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 FIFAワールドカップ・カタール大会のグループE最終戦が1日(日本時間2日未明)、ドーハ郊外のハリーファ国際スタジアムで行われ、日本代表がスペイン代表を2-1で撃破。ドイツ代表に勝利した初戦に続く歴史的金星で1位通過を決めた。開始早々に先制された日本は後半から戦法を変更。前線から激しくプレスをかけ続け、3分にMF堂安律(24、フライブルク)が同点、6分にはMF田中碧(24、フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が逆転ゴールを決め、その後のスペインの反撃を粘り強い守備で封じた。日本は史上初のベスト8進出をかけて、5日(日本時間6日未明)のラウンド16でグループE1位で前回ロシア大会準優勝のクロアチア代表と対戦する。

「前からどんどんプレスをかけていこう」
 誰が言い始めたのかはわからない。スペインに1点をリードされて迎えたハーフタイム。日本のロッカールームにいつしか、まったく同じニュアンスの言葉が響きわたるようになった。
「前からどんどんプレスをかけていこう」
 これまでの2試合と異なり、日本は前半のキックオフから3バックを選択。ボールポゼッションに長けたスペインを相手に、両ウイングバックも下がって[5-4-1]のブロックを形成する戦い方を選択した。ともに無得点の時間を、できるだけ長くする狙いが込められていた。
 しかし、開始早々の11分にゲームプランは崩壊してしまう。
 右サイドから放たれたクロスを何とかはね返すも、再びスペインのボールとなり、右サイドバックのセサル・アスピリクエタ(33、チェルシー)へいったん下げられた直後だった。
 MF鎌田大地(26、アイントラハト・フランクフルト)のマークが遅れ、ほぼフリーの状態でアスピリクエタにクロスを上げられてしまう。次の瞬間、ゴール前でもDF板倉滉(25、ボルシアMG)がFWアルバロ・モラタ(30、アトレチコ・マドリード)をフリーにしてしまった。
 モラタに頭で決められ、3試合連続で与えてしまった先制点。キャプテンのDF吉田麻也(34、シャルケ04)は「失点のシーンは、ちょっと甘かった」とこう続けた。
「一瞬の隙を突いてくるクオリティーは、ドイツもスペインもあると痛感しました」
 日本が前半に放ったシュートは1本のみ。8分にMF伊東純也(29、スタッド・ランス)が放ったそれは、ゴールの枠をとらえられなかった。スペインにパスを回され続け、反撃の糸口すら見出せないまま前半を終えた直後に、日本の選手たちを鼓舞する情報が入ってきた。
 同時間帯で行われているグループEのもう1試合で、ドイツが1-0でコスタリカをリードしていた。このままドイツが勝利し、日本が後半に追いついて引き分ければ、日本とドイツが勝ち点、得失点差、総得点ですべて並び、直接対決で勝っている日本が2位になる。
 ドイツが後半に追加点を奪わない保証はない。逆にコスタリカが逆転勝ちを収めれば、引き分けでも日本のグループステージ敗退が決まる。それでも、ロッカールームに戻ってきた日本の選手全員が「すごくポジティブな気持ちになった」と吉田は続ける。
「特にドイツ戦の経験もあって、1点差のままなら後半に必ずチャンスがあると」
 ドイツとの初戦は0-1で折り返した後半で、システムを[4-2-3-1]から[3-4-2-1]へ変え、さらに次々とアタッカーを投入した森保一監督(54)の積極的な采配が的中。30分に堂安、38分にFW浅野拓磨(28、ボーフム)が連続ゴールを決めて逆転した。
 しかし、ドイツ戦の流れを変えた3バックの封印を、スペイン戦では最初から解いていた。それでも日本は、まだ繰り出していない戦い方を引き出しのなかにしのばせていた。あうんの呼吸で共有された「前からどんどんプレスをかけていこう」が試合の流れを一変させた。
 前半と同じ戦い方ではらちがあかない。そして、スペインに敗れた時点で日本は終戦を迎える。後半開始わずか3分。バックパスを受けたスペインの守護神ウナイ・シモン(25、アスレチック・ビルバオ)へFW前田大然(25、セルティック)が猛然とプレスをかけた。
 シモンはぎりぎりで前田のプレスを回避し、左サイドバックのアレハンドロ・バルデ(19、バルセロナ)へつないだ。そのトラップ際に、伊東は狙いを定めていた。
「後半の立ち上がりは、相手のサイドバックまでプレッシャーをかけようと話していたので。特に左サイドバックにパスが入ったあの場面では、僕が見えていないと思ったので」
 右ウイングバックで先発していた対面の伊東へ背中を向ける体勢で、バルデはシモンからのパスをトラップした。瞬時に「取れる、奪える」とひらめき、一気に間合いを詰めた伊東のチェックにバルデはたまらずボールを失う。そして久保建英(21、レアル・ソシエダ)に代わり、後半からシャドーの位置に入っていた堂安の目の前にルーズボールが弾んだ。
 堂安が不敵に笑う。
「かなりというか、なぜあそこでフリーだったのかがわからないぐらいフリーだったので。あそこでフリーにさせると、堂安律という選手は危ないんですけどね」
 巧みなトラップから、堂安はフリーのままボールをペナルティーエリアの右角あたりまで運ぶ。次の瞬間、迷わずに利き足の左足を一閃。ニアを狙った強烈な一撃はシモンの左手を弾き、スペインゴールへ突き刺さった。ドイツ戦に続いて決めた同点ゴール。しかも昨夏の東京五輪準決勝で零封されたシモンから奪った一撃を、堂安は再び不敵なコメントとともに振り返った。
「相手がフワッと(後半に)入った雰囲気があったので、チャンスだなと思って一発振ろうと。それほど厳しいコースにも飛んでいないし、もっとすごいキーパーかと思っていました。ドイツ戦のゴールには『ただのごっつぁんだろう』という声もあって、うるさいなと思っていたので。それをこうして結果で黙らせてよかったですし、今日ぐらいは称賛してほしいですね」
 日本に傾いた試合の流れは、3分後にさらに激しさを増した。
 右サイドで伊東から田中、そして堂安とスムーズにパスがつながる。そして、堂安が右足でグラウンダーのクロスを放つ。スペインゴール前を斜めに横切り、ゴールラインを割るとみられたボールを、堂安とともに後半開始から左ウイングバックとして投入されていた三笘薫(25、ブライトン)が折り返す。最後は飛び込んできた田中が、右太ももの付け根のあたりで押し込んだ。
 主審は当初、三笘が折り返す前にボールがゴールラインを割ったと判断した。しかし、直後にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入。オンリーレビューの結果、ボールのほんの一部がゴールライン上にかかっていたため、インプレーでの逆転ゴールだと認められた。
「1ミリでも(ゴールラインに)かかっていればいいなと思っていましたし、(ゴールが)入った後は(自分の)足がちょっと長くてよかったと思いました」
 三笘がジョーク混じりにVARを待っていた約2分間の心境を振り返れば、川崎市立有馬中学校の一学年後輩であり、スペイン戦のMOMに選出された田中も続いた。
「最初の律のクロスに(スピードのある)大然君と薫さんが走っていったので、何とか残るんじゃないかなと信じて走り込んでいきました。気持ちで押し込んだとかではなく、あの位置に入り込んでいくのは自分がずっとやってきたプレー。それで上手く結果を残せてよかったです」
 逆転に成功してからは、前からのプレスがあるとちらつかせながら、前半と同じ[5-4-1]のブロックへ移行。時には体を張り、GK権田修一(33、清水エスパルス)のファインセーブも飛び出したなかで、スペインのパスワークを最後まで封じ込めた。
 勝利までの過程では後半23分に右太もも裏を痛めていた冨安健洋(24、アーセナル)を右ウイングバックで投入。同42分には右膝痛で先発から外れていたボランチ遠藤航(29、シュツットガルト)を送り出し、そのたびにドイツが4-2でコスタリカを下した一戦の経過を伝えた。特に遠藤は「絶対に引き分けは許されない」というメッセージとともに、チームに最後の力を与えている。
「ブロックを作ればドイツでもスペインでも崩すのは難しい、という分析もあったので」
 代表スタッフの分析が、自信という目に見えない力も与えてくれた。こう感謝した吉田は、W杯優勝経験国を連破してのグループEの1位通過を喜びながらも、グループFで2位に入った前回大会の準優勝国クロアチアと対戦する、5日(日本時間6日未明)のラウンド16をみすえる。
「僕たちの3試合を向こうも分析してくるなかで、分析のイタチごっこが始まる。さらにいい準備と分析をして、オプションを3つぐらいまで持っていかなきゃいけないんじゃないか」
 優勝候補のスペインからあげた逆転勝利に、堂安は「これで1戦目が奇跡ではなく、必然で勝ったと国民のみなさんに思ってもらえる」と胸を張った。しかし、世界を驚かせた快進撃も森保ジャパンにとっては通過点。まだ見ぬベスト8以降の扉を、4度目の挑戦で初めてこじ開けるために。チームは一夜明けた2日を急きょオフにあて、疲れ切った体につかの間の休息を与える。
(文責・藤江直人/スポーツライター) 










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