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 女子日本代表は来年7月、ワールドカップに臨む。大舞台を目指して、今月には強化試合を行った。その2試合では、新たなトライが行われた。なでしこジャパンが導入した新フォーメーションの光明と課題を、サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。


■男子も苦しんだ3バック習得
 男子日本代表でも、年齢制限のないフル代表ではスリーバックはなかなかうまく機能しない。

 かつて、アルベルト・ザッケローニ監督もヴァイッド・ハリルホジッチ監督もスリーバックに挑戦したことがあったが、結局、うまくいかず、短期間でフォーバックに戻すことになった。

 スリーバックというのは戦術的な決まり事が多く、様々なバリエーションがあるので、一緒にトレーニングする時間が少ない代表チームにとっては難しいオプションなのかもしれない。

 男子日本代表の森保一監督は、かつてサンフレッチェ広島を率いてJ1リーグを3度制覇した時には前任者であるミハイロ・ペトロヴィッチ監督から引き継いだスリーバックで戦っていたので、代表監督就任当初は代表でもスリーバックを採用するのではという予想もあった。

 実際、東京オリンピックを目指すチームでは、2017年のチーム(当時のU-20代表)立ち上げの時期からスリーバックを採用していた。

 だが、ロシア・ワールドカップの後、フル代表監督を兼任することになってからはフル代表ではフォーバックを採用。2019年までは、基本的にはオリンピック・チームはスリーバック、フル代表はフォーバックで戦っていた。

 そして、その後、オーバーエイジの組み込みが行われて、2021年のオリンピック本大会ではフル代表と同じ4-2-3-1で戦うことになり、東京オリンピック終了後も森保監督はフル代表ではスリーバックを採用していない。

 9月のアメリカ戦ではシステムは4-2-3-1に戻り、リードして迎えた後半の終盤戦でファイブバックに切り替えたが、カタールでの本大会でもスリーバックを採用することはなさそうである。

■2試合目での驚異的な改善
 さて、女子日本代表はつづくニュージーランド戦でも3-4-3にトライした。そして、2試合目にして早くも新システムに順応して、同じ2対0というスコアながらナイジェリア戦に比べてはるかに良いパフォーマンスを示した。

 ナイジェリア戦で課題だった左のウィングバックには遠藤純が起用されて、攻撃の牽引役となり、右サイドは清水梨紗がナイジェリア戦よりも積極的に攻め上がったことで、両サイドのウィングバックが機能した。

 遠藤はもともとは左のウィンガーやサイドハーフの選手だが、ベレーザ時代にはサイドバックで起用された経験もあり、そういう意味では不安なくウィングバックを任せられる選手だ。強い雨が降りしきる長野Uスタジアムの重めのピッチをものともせずドリブルで左サイドを切り裂いた。

 また、神戸でのナイジェリア戦で代表デビューしたばかりの藤野あおばが右のシャドーとして先発。右サイドで積極的にしかけるだけでなく、15分にはバイタルエリアに入って植木理子、宮澤ひなたとワンツーで抜けて、最後は左サイドの遠藤にパスを出して攻撃を組み立てた(遠藤のクロスに植木が合わせたが、ブロックされてCKとなった)。

 ニュージーランドの大型DFがコースを消してきたため、シュートがブロックされて得点に結びつかなかったが何度も決定機が作れていた(そのため、前半だけで8本のCKを獲得。藤野はCKのキッカーとしても活躍)。

■期待したい17歳の新星
 そして、前半終了間際には相手のクリアを左サイドでカットした遠藤が宮澤とのパス交換で抜け出し、さらに植木とのワンツーからのボールがこぼれたところを宮澤が決めて日本は前半のうちに先制ゴールを生み出した。

 さらに、遠藤は61分にも攻撃の起点となり、最後は長野風花のクロスを植木がヘディングで決めて日本が快勝。

 パス交換がスムーズで、両サイドが攻撃の起点となり、2試合目にして早くも3-4-3の新システムが機能した。

 さらに、82分には2ゴールの起点となって活躍した遠藤に代わって、17歳の小山史乃観も起用された。

 U-20ワールドカップで左のウィングバックとして素晴らしいプレーをした若手である。初めてのフル代表であり、10分ほどしかプレー時間がなかったため、ニュージーランド戦ではその片鱗を見せるにとどまったが、女子日本代表がこれからもスリーバックを使っていくとしたら、その成長が期待される選手である。

■W杯までに必要な準備
 こうして、池田太監督が挑戦したスリーバックは十分に期待できるオプションになりそうだ。だが、FIFAランキング46位のナイジェリア、同22位のニュージーランドとでは実力の差が大きかった。日本は間違いなくポゼッションで上回ることができる試合だったので、ウィングバックも後顧の憂いなく攻め上がることもできた。

 しかし、強豪相手にもこの新システムが機能するかといえば、それはまた別問題だ。これから習熟度を上げて本大会でも3-4-3で戦うには、強豪相手にテストを繰り返す必要があるだろう。スリーバックを完成させるためには、やはり一定の時間が必要となる。

 ワールドカップ本大会まで2年あるというのなら、これからチャレンジを続けていけばよい。だが、女子ワールドカップは2023年の7月20日に開幕する。9か月しか時間がないのだ。

 10月シリーズでは、これまで女子日本代表の攻撃の主役だった岩渕真奈と長谷川唯が、コンディション面などを考慮して招集されていない。一方で、U-20日本代表で活躍した浜野まいか(同ワールドカップ最優秀選手賞受賞)、藤野、小山という3人の新戦力が初めてフル代表に招集された。そして、浜野と藤野はナイジェリア戦では69分に交代出場、藤野はニュージーランド戦でフル出場。小山もデビューしてそれなりのプレーをした。

 彼女たちは、いわゆる「旬の選手」であり、こういう時期にフル代表を経験させておくことには大きな意義がある。来年のワールドカップに間に合えば良いし、そうでなくても、将来の日本代表の中核を任せられる選手たちであることは間違いない。

 新戦力を融合させてチーム内競争を高めることも、新システムを試みることも、チームに刺激を与えてマンネリを防ぐ効果もある。だが、一方で、ワールドカップ本大会までの時間的制約を考えると、そろそろ本大会に向けてメンバーを固めていく時期でもあるのだ。本大会に向けて選手もそろそろ絞り込んでいかなければならない。

 そうした時間的制約を考えると、新戦力の融合も新システムの習熟もなかなか難しいタスクとなるはず。池田監督にはそのへんのバランスを考えながら強化を進めていってほしいものである。

後藤健生 










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