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J2のFC町田ゼルビアは24日、来シーズンの新指揮官に青森山田高の黒田剛監督(52)が就任すると発表した。町田は同日、オーナーを務めるサイバーエージェントの藤田晋代表取締役社長(49)が、12月1日付で代表取締役社長兼CEOに就任する新体制も発表。サイバーエージェント色がより鮮明に打ち出されるなかで、青森山田高を全国屈指の強豪校に育て上げた、高校サッカー界の名将を招へいするサプライズ人事で悲願のJ1昇格を目指す。過去に布氏の例はあるが高校監督からダイレクトのJクラブ監督は初トータルで4年間指揮を執ってきたランコ・ポポヴィッチ監督(55)の退任をすでに発表していた町田が、今シーズンの全日程を終え、一夜明けた24日に新たな体制を発表した。来シーズンの指揮を託されたのは、昨年度の第100大会を含めて、全国高校サッカー選手権を3度制した青森山田高の黒田監督。1995年から率いてきた同校を全国屈指の強豪に育て上げた高校サッカー界の名将は、クラブを通じて第一声をファン・サポーターへ届けている。「約30年間、高校サッカーというステージで精一杯頑張って参りましたが、この度FC町田ゼルビアから大変魅力のあるオファーをいただき、新たな挑戦ができることをとても嬉しく思います」ある意味でサプライズ人事といっていい。高校サッカー界からJクラブ指揮官への転身では、1984年に赴任した市立船橋高(千葉)を強豪校に育て上げ、4度の全国高校サッカー選手権優勝に導いた布啓一郎監督(61)がザスパクサツ群馬、松本山雅FC、FC今治の監督を務めたケースがあげられる。もっとも、布氏は2003年に市立船橋高を退職。U-16およびU-19日本代表監督や日本サッカー協会(JFA)の技術委員、ユースダイレクターなどを歴任した後の2015年にJ2ファジアーノ岡山のコーチに、さらに2018シーズンには当時J3だった群馬の監督に就任した。高校サッカー界からいきなりJリーグへ、しかも監督として移籍するのは初めてのケースとなる。青森山田高で保健体育科教諭と主幹教諭も務める黒田監督は、町田を通じて発表したコメントのなかで、自身が紡いできたキャリアについて次のように言及している。「私はこれまでプロの指導者としての経験がなく、私の就任について不安を感じられることもあるかもしれません」青森山田高では堅守速攻をベースに、敵陣へ攻め込んでスローインを得れば、次々とロングスローを投げ込む愚直な戦いを徹底した。毎年入れ替わる高校生たちのなかから、ロングスロワーに耐えられる筋力や地肩の強さをもった選手を見つける作業も欠かさなかった。もっとも、プロの世界でロングスローはめったに見られない。というよりも、通用しないといっていい。ならば堅守速攻以外に戦術の引き出しはあるのか。そうした懐疑的な視線を向けられるとわかっているからこそ、コメントのなかであえて「不安」と言及したのだろう。プロ選手の経験がない指揮官とJリーガーたちの関係も、不安視される材料のひとつになるかもしれない。先駆者的な存在となった布氏も、現時点で成功を収めたとは言い難い。プロ監督としての布氏の戦績を振り返れば、群馬では2年目の2019シーズンにJ3リーグの2位へ導き、2シーズンぶりとなるJ2昇格を決めた。しかし、J2の松本山雅を率いた2020シーズンは9月に、J3の今治を開幕後の5月から率いた昨シーズンも9月に、ともに成績不振の責任を取る形で解任。今シーズンは関東サッカーリーグ1部のVONDS市原FCの監督を務めている。布氏は2000年に、黒田氏は2006年にJFAが発行する公認指導者ライセンスのなかで、Jクラブの監督を務めるのに必要な最上位のS級コーチライセンスを取得している。監督就任にはいっさいの支障はなく、あとはプロ指揮官として結果だけが問われてくる。52歳での転身へ向けて黒田氏が抱く覚悟と決意は、コメントのなかにも反映されている。「ただ、長きに渡り培ってきた『勝者のメンタリティ』はどのカテゴリーであっても、失われるものではないと信じております」黒田氏が自負を込めた「勝者のメンタリティ」とは、高校生年代の子どもたちに徹底させてきた勝利至上主義と同義語となる。妥協を許さないイズムがJリーグ仕様となって形を変え、今シーズンは15位に甘んじたチームを変えていった先に町田も悲願のJ1昇格を託す。市民クラブとして歩んできた町田の歴史は、サイバーエージェントが経営権を取得し、藤田氏がオーナーに就いた2018年10月を境に大きく変わった。12月1日付で町田の代表取締役社長兼CEOに就任が決まった藤田氏も、クラブを通してコメントを発表している。「2018年にサイバーエージェントが経営に参画してから4年が経ちました。この間にスタジアム、練習場、クラブハウスと、J1で戦える体制はもう整っています。(中略)今後はこれまで培ってきたゼルビアらしさを大切にしつつも、よりスピードアップ、スケールアップをしていくつもりです」資金面の問題もあり、市民クラブ時代はなかなか手がつけられなかったハード面を4年で整えた。今後はオーナーが社長も兼ねる新体制でソフト面、すなわちトップチームの体制を強化する。J1参入プレーオフに進出できる6位以内に入れる可能性が消滅した9月末に、契約満了に伴うポポヴィッチ監督の退任が発表されたなかで、後任として白羽の矢を立てられたのが黒田氏だった。青森山田高は1997年度から、25大会にわたって全国高校サッカー選手権の出場を継続している。2016年度大会で悲願の初優勝を果たすと、2度目の頂点に立った2018年度から4大会連続で決勝に進出。今年1月10日の決勝でも大津(熊本)に4-0で快勝した。徹底して勝負にこだわる采配だけでなく、教え子からはMF柴崎岳(30、レガネス)やDF室屋成(28、ハノーファー96)らの日本代表選手を輩出。今春に旅立った選手でもMF松木玖生(19)がJ1のFC東京でレギュラーを獲得し、MF宇野禅斗(18)は町田に所属している。育成の手腕をも見込まれた黒田氏はコメントで「これからは、FC町田ゼルビアの勝利のために全力を尽くす所存です」と決意を綴り、さらに次のように続けている。「皆様の想いは『J1昇格への道』にあると思っています。クラブ・選手・スタッフが一丸となり『夢(J1昇格)実現』のために、自分自身の全てをチームに還元し、ファン・サポーターの皆さまと一緒に喜びを分かち合う瞬間の実現を心から願っています」黒田氏の挑戦は、ポジティブなメッセージとなって発信される。制度上ではS級コーチライセンスを取得していれば、Jクラブの監督を務められる。さらにライセンス自体は、プロ選手としての経験がなくても取得できる。しかし、S級コーチライセンス取得者のなかで監督を務めているのは、ほとんどが元プロ選手となっている。例外が先のYBCルヴァンカップで準優勝したセレッソ大阪の小菊昭雄監督(47)であり、来シーズンのJ1昇格を決めている横浜FCの四方田修平監督(49)となる。小菊監督のセレッソにおける最初のキャリアは、下部組織コーチのアルバイトだった。叩き上げとして実績を積みながら、昨夏からトップチームの指揮を任された。順天堂大時代に指導者を志した四方田監督は筑波大大学院でコーチ学を学び、日本代表のスカウティング担当などをへて2015シーズンにJ1の北海道コンサドーレ札幌監督に就任。今シーズンから横浜FCを率いている。現役時代のキャリアだけでなく、指導者として歩んできた実績が評価される。Jクラブの監督へと通じるルートがさらに大きく広がっていく意味でも、高校サッカー界からダイレクトで転身する黒田氏の成否を注目するアマチュア指導者は少なくないはずだ。プロ指揮官として新たな一歩を踏み出す前の黒田監督に率いられる青森山田高は、12月28日開幕の第101回全国高校サッカー選手権での26大会連続28度目の出場と、2大会連続4度目の日本一を目指して、向陵高と対戦する11月3日の準決勝から青森県大会に登場する。(文責・藤江直人/スポーツライター)
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