スクリーンショット 2022-12-09 0.38.06

スポンサード リンク




 サムライブルーのベースキャンプ地であるアルサッドの報道陣控え室に、BTSジョングクの『Dreamers』が流れてきた。


「Look who we are, we are the dreamers(僕らが誰であるかを見て 僕らは夢を追う者)」という歌詞が胸に響く、カタールW杯の公式ソングだ。開会式の翌日、ヒジャブをまとったボランティアの女性から「アンニョンハセヨ」と笑顔を向けられ、「BTSが大好きなの。開会式は興奮したわ」と言われた。「私は日本人ですが、BTSは日本でも大人気ですよ」と返したことを思い出す。

 日本代表キャンプ地の報道陣控え室で音楽がかかり始めたのはグループリーグ第3戦スペイン戦の2日前から。隣接するピッチの声が聞こえないようにするためのカモフラージュの音で、スペイン戦前は『Faded』や『See you again』といった物静かな曲がかかっていた。『Dreamers』は悲願のベスト8へ挑戦する日本代表にピッタリだ。

高揚感に包まれた日本代表の前日会見
 練習に先立って行なわれた会見には森保一監督とフィールド選手最年長36歳の長友佑都が出席した。ベスト8への挑戦権を握った2人からは、高揚感や意欲を感じた。グループリーグ初戦のドイツ戦、第2戦のコスタリカ戦まではやや硬い感じのあった森保監督は、第3戦のスペイン戦から徐々にリラックスしている様子を垣間見せており、クロアチア戦前はそれが高揚感に転じているような様子だった。

 スペイン戦前に続いて軽快な言葉も飛び出した。

「長友さんに先に話されると自分のコメントがしづらくなるけど、良かったら長友さんが先に話してください」「クロアチアは色んな選手を知っているが、特に広島監督時代の(ミハイル・)ミキッチとは素晴らしい思いができた。彼から色んな情報が漏れないように……ジョークです」と言って会場の笑いを誘った。

 長友はドーハ入り後からのハイテンションをそのままキープしていた。「明日は最高の試合と最高の結果を得て、日本サッカーの歴史に黄金の1ページを刻む。必ず勝って、大きな声でブラボーと叫びたい」と熱いコメント。W杯で表現したいことを聞かれるとイタリア語で「勇気」「勇敢さ」を意味する「コラッジョ」という言葉を紹介し、サムライと刀のたとえを用いて「コラッジョ」の重要性を説明した。長友は世界のメディアを前に堂々とサムライ魂の神髄を説いた。

「サムライが戦いに行く時、いくら技術や武器を磨いても、いざ戦いになった時に敵を前にびびっていたら技術も武器も使い物にならなくなる。サッカーも同じ。戦術的なこと、技術的なことはもちろん大事だけど、いくらこの4年間でそれらを磨いてきても、いざW杯の舞台でビビってしまったら絶対に活かせない。この4年間に僕たちが磨き上げてきた戦術、技術を生かすためにも一番大事なのはコラッジョ。勇敢に戦う日本人の魂を世界中に見せたい」

クロアチア監督「その質問には答えません」
 ズラトコ・ダリッチ監督が率いるクロアチアは、日本と対照的に出席選手には若いDFヨシュコ・グバルディオル(ライプツィヒ)を選出した。グバルディオルはクロアチアのメンバー26人中2番目に若い20歳。「モドリッチやコバチッチに続いて自分が会見に出られて光栄です」と嬉しそうだった。

 全体的に余裕も感じさせながら質疑応答を続けていた2人だが、「今回のW杯ではクロアチア人女性ファンのイバンナ・ノールさんが大人気なので、彼女についてコメントをください」と求められた時はそろって困惑顔を浮かべ、ダリッチ監督は「その質問には答えません」と言い、グバルディオルも「私も答えません」とはねのけた。ノールさんとはクロアチア国旗柄の大胆な服装でスタンドから母国に声援を送っている女性ファン。肌の露出が多いため、戒律の厳しいイスラム教国家に対する冒涜だと批判も受けている。

「日本の森保監督がミキッチから日本の情報が漏れているかもしれないと言っていたが、ミキッチと話をしたか」と聞かれたダリッチ監督が、「いや、私たちにはスカウトも分析チームもいる」と否定する場面もあった。

運命のPK戦、日本は4人中3人が失敗し…
 こうして迎えた運命のクロアチア戦。日本は前半43分、森保ジャパンがずっと課題にしてきたセットプレーから前田大然がW杯初ゴールを決め、日本に今大会初の先制点をもたらした。右CKのチャンスで堂安律がショートコーナーを選択し、鎌田大地、伊東純也を経由してリターンを受けると、左足クロス。吉田麻也が右足アウトで落とし、前田が蹴り込んだ。献身的な鬼プレスで日本の勝ち点奪取に貢献してきた前田のゴールは取った時間帯も良く、チームを一気に活気づけた。

 CKで工夫を見せたことも、起点となった堂安のクロスも良かった。グループリーグ第2戦のコスタリカ戦では、日本のCKは5本あったがどれも単調。堂安も1本蹴っていたが得点には結びつかず、記者から「セットプレーはもう少しどうにかならないのか?」という趣旨の質問を受け、「逆にどうしたらいいと思いますか?」と目を一瞬とがらせていた。クロアチア戦では8本あったCKの多くがデザインされたものだった。

 後半はクロアチアの底力を見せつけられた。2点目を取りに行った日本は攻勢をかけながら試合を進めたが、後半10分、1本のクロスでやられた。右サイドの展開からロブレンがゴール前に鋭い右クロスを入れ、巧みにマークを外したペリシッチが中央で頭を合わせた。

 試合は1-1で突入した延長戦でも決着がつかず、PK戦へ。日本は4人中3人が失敗し、4人中3人が成功したクロアチアの前に屈した。

三笘薫は号泣した真っ赤な目で、気丈に答え続けた
 1番目のキッカーとして勇敢に手を挙げた南野拓実はGKに止められ、涙が止まらなかった。あまりの傷心にミックスゾーンでは立ち止まることもできなかった。2番手として蹴って止められた三笘薫は気丈に報道陣の質問に答え続けたが、その目は真っ赤だった。

 試合終了後、森保監督にねぎらわれて号泣していた酒井宏樹は、涙の意味を聞かれ「森保さんに感謝と申し訳なさがあった。何回も(代表を)やめようと思った自分を呼び戻してくれて、あれだけ信頼してくれた」と打ち明けた。

 酒井は、10月に急逝した元日本代表FW工藤壮人さんのユニフォームをカタールに持って来ていたことも明かした。

「彼と一緒にベスト8に行きたかったっていう気持ちももちろんある。彼の奥さんからもメッセージをいただいていて、僕らの活躍が少しでも勇気になって、少しでも元気になってくれればと思っていました。僕にそんな力はないけど、この26人にはすごい力があった。日本代表というチームで最低限のことはできたと思うので、また前を向いてやっていきたい」

 工藤さんとは柏レイソルの育成組織時代、小学生の頃からともにプレーしていた。2014年ブラジルW杯の時は工藤さんが惜しくも代表に選出されず、選出された酒井は当時、「彼には個人的にメールを送った。本当に悔しかったと思うし、メールを送るか躊躇したけど、すぐに返事が返ってきて、うれしかった。よりがんばらないといけないと思った」と話していた。今回、ベスト8には届かなかったが、大会中の負傷を乗り越えてクロアチア選手と対等以上に渡り合った頑張りはきっと届いているに違いない。

“現地最後の取材対応”で鎌田大地が語ったこと
 クロアチア戦から一夜明けた日本代表のベースキャンプ地では最後の取材対応が行なわれた。そこには大会前と違う感情を持つ選手の姿もあった。その1人が鎌田だ。これまで「僕にとってはクラブが特別。ビッグクラブでスタメンで出て、CL優勝を目指すことがサッカー人生の最大の目標」というスタンスを強調してきたが、W杯での4試合を終えて「クラブでの活躍が代表につながるという根本的な部分は変わらない。でも、代表に対する思いは間違いなく増えた。この4年間は自分が代表を引っ張っていけるような存在になりたい」と語った。

 ドイツ戦とスペイン戦に出場して勝ち点6に貢献したものの、発熱による体調不良でクロアチア戦を欠場した久保建英は、「ワールドカップは不完全燃焼だったので、パリオリンピックでもしチャンスをもらえるのであれば出たい。4年も待てない。アジアカップもある。代表で何かを成し遂げたい」と今大会中に沸き上がった思いを口にした。

 W杯という経験が彼らを新たな『Dreamers』にしていた。

(「サッカー日本代表PRESS」矢内由美子 = 文) 










スポンサード リンク

ブログランキング にほんブログ村 サッカーブログへ