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新戦力やライバルの活躍により、ベンチスタートが続く

 アーセナルのDF冨安健洋が投入されたのは89分のことだった。

 10月1日に行なわれたトッテナムとの一戦。ユニホームに着替えて準備を終えると、DFベン・ホワイトとの交代で4-2-3-1の右SBとして途中出場した。出場時間が短く見せ場はなかったが、試合後は地元ライバルのトッテナムを3-1で下した貴重な勝利に、笑顔でチームメイトと喜びを分かち合った。


 この結果、アーセナルは7勝1敗で首位の座をキープ。ホームのエミレーツ・スタジアムでは「俺らがリーグトップ!」のチャントが響き渡り、好調のチームを盛り上げていた。

 ただ、冨安の状況は決して良好とは言えない。国内リーグ戦の先発は8節まで1度もなく、ここまで試合終盤に守備固めで投入される試合が続いている。位置付けは、右SBのバックアッパーだ。

 昨年8月にアーセナルに加わると、日本代表DFは右SBとして即座にレギュラーの座を掴んだ。堅実な守備と優れた足技を活かしたビルドアップで、それまで開幕3連敗を喫していたチームの軌道を修正する立役者となった。英メディアからは「2021−22シーズンにおけるベスト補強選手の1人」とまで評された。

 ところが、今シーズンはスタートで出遅れた。理由は、昨シーズンから抱える怪我の影響。7月から始まった米国ツアーには帯同したが、別メニューでの調整が続き、プレシーズンマッチは1試合も出場できなかった。8月5日のプレミアリーグ開幕戦も欠場し、好スタートを切ったチームの中で躓いた。
 
 こうした状況に加え、新戦力の活躍が冨安の序列に影響を及ぼした。首位を走るアーセナルで特に目覚ましいプレーを見せているのがフランス代表DFのウィリアム・サリバ。3シーズンにわたるレンタル移籍を終えて今シーズンからチームに復帰すると、CBとして冷静沈着な守備で最終ラインを支えている。まるで長年アーセナルの最終ラインに君臨してきたかのように、21歳DFは早くも柱となっている。

 そして、昨シーズンまでCBのレギュラーを務めたホワイトが、冨安の怪我により空いた右SBのレギュラーに抜擢された。CBのサリバとガブリエウ・マガリャンイス、右SBホワイト、左SBオレクサンドル・ジンチェンコによる4人の最終ラインが安定した守備で支え、8節まで「8失点」とリーグ2位の堅守を見せているのだ。

 しかも、チーム自体が上昇気流に乗っている。ミケル・アルテタ監督はこの4バックによる良質な連係を高く評価しており、怪我人が出ない限り最終ラインを固定している。かくして、冨安は国内リーグでベンチスタートが続いているのだ。

 さらにアルテタ監督は、冨安の起用に慎重な姿勢を示している。昨シーズン、スペイン人指揮官が冨安の復帰を急がせたことで、結果として日本代表の離脱期間が長引くことになった。指揮官は「同じ過ちを犯さない」と明言しており、冨安に無理をさせない起用が続いている。

 もっとも、冨安のパフォーマンス自体が低下しているわけではない。9月8日に行なわれたヨーロッパリーグ(EL)のチューリッヒ戦(2-1)では右SBとして先発フル出場。今シーズン初となる先発試合で攻守両方において安定感の高い動きを見せ、試合後は英メディアからも高く評価された。

 また、10月6日のELボデ/グリムト戦でも今季2度目の先発出場を果たし、質の高い守備で3-0の完封勝利に貢献した。8月の戦列復帰からマッチフィットネスとコンディションが上向いてきているのは朗報だ。

総力戦で挑む10月の連戦がアピールの鍵に

 そんな冨安にとって、この10月は勝負の月だ。プレミアリーグと欧州リーグの超過密日程となるアーセナルは、週2試合のペースで連戦が続く。10月の試合数は合計9試合。約3日に1回のペースで試合をこなす必要があり、ファーストチーム全員の総力戦で臨むことになりそうだ。

 とりわけ、プレミアリーグに比べて優先順位の落ちる欧州リーグでは、今後も冨安がスタメンで起用される可能性が高いだろう。この連戦で攻守両方で効果的なプレーを見せてアピールできるか。また、怪我を再発させることなく乗り切れるか。ここがひとつ、今シーズンのポイントになりそうだ。

 チームを率いるアルテタ監督は、冨安をCBや左SBで起用する考えも示している。先月行なわれた記者会見で「トミは日本代表で左のセンターバックとしてプレーしている。右利きか左利きか分からないほど器用にプレーできるため、左サイドバックとしても稼働できる」とユーティリティ性を高く評価。

「チームにある選択肢を最大限に活かす必要がある。これから数週間は試合が増えるので、選手が複数のポジションをこなせるのは素晴らしいことだ。(冨安とホワイトの)2人はセンターバックとしてもプレーできる」と続け、文字通り総力戦で先発メンバーを編成すると話した。実際、右SBとして先発したボデ/グリムト戦では、後半途中から左SBにポジションを移してプレー。対戦相手と自軍の状況に応じて、冨安は複数のポジションをこなすことになるだろう。
 
 アーセナルがプレミアで首位につけていることで、エミレーツ界隈も例年以上に活気に溢れている。トッテナムとのノースロンドンダービーでも世界中から報道陣が集まり、注目度の高さをうかがわせた。

 近年のアーセナルはマンチェスター・シティやリバプール、チェルシーに遅れを取り、彼らと試合が重なる日は主要メディアもそちらの取材に力を入れ、エミレーツ・スタジアムのプレスルームが閑散とする日もあった。

 ところが今シーズンは違う。ガブリエウ・ジェズス、ブカヨ・サカ、ガブリエウ・マルチネッリ、マーティン・ウーデゴーといった若いタレントが躍動し、魅力的なサッカーを展開している。

 このなかで、日本代表の冨安がどのように貢献していくか。23歳の若きサムライも、シーズン序盤で出遅れた分、いっそう闘志を燃やしているはずだ。

取材・文●田嶋コウスケ 










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