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 Jリーグの試合で、あるサポーターの取った行動が称賛を呼んでいる。2022年10月8日のJ1・FC東京対湘南ベルマーレの試合中、湘南サポーターの少年がスタジアム内で転倒して負傷。これに対戦相手のFC東京のサポーターが気付き、少年の救助にあたった。


 少年の母親がつづった感謝の投稿がツイッターで拡散され、FC東京の監督もサポーターの行動を「誇りに思う」とコメントするなど、サッカーファンの間で話題になった。少年の救助に関わった男性は、取材に「当たり前の事をしただけ」と話す。

 そして、助けられた少年には、ただの湘南サポーターではない「意外な一面」があった。

■「ベルマーレ勝ってるよ」

 10月8日、おのめぐみさん(@ono_megu)は夫と2人の子どもと一緒に、FC東京の本拠地・味の素スタジアム(東京都調布市)で行われた試合を観戦していた。一家は湘南のサポーター。試合は0-0で迎えた後半30分台に湘南が2得点し、勝利を目前にしていた。

 このとき、めぐみさんの息子・楓くん(当時10)はトイレに行っていた。しかし、試合終了が近づいても、なかなか戻ってこない。心配になっためぐみさんの夫が探しに行くと、痛みのあまり階段で動けなくなっていた楓くんが、複数のFC東京サポーターに助けられているところを見た。サポーターの中には、看護師の姿もあったという。

 めぐみさんは、楓くんがトイレから戻る際に転倒してしまったと説明する。3点目が入るかもしれないと、急いで階段を登ってしまったのだという。めぐみさんは13日、J-CASTニュースの取材に、夫から聞いた救助の状況などを、こう説明する。

「打撲で痛くて動けない状態の時に、『どうしたの?』『大丈夫?』などと声をかけていただいたり、車椅子の手配や救護室への案内、チームドクターへの連絡などしていただいたようです。また、看護師の方に『どこぶつけたの?』などと診ていただいたようです。合間に『ベルマーレ勝ってるよ』と声をかけてくださった方もいました」

 楓くんは幸い大怪我には至らず、軽い打撲程度で済んだという。夫は周囲のサポーターに「ありがとうございました」とお礼を言い、めぐみさんはFC東京に感謝のメールを送った。しかし、もっと改めてFC東京サポーターに感謝を伝えたいと、10日、自身のツイッターで今回の経緯を投稿。最後に、こうつづった。

「FC東京サポーターや関係者の方々にお気遣いいただき、私達家族は感謝の気持ちでいっぱいです。クラブにはお礼のメールをしましたが、FC東京サポーターの方々に少しでも感謝の気持ちが伝われば幸いです。FC東京サポーターの方々、本当にありがとうございました」

敵将にも届いた感謝の声
 この投稿に、FC東京サポーターからは「怪我はありませんでしたか?」「来年も味スタに来てください」などと気遣いや励ましの声が相次いだ。他クラブのサポーターからも「うるっときた」「スポーツの力ってすごい」などの声が聞かれ、サッカーファンの間で大きな話題を呼んだ。

 声は、思わぬところにも届いた。FC東京のアルベル・プッチ・オルトネダ監督が11日、ツイッターでこのツイートを引用する形で、日本語でこうつづった。

「私たちはこのスポーツを愛するサッカーファミリーです。敵味方関係なく人として大切にしたい価値観を常に持ち続けたいですよね。今回の行動を取ったサポーターの方々を私は誇りに思います。カエデくんの回復を心からお祈りすると共に、FC東京チーム一同、カエデくんにたくさんの元気と愛を送ります」

 めぐみさんによれば、投稿にFC東京サポーターから寄せられた声は、楓くんを気遣う声がほとんどだったという。アルベル監督からの反応には「まさかお言葉をいただけると思っていなかったので、恐縮しております。温かなメッセージをいただき、大変感激いたしました」と振り返る。

 めぐみさんは「息子はたぶん心細かったと思うのですが、声をかけてくださったり、いろいろ対処してくださったりしたことに深く感謝しております」「試合中は敵ですが、試合後は対戦相手をリスペクトする。改めてサッカーというスポーツの素晴らしさを感じました」と、改めてFC東京サポーターへの感謝を口にする。

 助けられた楓くんも「痛くて動けなかったときに、親切にしてくれてありがとうございます」と感謝の思いを口にしているという。

「対戦相手だろうと、何も関係ありません」
「当たり前の事をしただけです。目の前で倒れて苦しんでいるのは、対戦相手だろうと、何も関係ありません」

 13日、J-CASTニュースの取材にこう話したのは、当日、試合のボランティアとして活動していたFC東京サポーターの小松久仁さん。福島市のスポーツボランティア団体「うつくしまスポーツルーターズ」の理事を務め、応援するFC東京でも長年ボランティア活動をしてきた。

 当時、小松さんはスタジアムでのボランティア活動を終え、ボランティアの待機テントに戻るところだった。その際、近くのトイレで転んでいる楓くんを発見した。すぐに駆け寄り声をかけたが、よほど痛みが強かったのか「声を出すのもやっとの状態」だったという。

 至急、他のボランティアスタッフに、医務室と警備員に連絡するよう依頼。小松さんは楓くんから、名前や同行者、痛い箇所などを聞いていた。そこにたまたま看護師夫婦が通りかかったため、怪我の状態を確認してもらった。その後、楓くんのお父さんと車椅子を持参した警備担当者が駆けつけ、医務室へと搬送した。

 楓くんの怪我は「本当に心配でした」と話す小松さん。軽傷だったと知り「元気に帰れたとの事で一安心しました」と胸を撫で下ろした。

 福島県いわき市在住の小松さん。2000年代初めからFC東京を応援してきたが、11年3月11日の東日本大震災で東京から来たボランティアの人々に心を打たれ、FC東京のボランティア活動に加わった。16年から「うつくしまスポーツルーターズ」の会員となり、現在は理事として関東・東北エリアのボランティアを担当。19年からは、いわきFC(現J3所属)のボランティアとしても活動している。

 小松さんは「サッカーに限らず、スポーツ全般で今回と同様の事があると思っております。何かあっても対応出来るように、救急救命講習なども受講しております」と話す。今回の救助で「少しでもお役に立てたことを嬉しく思います」としつつ、「同じサッカーサポーター、ボランティアとして、当然の事をしたと思っております」と話した。

楓くんはベルマーレの「選手」だった
 実は助けられた楓くんは、ただの湘南ベルマーレのサポーターではない。ベルマーレの「選手」なのだ。

 実際にクラブ公式サイトのトップチーム選手一覧ページを覗くと、東京五輪U-24代表で活躍したGK谷晃生選手や元日本代表のMF米本拓司選手ら主力選手の中に、「47 小野楓」の名前が刻まれている。

 10月12日に11歳の誕生日を迎えた楓くんは、長期の治療が必要な小児慢性疾病を抱えている。

 湘南はNPO法人Being ALIVE Japan(東京都世田谷区)が実施する、長期療養児がスポーツチームの一員として活動する「TEAMMATES事業」に19年から参画している。めぐみさんは「病気によってできなくなったこともありますが、今できることを楽しく頑張ってもらいたい」という思いで応募。楓くんは同事業の3人目として、22年4月に湘南への「入団」を果たした。

 同クラブの選手には一人ひとり漢字四文字の「キャッチフレーズ」がついているが、楓くんにも「新緑乃楓」(しんりょくのかえで)というキャッチフレーズが与えられた。楓くんは試合前のイベントブースを手伝ったり、選手と一緒に試合勝利後のスタジアム挨拶や「勝利のダンス」を行ったりと、様々な活動をしている。月に1回、チームの練習に参加することもある。

 楓くんを救助した小松さんは当初、楓くんが「選手」だとは知らず、そのことを後から湘南サポーターの友人に教えてもらったという。自身も年に数回、湘南に行く機会があるとし、その際は「病気と闘い、頑張っている楓くんを応援したい」とした。

 楓くんの契約は今シーズンまで。めぐみさんは「卒団後もベルマーレの応援を精一杯していきます。来年以降もおそらくTEAMMATES活動による入団者がいると思いますので、その入団選手の応援もしたいです」とした。

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介) 










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