはわかっていた。ただ、ベルギーでもウイングバックをしていたし、グレアム・ポッター前監督の元でもその役割は同じだった。

 シーズン序盤がそうだったように、試合の流れを変える切り札として徐々に出場機会を増やしていくものと考えていた。ところが昨年9月にポッター監督がチェルシーに去り、後任としてデゼルビ監督が就任した。この監督交代が間違いなく転機になった。今の活躍は、本当に驚きでしかない。

 素晴らしいのは、試合に出場すると必ずインパクトを残すこと。一見細身のような体も、近くで見ると意外としっかりとしている。スピードは言うまでもないが、簡単には倒れないフィジカルの強さも大きな武器だ。私自身、三笘の急成長に驚いている」

「岡崎さんが歴史を作った」
 無論、三笘はさらに高みを目指している。ゴールに直結する仕事を担うブライトンでの役割について、本人は「このチームではできても、他のチームでできなかったら意味がない。ここでやるのは当たり前ぐらいの気持ちでやっていかないといけない」とし、貪欲にゴールを追い求めたいと力を込めた。

 対戦相手のレスターは7季前の2015-16シーズン、「奇跡のリーグ優勝」を成し遂げた。シーズン前は残留争いに加わると予想されていたが、下馬評を覆して白星を重ね、世界最高峰のプレミアリーグで頂点に立った。優勝時の写真は今もレスターの本拠地キングパワー・スタジアムのいたるところに飾られているが、その中には優勝メンバーとして貢献した笑顔のFW岡崎慎司もいる。そこで筆者はこんな質問をぶつけてみた。

「レスターにはかつて岡崎選手がいた。奇跡の優勝を成し遂げたチームだが……」。こう尋ねてみると、三笘は次のように答えた。

「岡崎さんが歴史を作った。やっぱりそういうことがあって、アジア人や日本人選手が受け入れられていると思う。他のアジア人選手が入っていけるように、僕もブライトンでどんどん結果を残していかないといけない」

 プレミアリーグで主役級の活躍を見せている三笘は今、ひょっとしたら日本サッカー界にとって新しい歴史の1ページを現在進行形で書き換えているのかもしれない。

 そんな期待を抱いてしまうほど、三笘はイングランドで眩しい輝きを放っている。はたして、どこまで登りつめられるか。

(「欧州サッカーPRESS」田嶋コウスケ = 文) 










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