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FIFAワールドカップ・カタール大会、グループEの初戦が23日にハリーファ国際スタジアムで行われ、日本代表が優勝4回を誇るドイツ代表を2-1で撃破する世紀の大番狂わせを演じた。前半を0-1で折り返した日本は後半から3バックに変更。30分にMF堂安律(24、フライブルク)、38分にはFW浅野拓磨(28、ボーフム)と森保一監督(54)が投入したアタッカーが連続ゴールを決めて逆転した。決勝トーナメント進出へ最高のスタートを切った日本は、27日にコスタリカ代表との第2戦に臨む。

「今日という日を僕が迎えると、ここにいるメディアのみなさんのなかでも何人が思っていたのか」
 逆転ゴールを決めたヒーロー、浅野が一瞬だけ感極まりかけた。強豪ドイツを撃破した大番狂わせの余韻が残る試合後の取材エリア。落選したロシア大会後の4年間を問われた直後だった。
「今日という日を僕が迎えると、ここにいるメディアのみなさんのなかでも何人が思っていたのか、というのが正直な気持ちです。それでも僕を信じてくれてきた人のために僕は準備してきましたし、何よりも自分のために準備してきた。いま振り返っても『あの日にあれをしておけばよかった』というのはひとつもない。ただ、右膝を怪我してからはいろいろな声を耳にしたし、目にもしたけど、それらを無視してきて本当によかったと思っています」
 世界を驚かせたゴールは、1-1で迎えた後半38分に生まれた。
 自陣でMF遠藤航(29、シュツットガルト)が倒されて獲得した直接FK。ボールを拾ったDF板倉滉(25、ボルシアMG)が間髪入れずに縦へロングボールを蹴り込んだ。ターゲットになった浅野は、ドイツ戦前に公言していた2つのプレーを立て続けに実践した。
 ひとつは「アバウトなボールでも必ず前線で反応する」だった。果たして、オフサイドぎりぎりで抜け出した浅野はボールの落ち際を鮮やかにトラップ。追走してきたDFニコ・シュロッターベック(22、ボルシア・ドルトムント)の前方に走り込んで加速していった。
 浅野はドイツの絶対的な守護神、マヌエル・ノイアー(36、バイエルン・ミュンヘン)と1対1の場面になったら、どのような駆け引きを演じるのかという質問にこう答えていた。
「いま言えるのは、チャンスがあればどんな状態でも思い切ってシュートを打つということ。コースとか技術とかはいっさい関係なしに、気持ちで押し込もうと思っています」
 ペナルティーエリア内の右側へ侵入した浅野は、言葉通りに角度がない位置から迷わずに右足を振り抜く。ノイアーと右ポストの間の狭い空間を、強烈な一撃が完璧に打ち抜いた。
「最初はオフサイドかなという戸惑いもあったので、正直、決まった瞬間は喜べなかった。ただ、ゴールとわかってからは『やったぞ』という思いが最初に込み上げてきました」
 歴史を変えた一撃をこう振り返った浅野は、板倉がボールを蹴ろうとした瞬間に「パスが来る」とひらめいた。ともに9月に浅野は右膝の、板倉は左膝の内側側副じん帯を損傷。長期離脱を余儀なくされた日々で、所属チームでのリハビリを終えるとデュッセルドルフにある日本サッカー協会のヨーロッパオフィスへ日参。常駐しているトレーナーのリハビリも受けてきた。
「怪我をしてから滉とは意思疎通ができているんですよ。内側仲間というんですかね。毎日のように顔を合わせて、そのたびに『やれる』と励まし合ってきたので」
 W杯歴代2位タイの4度の優勝を誇る大国ドイツに、前半は圧倒され続けた。ドイツのボールポゼッションが8割近くに達する展開のなかで、攻撃を差配するトップ下の鎌田大地(26、アイントラハト・フランクフルト)の脳裏にはネガティブな思いが駆けめぐっていた。
「前半のまま試合が終わってしまえば、間違いなく僕のなかでワーストの試合になった。僕たちはドイツをリスペクトしすぎていたし、ボールを奪ってからもプレーを怖がっていたというか、臆病だった。本当に一生後悔するような試合内容だったと思っています」
 圧倒された理由は、ドイツが講じてきた日本対策にあった。
 日本が2-0で快勝した9月のアメリカ代表戦と、同じ[4-2-3-1]システムで臨んでくるとドイツは読んでいた。その上で1トップの前田大然(25、セルティック)を両センターバックが、鎌田をダブルボランチがしっかりとケアする戦い方を講じてきた。
 これでは前田と鎌田が横並びになって仕掛けるプレスを繰り出せない。ファーストディフェンスが効かず、ボールの奪いどころも定まらないから2列目以降も後手を踏む。鎌田をして「後ろに人数がいるだけで、ただ余っている状態になった」と言わしめた展開が続いた。
 加えて、ドイツの巧さも日本を混乱させた。左サイドバックで先発し、W杯通算で出場12試合目と日本人選手で歴代最多に躍り出たDF長友佑都(36、FC東京)が振り返る。
「相手も巧かったし、特にミュラーのポジショニングが非常にいやらしかった。そこへムシアラが世界トップレベルにある個人技で突破を図ってきたので、そこの対応への難しさがありました」
 トップ下のトーマス・ミュラー(33)が変幻自在に左右に流れ、長友の対面でセルジュ・ニャブリ(27)と、右サイドバックの酒井宏樹(32、浦和レッズ)の対面ではジャマル・ムシアラ(19、すべてバイエルン)と数的優位を形成。そこへ左右のサイドバックも絡んでくる。
 縦へのスピードを武器にするMF伊東純也(29、スタッド・ランス)も低い位置に下がり、左サイドバックのダビド・ラウム(24、ライプツィヒ)の攻撃参加をケアせざるをえなかった。しかし、必死の守りも前半33分に破綻をきたしてしまった。
 伊東と酒井がともにゴール付近の選手をケアした結果、ペナルティーエリアの左側に入り込んできたラウムをフリーにしてしまう。慌ててGK権田修一(33、清水エスパルス)が飛び出すも、ボールを後ろ向きに持ち運ぼうとしたラウムを倒してPKを献上してしまった。
 これをギュンドアンが確実に決める。日本の戦い方がまったくハマらない展開を考えれば、この時点で対策を講じてもよかった。しかし、森保監督は動かない。ピッチ上でも長友やキャプテンのDF吉田麻也(34、シャルケ04)が「2点目は絶対にやらない」と大声を張りあげる。
 前半途中で形を変えなかったのは、大声援で指示が正確に伝わらないおそれがあり、その場合はさらに混乱とピンチを招きかねなかったからだ。アディショナルタイムに決められたと思われたFWカイ・ハフェルツ(23、チェルシー)のゴールが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入でオフサイドとなって迎えたハーフタイム。森保監督が動いた。
 MF久保建英(21、レアル・ソシエダ)に代えてDF冨安健洋(24、アーセナル)を投入。中央に吉田、右に板倉、そして左に冨安を配した3バックの目的はしっかり守るだけではなかった。システムを[3-4-3]に変えることで、前線からの守備を機能させた。
 前田の背後に鎌田、伊東とシャドーを配置。マイボール時には前へ一列上がるラウムを除いた3人でビルドアップを図るドイツを前田、鎌田、伊東の同数でケアする。日本が戦い方を一変させた後半を、左ウイングバックに回った長友は効果てきめんだったと振り返る。
「相手の方がけっこうあたふたしていた。日本が戦術を変えたのがすべてでしたね」
 ペースを握り返し始めると、森保監督はさらに動いた。
 後半12分に長友に代えてMF三笘薫(25、ブライトン)を、前田に代えて浅野を投入。三笘はそのまま左ウイングバックに入った。さらに26分にMF田中碧(24、フォルトゥナ・デュッセルドルフ)に代えて堂安を、30分には酒井に代えてMF南野拓実(27、モナコ)を投入した。
 最終的には左に三笘、右に伊東とウイングバックにドリブラーを配置。鎌田がボランチへ一列下がり、シャドーに南野と堂安が入る超攻撃的な布陣で30分の同点ゴールが生まれた。
 左サイドに開いた三笘が、敵陣で得意とするカットインを仕掛ける。そして、ペナルティーエリア内の左側へ侵入した矢先にスルーパスを供給。抜け出した南野がワンタッチで中央に折り返し、ノイアーが弾いたところを抜群のタイミングで飛び込んできた堂安が押し込んだ。
「ゴールを決めた直後は、頭のなかが真っ白になったというよりは、意外と落ち着いていましたね。何も考えずに『ごっつぁんです。ありがとう』という感じでした」
 2019年1月のアジアカップ以来、約3年10カ月ぶりに決めた代表通算4点目を冷静に振り返るとともに、語気をやや強めながら胸中に抱いてきた思いを明かしている。
「流れがちょっとずつ日本に来ているなかで、僕がヒーローになると思ってピッチに立ちましたし、そのためのイメージトレーニングをこの4、5日間ずっとホテルでしていました。ヨーロッパ勢がアジアをなめているところがあったし、僕が所属するフライブルクでも『ドイツ、余裕だね』などと言われていたので、ふざけるなと思っていました」
 後半からははるばる訪れた日本人サポーターに加えて、ドイツ人を除いた外国人観戦者も日本を後押しするようになった。今大会の目玉でもある、冷房設備が整ったハリーファ国際スタジアムをヒートアップさせた展開を鎌田は独特の表現で受け止めている。
「自分たちが勇気を持ってプレーすることで、スタジアムの雰囲気も変わっていったのかなと」
 森保監督が初めて見せたといっていい、相手チームに先駆けた、かつ超攻撃的なシステム変更と選手起用。そのなかで隣同士の形でベンチに座りながら、1点ビハインドの状況が続く展開に「このままならいける」と異口同音に話していた南野、堂安、浅野がゴールに絡んだ。
 日本のW杯通算6勝目を初めての、森保ジャパンとしても約3年10ヵ月ぶり3度目の逆転劇でもぎ取った。W杯史上に残るジャイアントキリングを成し遂げた日本は、チームの雰囲気を含めてまさに最高の形で、初戦でスペインに0-7で大敗したコスタリカとの第2戦を27日に迎える。
(文責・藤江直人/スポーツライター) 










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