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 W杯直前にふさわしい2試合だった。

 アメリカ、エクアドルと対戦した9月の欧州遠征で、日本代表の森保一監督はW杯を見据えたテストを行なった。従来の4-3-3ではなく4-2-3-1にシステムを変え、多くの選手を起用した。


 元日本代表MFの中村憲剛氏は、「収穫の多い2試合でした」と語る。システムから選手個々の評価について、今回も分析をしてもらおう。(全2回の1回目/後編へ)

◆◆◆

 アメリカ戦とエクアドル戦を4-2-3-1で戦ったことについては、いくつかの理由が考えられます。

 グループステージで対戦するドイツ、コスタリカ、スペインを分析し、自分たちの4-3-3に照らし合わせたときに、アジア予選ほどボールを握れない、相手にボールを持たれる時間が長くなる展開が予想できると思います。そこで、ボールを保持され続けると穴ができやすくなる4-3-3ではなく、DFとMFの並びを4-4の2ラインにすることで穴ができにくい4-2-3-1を、このタイミングで試しておきたかったのではないかと。4-3-3についてはすでに試合を重ねているので、それ以前に使用していた4-2-3-1の再確認を優先したとも考えられるでしょう。

 システムより選手の調子を見たうえで4-2-3-1にした、という言い方もできると思います。その最たる選手が所属チームで調子のいい鎌田大地であり、彼の良さがより生かされるシステムで使ったのかもしれません。鎌田の存在が今回のシステム変更のきっかけのひとつになったのではないか、と言いたくなるくらいの存在感でした。さらに言えば、6月シリーズは途中離脱に終わった守田英正が、戦列に戻ってきたことも関係しているかもしれません。

 どちらか1試合で4-3-3を試すかなと思ったのですが、W杯直前の貴重な2試合を4-2-3-1で戦ったとなると、こちらが主戦術になるのではという想像もできます。ひとつ言えるのは、現在の日本代表の顔触れを見ると、4-3-3より4-2-3-1のほうが選手の起用法の幅が広がる、ということです。

アメリカ戦で得た「4-2-3-1」の手ごたえ
 4-2-3-1での手ごたえは、森保監督にとって一定以上のものだったのではないでしょうか。それは、1戦目と2戦目でスタメンを総入れ替えしたことからうかがえます。

 アメリカ戦で課題が多く残ったならば、次のエクアドル戦でも同じメンバーで戦い、アメリカ戦の課題を解消しながら、本大会に向けたチームとしての戦い方を定めていく選択をすると思います。しかし、森保監督はスタメンを総入れ替えしました。「アメリカ戦のメンバーが、4-2-3-1で戦うとこうなる」というものが、ある程度見えたからだったのでしょう。

 アメリカ戦は内容的にも、評価できる部分が多かった。僕はいつもメモを取りながら試合を観ているのですが、とくに前半は書くべきことが多かったですね。

 守備の局面では4-2-3-1から4-4-2になり、相手のビルドアップ時には最前線の前田大然がスイッチを入れ、2列目が連動し、3列目で回収する。前半のアメリカが丁寧につなぐことにこだわったことで、プレスがハマりやすかったのは事実ですが、あれだけスピード豊かで迫力のあるプレスを受けたら、相手DF陣はパスコースがかなり制限される。アメリカは苦しいビルドアップを強いられていました。

 前田は攻撃だけではなく、守備でもかなりの回数のスプリントができます。なおかつ2度追いやプレスバックなどもできる運動量がある。相手からすると迫力を感じるでしょうし、常にビルドアップ時の選択肢を狭められている状態になるので、日本の守備陣はより予測しやすくなります。

 ビルドアップでパスミスが増える時は、どういう時か。奪う側のタイミングの良い迫力あるスイッチによる連動した守備が、ボールを持っている選手や周りで受けようとする選手から「相手を見る時間」を奪い、見る時間を奪うことで出し手と受け手の選択肢が削られていく。そして選択肢がなくなることで、奪う側がより自信を持ってパスコースを予測できるようになると、パスミスが増えていきます。アメリカ戦の前半は、とくにこの状況を日本が作っていました。

 1列目の前田と鎌田が制限をかけ、2列目の遠藤航と守田は守備範囲の広さに加え個のバトルに強いので、コースが限定されたボールを取り切ることができる。サイドハーフの伊東純也と久保建英も連動して、前線で奪う場面がかなりありました。

 ドイツとスペインはどちらも高いレベルでボールを保持する戦い方をしてくるので、守備の穴を作りにくい4-4-2で挑むのは論理的だと思います。前田がスイッチ役となったプレスからのショートカウンターは、「W杯ではこういう戦い方をする」という姿勢を見せたものと言えるかもしれません。

W杯でも「中3日」あれば対戦国は対策を練ってくる
 アメリカには2対0で勝利し、エクアドルとは0対0で引き分けました。エクアドルは強かったですね。南米特有の「個」のうまさや力強さがあり、ビルドアップやプレスのかけ方といった攻守のコンセプトが整理されていました。

 エクアドルは日本をしっかり分析していました。ビルドアップでは、20番のメンデスが2枚のCBの間に入り後ろを3枚気味にすることで、日本の前線からのプレスを空転させ、ハマらないようにしてきました。それでも日本がコンパクトにして前からプレスをかければ、それに付き合ってビルドアップを試みるのではなく、いさぎよく日本のDFの背後にロングボールを入れて間延びさせようとしてきました。そもそも持っている自分たちの戦術に、日本攻略の要素を組み込んできた印象です。

 それに対して日本は、アメリカ戦に出場しなかった選手がスタメンに並び、いくつかのセクションで初めての組み合わせがありました。準備段階で両チームには差があり、日本はエクアドルのプレッシャーを真正面から攻守で受けてしまったな、と。

 アメリカ戦からエクアドル戦は中3日でした。W杯に出場してくるチームなら、3日もあれば相手を分析し、どうやって自分たちの流れに持っていくのかを戦術の落とし込みも含めて整理して臨んでくる。W杯では日本のドイツ戦を見たコスタリカが、コスタリカ戦を見たスペインが、分析したものを実践してくると考えておくべきです。

 今回の2試合は目の前の敵と戦いつつも、自分たちの手の内を見せ過ぎないという意識が働いていたのかもしれません。セットプレーについては、ほとんど見せていないと思います。

 どちらの試合でも終了間際に5バックに変更したことは、選手たちに対してメッセージ性の強いものになったかなと思いました。普段の強化試合ではなかなかやることのない、本番を睨んだものと言えます。守り切るためのオプションです。

 アメリカ戦は5-4-1のような形、エクアドル戦では5-3-2のような形で、伊東純也を2トップの一角にしました。スタッド・ランスでの起用法を生かそうとしている。こういう形もあるよ、という森保監督からの提示だったのでしょう。

 本番を意識した采配が見られたわけですが、これをもう少し前からやっても、選手はピンと来ないところがあります。ある程度メンバーが固まってきたなかで本番を意識させるのは、W杯への準備として分かりやすい。

 実際に本大会で勝っている展開、失点したくない展開が訪れた時に、まったくやっていないとか口頭で伝えられただけでは、試合終盤の膠着したなかで混乱をきたすかもしれない。時間的には短くても事前に試したという経験が、本番では支えになると思います。

メンバー入りの可能性を示した相馬勇紀
 さて、W杯のメンバー入りに向けて、アピールに成功した選手は誰だったのか。個人的にはなんと言っても鎌田大地です。

 彼のこの2試合でのパフォーマンスに触れないわけにはいきません。アピールどころかチームの主役であることを、自らのプレーで改めて示しました。前述したように、彼の存在が4-3-3から4-2-3-1への変更を決断させたと言ってもいいパフォーマンスでした。また、彼と中盤の三角形を組んだ遠藤、守田も素晴らしいパフォーマンスを見せました。

 アピールが成功したかどうか、という観点から言うと、相馬勇紀が可能性を膨らませたのではないか、と見ています。

 エクアドル戦で三笘薫に代わって出場し、左サイドからチャンスメイクしました。三笘とはドリブルのリズムもテンポも違うので、対峙する右SBはかなり苦慮したでしょう。

 しかも、5-3-2へシステムが変更されると、そのまま左ウイングバックに入りました。所属する名古屋グランパスでもやっているので、無理なくポジションを変えられたのでしょう。ひとりで複数システムに対応できる存在でもあるので、4-2-3-1が主戦術となれば残る可能性があるかもしれない、と見ています。

 左サイドを争う選手では、三笘がアメリカ戦でダメ押しの2点目を決めました。川崎フロンターレ在籍時から彼を観てきた僕からすると、アメリカ戦は率直に言ってボールフィーリングが良くなさそうに映りました。でも、そういうなかでもゴールを決めるのが三笘薫なんだよな、と過去の試合を思い出しながら見ている自分もいたんです。

 Jリーグ初ゴールがそうでした。プロ1年目の20年7月、ホームの湘南ベルマーレ戦でした。0対1とリードされた直後に途中出場して、前の試合ですごく良いパフォーマンスを見せていたので、みんな期待していたんです。ところが、ボールタッチも判断も悪く、ボールを失うことも多い。リハビリ中でスタンドから観ていて、これは代えられちゃうんじゃないかとさえ思ったのですが、同点に追いついたあとにドリブルから2点目を決めたのです。そこから彼のステップアップのストーリーが始まっていきました。

 アメリカ戦もボールフィーリングがいまひとつのように見えましたが、僕自身は最終的には取るんじゃないかなと思っていました。そして、その通りになりましたね。スタメンでも途中からでも一発があるかもしれない……彼に期待したくなるのは、僕だけではないのではと思います。

 また、ユニオン・サンジロワーズでプレーした昨シーズンは、ウイングバックを任されていました。彼も相馬と同じように、システム変更に対応できる。ポリバレントな選手がいることで、戦術的な幅が広がります。

<後編へ続く>

(「サッカー日本代表PRESS」中村憲剛+戸塚啓 = 文) 










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