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プレミアリーグ最大の危機

チェルシーの混乱、リヴァプールの苦戦、トッテナムの大問題……。今季のプレミアリーグでは様々な危機が叫ばれている。しかし、「本物の危機」は疑いようもなくたった1つだ。

エヴァートンのサポーターたちは、上記のクラブが抱える問題なんて今すぐに解決できるように感じているはずだ。チャンピオンズリーグ出場権獲得の危機? 6000万ポンドの左サイドバックがハマらない問題? 指揮官の3バックへのこだわり?「うるさい! そんなの屁でもない」。心からそう叫んでいるだろう。

プレミアリーグにおいて、エヴァートンほどの歴史を持つクラブはほとんどない。そんな彼らが歌うチャントに「俺たちは歴史を知っている」との一節があるが、「歴史を知っている」人ほどグディソン・パークがチームに敵対することはないと理解している。しかし、今のスタンドは不幸に包まれている。

エヴァートンは21日、残留争い中のウェストハムとの大一番を0-2で落とした。これで直近公式戦10試合で勝利なし(2分け8敗)。そして14日にホームでサウサンプトンに0-2で敗れた試合では、ファンと長らく続いてきた関係性が完全に、それも決定的なまでに崩壊していることが露呈したのである。

その日は、エヴァートンの取締役会(ビル・ケンライト会長、デニス・バレット=バクセンデールCEO、グラント・イングルス財務責任者、グレアム・シャープ非常勤取締役)が、安全とセキュリティに関する「現実的かつ確実な恐怖」のために来場を見合わせるというニュースで幕を開けた。そしてその後、地元紙『リヴァプール・エコー』に衝撃的なニュースが掲載。1月3日のブライトン戦(1-3)後にバレット=バクセンデールが身体的暴行を受けたこと、ケンライト会長が死の脅迫を受けていたことが報じられたのである。

サウサンプトン戦の敗戦後、グディソン・パークでは座り込みのデモが行われた。帰ろうとする選手たちは、スタジアムの外でファンに取り囲まれた。DFジェリー・ミナがファンと話し込む映像のほか、地元出身のアンソニー・ゴードンには「お前にはそのシャツを着る資格はない」とのチャントが向けられている。

このような見にくい光景は、当然のようにイギリス中の注目を集めた。だがこの時点では、座り込みの抗議の方は平和的に行われている。また月曜日、マージーサイド警察はサウサンプトン戦前にエヴァートン役員に対する脅迫や事件の報告がなかったことを確認する声明を発表。それだけは確認しておく必要もある。

危機の原因

なぜこんなことになってしまったのだろうか? エヴァートンは2016年以来、プレミアリーグでは6番目に投資を行っているクラブだ。そしてまもなく、マージー川のほとりに53000人収容の新スタジアムを開場させる。しかし、ファルハド・モシリ政権の下でクラブは停滞するどころか、大きく後退しているのだ。

今月初め、17のファングループは「クラブを継続的な衰退から救う」ために「取締役会および幹部レベルでの抜本的な改革」を行うよう、モシリオーナーへ向けた公開書簡を発表した。さらに今週、エヴァートン株主協会は取締役会の不信任投票を求めるオンライン署名活動をスタート。20日夕方の時点で約12000人の署名を集めている。

しかしモシリの反応は、良いものではなかったと言わざるをえない。エヴァートン・ファンフォーラムに当てた書簡やクラブ公式サイトに掲載された声明には、フランク・ランパード監督やケビン・セルウェルSDだけでなく、取締役会に対して改めて信頼を強調したのである。そしてその数日後には『talkSPORT』のインタビューで、サポーターが抗議する「民主的権利」を支持した一方で、監督の招へいに対するアプローチについてこう語った。「私ではなく、ファンによって行われたものだ」と――。彼が実験を握って以降、7年間で7人の監督が変わっているにも関わらずだ。

モシリはまた、クラブが大きく変化している時期にある今は「安定性」がカギになると主張した。

だが問題は、降格の危機が迫っている時、チームの衰退が止まらない時、そしてチームを改善するための資金がない時、果たして「安定性」を得られるのかどうか、だ。モシリは「口で言うだけでなく行動で示す」オーナーだと主張したが、彼の政権下でエヴァートンは信じられないほどの資金を浪費してきた。そしてその代償を今、支払っているのだ。

その失敗のリストは長く、見ていられないほどひどいものだ。各監督が自分のお気に入り選手たちを連れてきた。今のチームには、デイヴィッド・モイーズ、ロベルト・マルティネス、ロナルド・クーマン、マルコ・シウバ、カルロ・アンチェロッティ、ラファ・ベニテス、そしてランパードと、7人の監督たちの政権下で獲得した選手が混ざり合っている。あるソースはこの状況を「4つの違うジグソーパズルから作品を作るよう」と表現している。デレ・アリやモイーズ・キーン、アンドレ・ゴメスにジャン=フィリップ・グバミン、ハメス・ロドリゲスやアラン、セオ・ウォルコットにウェイン・ルーニーも……そのほとんどが成功したとは決して言えないものだ。

モシリはクラブの運命を変えることを約束して2016年に到着したが、彼の投資は無謀で、リターンは乏しい。昨年3月に発表された最新の決算では、1億2000万ポンド(約192億円)以上の損失を計上しており、過去3年間の損失総額は3億7000万ポンド(約594億円)以上と発表された。これはプレミアリーグのファイナンシャル・フェア・プレー(FFP)基準を大幅に超過している。昨夏にクラブで最も価値のあった選手であるブラジル代表FWリシャルリソンを売却したのは、このFFP規則を遵守するために強いられたものだったのである。それほどに状況は深刻だ。

そしてリシャルリソン売却で得た6000万ポンド(約96億円)で、6つのポジションを強化する必要に迫られた。昨季なんとか降格を免れたチームが、だ。当然、それはうまくいっていない。プレミアリーグ開幕20試合でたった3勝、得点はたったの「15」。すでに2つの国内カップ戦は敗退済み……もう降格待ったなしだ。

問題の本質

ウェストハムとの一戦に敗れたことにより、ランパード体制は終わりに向かうだろう。モシリは「軽率な決断」は必要ないと主張するが、彼のやり方は物事がある一定値に達した際に躊躇なく引き金を引くこと。1年半前のベニテスの時もそうしたし、クーマンやシウバもシーズン半ばに解任してきた。長期的なプランを下に招聘したにも関わらずである。

ランパードの勝率は、1997-98シーズンのハワード・ケンドール以来、エヴァートンの監督としては最低の勝率だ。たとえ一定の支持と同情をかけられているとしても、サポーターの不満は少なくないだろう。

だが、サポーターは気づいている。問題の本質は監督ではないということを。

ランパードの前に指揮を執ったベニテスとアンチェロッティは、いずれもチャンピオンズリーグ制覇を実現した名将だ。そしてシウバの手腕は今季のフラムを見れば一目瞭然。クーマンやマルティネスは代表チームでビッグネームを束ねており、アラダイスは人気こそないがプレミアリーグで長らく指揮を執ってきた監督である。ある関係者はこう言ってくれた。「彼ら全員が間違っているわけないだろう?」

一方でクラブ内部では、アカデミーや分析部門、スポーツ科学、フィジカルコンディショニングの部門での変化が確認できることも事実だ。セルウェルSDは自身の就任以来26人の人事を行い、経験豊富かつ専門的な人材を採用。スカウティングと補強戦略が明確になり、過去の失敗、特に再売却時に全く価値のない選手に資金を投じるという過ちを繰り返さないという意思を感じさせている。アマドゥ・オナナ(21歳)らはその新たなポリシーを示すものだ。

最後のファン頼み…

しかしそれ以上に、やはり必要なのはファンのサポートなのである。昨シーズン、一時は絶望的と思われた残留を達成できたのは、彼らのサポートとその影響力だったのだから。グディソン・パークには、これまで以上の声援が必要なのだ。

そのことが、今のクラブの現状のすべてを物語っているだろう。このクラブは少し前までは大きな夢を抱いていたのに、お粗末な判断や腐りきったコミュニケーション、無駄な投資によって、窮地に追い込まれた。そしてその挙げ句、長い間「裏切り続けた」ファンに救ってもらう以外に道がないのである。

再び降格の危機が迫るエヴァートン。今回こそは、チームもクラブもその戦いに向けた準備が整っていないように感じられる。これからの数カ月は、エヴァートン145年の歴史の中で最も重要な期間だ。

取材・文=ニール・ジョーンズ(マージーサイド在住記者) 










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