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 レアル・ソシエダの日本代表MF久保建英(21)が、W杯カタール大会後の初ゴールを決めた。本拠地レアレ・アレーナに14日(日本時間15日)、アスレティック・ビルバオを迎えた「バスクダービー」に先発した久保は今シーズン3点目を決めると後半15分にはPKを奪取。3-1の勝利に貢献してマン・オブ・ザ・マッチを獲得した。個人的には不完全燃焼に終わった初のW杯を糧に期待されてきたレフティーが覚醒のシーズンを迎えようとしている。


「すべてが狙い通りにいった」
 高度なテクニックと相手選手を手のひらで転がすセンス。スーパーゴールを決めるまでの7秒ほどの間に、久保がまばゆい輝きを何度も放った。
 ソシエダが1点をリードして迎えた前半37分。通算125試合のスペイン代表歴を誇る37歳の大ベテラン、MFダビド・シルバが敵陣の中央でボールを奪う。シルバと目を合わせた久保は次の瞬間、相手ゴールから離れるように左サイドへ走り始めた。
 試合後にスペインのテレビ局『Movistar Plus』のフラッシュインタビューに応じた久保は、シルバのスタイルを踏まえた上で、あえて左サイドに開いたと明かした。
「シルバ選手はスペースへ流すような深いパスを出すのが好きなので、そのつもりでちょっと外に離れながら、相手の裏へ抜け出すような位置を取りました」
 シルバが利き足の左足から久保へスルーパスを通す。以心伝心で開通させたホットラインに、久保は別の狙いも込めていた。インタビューでこう続けている。
「ボールが左に流れた分、相手が出てくると。なので、最初から股の間を狙うつもりでした」
 ビルバオのセンターバック、ダニ・ビビアン(23)が久保の突破を食い止めようと、慌ててポジションをスライドさせてくる。もっとも、自分から見て左側へ重心が偏っていたビビアンの体勢を含めて、すべてが久保の思い描いた通りの展開だった。
 シルバからのスルーパスに左足をワンタッチさせた刹那。ボールを止めるのではなく、やや開いていたビビアンの股間に通した久保は、スピードに乗ってビビアンの右側を通り抜ける。ペナルティーエリア内へ侵入するとともに、まだ記憶に新しいW杯カタール大会で対峙した相手キーパー、スペイン代表のウナイ・シモン(25)と1対1の状況を作り出した。
 ここで久保はシモンに対しても心理戦を仕掛けている。
「ああいう場面で僕たちは、ファーにボールを折り返すプレーを常としてきました。なので、相手キーパーにもそう思わせつつ、上手く騙すことができたと思います」
 実際にゴール中央、そして右サイドにはソシエダの選手が走り込んできていた。データがインプットされていた分だけ、久保がパスを選択するかもしれないとシモンも逡巡する。相手の思考回路を見越していた久保は、逆を突く形でニアを撃ち抜いた。
 利き足の左足から放たれた低く、鋭い一撃をシモンは見送るだけだった。 
 今シーズン3ゴール目。W杯カタール大会による中断からリーグ戦が再開されて3試合目で初めてネットを揺らした一撃を、久保は会心の表情を浮かべながら振り返った。
「本当にすべてが狙い通りにいきました」
 1カ月ちょっと前。久保は不完全燃焼の思いを胸中に抱いていた。
 サッカー人生で初めて臨んだW杯。自信を持って乗り込んだカタールの地で待っていたのは、ともに前半だけの出場に終わったグループステージのドイツ、スペイン両代表戦と、体調不良で欠場したクロアチア代表との決勝トーナメント1回戦だった。
 昨夏に加入したソシエダで、2トップの一角として新たな居場所を築きながら順調なスタートを切った。ゆえに久保はカタール大会へこんな青写真を描いていた。
「いまの状態ならば、自分を押し通せるくらいの個の力があるだろう、と。周囲からも認めてもらえるだろうと思っていました」
 しかし、実際にふたを開けてみればドイツ戦も、そしてスペイン戦も前半はボール保持率で大きく後塵を拝した。自陣で守備に忙殺される時間が続いた展開で、個の力を出す余裕すら与えられなかった。さらにクロアチア戦の直前に高熱でダウン。チームの力になれなかった大会を、久保は「半分は黒歴史みたいなW杯でした」と自虐的に振り返っている。
「よく言えばチームのために戦えたけど、悪く言えば自分のやりたいプレーができなかった。チームのタスクを実践しながら、もっと自分のプレーができると思っていたけど、そこまでの個の力がなかった。自分の見積もりが甘かったというか、勘違いしていた」
 もちろん、うなだれているばかりではない。捲土重来を期すための処方箋も、PK戦の末にクロアチアに屈した翌日の段階で久保はすでに思い描いていた。
「圧倒的な個の力がないと、厳しいものがあると思い知らされた。次のW杯で僕は25歳になっている。25歳ならば代表の中核になっている選手がどこの国にもいる。自分がそういった存在になれるように、大事なのは結果だと思って頑張っていきたい」
 幸いにも久保には、帰るべき最高の場所があった。
 FC東京からレアル・マドリードへ加入したのが2019年6月。EU圏外枠の問題もあって、久保はマジョルカ、ビジャレアルとヘタフェ、再びマジョルカと期限付き移籍を繰り返してきた。ラ・リーガ1部の舞台で武者修行を積む目的も込められていたなかで、久保は「シーズンごとにプレー環境を変えるのが辛かった」と苦悩も抱くようになった。
 スペインで4年目となる今シーズン。勝負をかけるためにもレアル・マドリードと決別する決意を固めた久保が選んだのは、ソシエダへの完全移籍だった。
 2018-19シーズンの途中から指揮を執るイマノル・アルグアシル監督(51)のもとで、2019-20シーズン以降は6位、5位、6位と上位をキープ。今シーズンもバルセロナ、レアル・マドリードに次ぐ3位につけるソシエダの攻撃的なスタイルが合っていると、前出の『Movistar Plus』のフラッシュインタビューで久保は嬉しそうに語っている。
「今シーズンはボール奪取にかなり集中している。ボールを失った直後に奪い返す動き、前線から奪う動きですね。相手陣地でのボール奪取、いわゆるハイプレスで僕たちはポゼッションフットボールを体現でき、攻撃的で強いチームでいられるんです」
 大活躍を演じる舞台も整っていた。
 ともにスペイン北部のバスク地方を本拠地とする、ソシエダとビルバオの激突は「バスクダービー」と命名され、100年を超える歴史と伝統を誇る。ホームのレアレ・アレーナも間違いなく熱狂的な雰囲気に支配される。久保は決意とともに目が覚めたという。
「今日を自分の日にしなきゃいけないと思って起き上がりました。チームは公式戦で6連勝していましたが、個人的に必要だったゴールを決められていなかったので」
 実際にゴールを決めた直後。ユニフォームを脱ぎ、ファン・サポーターのもとへ駆け寄って喜びを爆発させた行為に対して、久保は今シーズン初のイエローカードをもらっている。球際で強くいけなくなったその後のプレーを、久保は反省材料にあげた。
「少しクレイジーになりすぎた。もっと自分自身をコントロールしないと」
 それでも後半15分には、相手のアバウトなバックパスに反応。ゴール前へ抜け出して、背後から久保を倒したDFジェライ・アルバレス(27)の一発退場とダメ押しのPKを誘発した。文句なしのマン・オブ・ザ・マッチに輝いた久保に対して、地元紙『noticias de Gipuzkoa』は10点満点中で9点の高評価を与えた上で次のように称賛した。
「彼は止まらなかった。あらゆるところに姿を現し、素晴らしいランニングからゴールを決め、相手の退場とPKも誘発した。並外れた存在だった」
 もっとも、久保にとってビルバオ戦はすでに過去のものになっていた。自身の調子のよさを認めつつも、ソシエダにかかわるすべての人々へ感謝しながら「驕ることなく、チームの勝利のために常に貢献していきたい」と心身をリセットさせる作業も忘れなかった。
 冷静沈着な視線は、短期的には古巣マジョルカと対戦する日本時間18日未明のスペイン国王杯ラウンド16へ。中期的には2013-14シーズンを最後に遠ざかっているソシエダのUEFAチャンピオンズリーグ出場権獲得へ。そして長期的には圧倒的な個の力を身にまとって臨む、3年後にアメリカ、カナダ、メキシコで共催される次回W杯へ向けられている。
(文責・藤江直人/スポーツライター) 










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