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 ブラジル代表FWネイマール(パリ・サンジェルマン=PSG)ほどシーズンオフに移籍の噂で世間を騒がせる選手は珍しい。

 2017年夏、バルセロナとそのサポーターの強い慰留を振り切り、2億2200万ユーロ(当時のレートで約290億円)という史上最高額の移籍金でPSGへ移った(その理由は、金銭面、そしてアルゼンチン代表FWリオネル・メッシの陰に隠れ続けるのを嫌ったためとされる)。

 ところが、PSGでチームメイトらと軋轢を起こして居心地が悪くなり、入団からわずか2年後、古巣バルセロナへの復帰を画策する。それでもPSGは「悲願の欧州CL制覇を達成するために絶対に必要な選手」と考え、頑として手放さなかった。

今夏、クラブ側が放出を考えていたワケ
 今季の開幕前はこれまでとは違った。本人ではなくクラブの方が放出を考えたと報じられたのだ。

 昨季、故障が頻発してチームの全50試合の実に44%を欠場。28試合に出場して13得点8アシストだった。並の選手なら悪い数字ではないだろうが、推定年俸4900万ユーロ(約68億円)のチーム一の高給取り(当時)としては物足りない。

「ネイマールの無責任な言動を嫌う(フランス代表FW)キリアン・エムバペからの要請もあり、PSGは放出を決断した」と伝えられた。しかし、本人は今年のワールドカップ(W杯)カタール大会に万全の状態で臨むことを優先し、移籍を望まなかった。また、大金を払ってでもネイマールを欲しがるクラブもなかったため結果的に残留した、と報じられた。

 その一方で、一時はレアル・マドリー移籍が確実視されていたエムバペが契約を延長。その"ご褒美"として3億ユーロ(約420億円)の特別ボーナスとネイマールを凌ぐチーム最高年俸(推定1億ユーロ=約140億円)を与えられ、なおかつチーム編成に介入する権利を手にしたと報じられた。もしこれらが事実なら、ネイマールが不貞腐れてもおかしくなかった。

予想を裏切り、序盤は絶好調を維持している
 ところが、大方の予想を裏切り、シーズン序盤は絶好調を維持している。

 まず、7月31日に行なわれたスーパーカップ(前季のリーグ王者とフランス杯王者が対戦)のナント戦で、FKとPKを決めて2得点。8月6日のフランスリーグ開幕戦(対クレルモン)では、右足でミドルシュートを決めると、メッシらのゴールをお膳立てして1得点3アシスト。チームの5点中4点にからんだ。

 13日の対モンペリエ戦では、PKと彼にしては珍しいダイビングヘッドで2得点。リールとの第3節(21日)では2得点3アシストの大活躍で、7-1とPSGが大勝する立役者となった。

 そして、28日、モナコ戦では自らが獲得したPKを決めた。

 さらに、31日のトゥールーズ戦でもメッシからのスルーパスを受け、右足で蹴り込んだ。今季最初の6試合で、6戦連続の9得点で6アシスト。チームもリーグ戦で首位を走る。

バルサ時代の数字と比べても突出している
 2013年にバルセロナへ移籍して以来、これが欧州で10シーズン目。各シーズン最初の6試合(本人出場分)における得点とアシストの数は以下の通りである。

<バルセロナ>
2013-14年:1得点2アシスト
2014-15年:3得点0アシスト
2015-16年:3得点1アシスト
2016-17年:4得点7アシスト

<PSG>
2017-18年:5得点5アシスト
2018-19年:4得点2アシスト
2019-20年:4得点0アシスト
2020-21年:2得点3アシスト
2021-22年:1得点2アシスト
2022-23年:9得点6アシスト

 今季の数字が、突出している。

 しかし、油断は禁物だ。PSG移籍直後の2017-18年も好調な滑り出しだったが、その後、右足首を骨折して長期欠場。結果的に、チームの全50試合中30試合しか出場できなかった(ただ、それで28得点16アシストは大したものだが)。

 シーズンを通じて最高の成績を残したのは、バルセロナへ移籍して2季目の2014-15年。最初の6試合の結果は彼としては平凡だったが、最終的に51試合に出場して39得点10アシスト。

 一方、最低の成績だったのは昨季。6度も故障して22試合欠場し、出場試合、得点、アシストの数がいずれも自己最少か最少タイだった。28試合出場は最少から2番目、13得点と8アシストはいずれも最少だった。

 今季、なぜこれほど見事なスタートを切ることができたのか。

 最大の理由は、シーズンの途中にW杯が開催され、自身の初優勝を目指しているからだろう。今回が3度目のW杯だが、「これが僕にとって最後のW杯となるだろう」と語っており、心に期するものがある。

 それゆえ、シーズンオフは連日、リオの別荘で専属フィジカルコーチとトレーニングを続けた。

 また、セレソンの通算得点記録を更新することもモチベーションを高めているはずだ。

 ここまで積み重ねた代表での得点は74で、キング・ペレが持つ最多記録まであと3点。今年のW杯を最後にセレソンを引退するとしても、9月の国際Aマッチデーの2試合とW杯での数試合がある。彼にとっては十分に達成可能な数字だ。偉大なペレの記録を書き換えることは、彼にとって巨大な勲章となる。

シーズン開幕後の"エムバペとのトラブル"とは
 ところが、8月にシーズンが開幕してからトラブルが発生した。

 モンペリエ戦でエムバペがPKを失敗。再び訪れたPKの場面で今度はネイマールが蹴ろうとしたのだが、エムバペが「自分に蹴らせろ」と詰め寄り、口論になりかけた(結局、ネイマールが押し切り、決めた)。

 チームのPKキッカーについて、クリストフ・ガルティエ監督は「一番手がエムバペで、2番手がネイマール。でも、試合の中で選手たちが話し合って決めてもかまわない」と語っている。

 28日のモナコ戦では、ネイマールがPKを獲得し、エムバペの了承を得てから蹴った。今後も、通常はエムバペが蹴るだろうが、ネイマールが自らPKを獲得した場合は彼が蹴ることになりそうだ。

 今季のこれまでのネイマールのプレー内容については、ブラジルメディアもこぞって高評価を与えている。ただし、「いつまでこの調子が続くのか」と危ぶむ声もある。

 最も恐いのは故障だ。度重なる怪我のせいで、PSG移籍後は毎年、30試合前後しか出場していない。今後のエムバペとの関係も気がかりだ。再びエムバペとの確執が起きれば、気分を害してプレー内容が低下するかもしれない。

もう1つ、ピッチ外で気になる"不正行為疑惑"
 もう一つ、ピッチ外で心配なことがある。

 2013年にサントスからバルセロナへ移籍した際の不正行為疑惑である。

 当時、ネイマールの所有権の40%を保持していたブラジルの投資会社が、「サントス、バルセロナ、代理人であるネイマールの父親の3者が結託して、実際よりはるかに少ない移籍金でバルセロナへ移ったように偽装したため損害を蒙った」としてスペインの裁判所に総額1億5000万ユーロ(約204億円)の損害賠償を求める訴訟を起こした。

 裁判は10月17日に始まる予定で、スペインの検察当局はネイマールへの2年の禁錮刑と1000万ユーロ(約14億円)の罰金を求めている。

 仮に禁錮刑を受けてすぐに服役を命じられるようなことがあれば、クラブでのプレーもW杯出場も吹っ飛んでしまう。

 ブラジルのメディアの多くは、「有罪判決が出るのは確実。焦点は、ネイマールに実刑判決が出るかどうか」と報じている。このような心理的圧迫に耐えて、彼はクラブと代表で落ち着いてプレーできるのかどうか。

 彼にとっての理想は、10月の裁判で禁錮刑を免れ、W杯でブラジル優勝の立役者となり、PSGで悲願の欧州CL初制覇を達成して、バロンドールとFIFA年間最優秀選手の栄誉を手にすることだ。

 しかし、その反対に裁判で実刑判決を受けたり、仮に逮捕は免れてもW杯で優勝を逃し、PSGも欧州CLであえなく敗退するようなら、フランスとブラジルの両国でネイマールは厳しく糾弾されることになる。

 こららの関門をいかにして潜り抜けるのか。今季、ネイマールは自分の人生とキャリアを賭けて戦う。

ネイマールとも対戦した日本の10番、南野の現状は?
 なお28日のPSG対モナコ戦では、7月にリバプールからモナコへ移籍した日本代表MF南野拓実が後半19分から出場している。

 南野のここまでも簡潔に振り返ってみる。8月上旬、PSV(オランダ)との欧州CL3次予選の2試合に右MFとして先発。第1レグで後方からロングパスを受けてGKと1対1になった場面があったが、左足からのシュートは惜しくも外れた。

 8月6日のフランスリーグ開幕戦(対ストラスブール)は体調不良のため欠場し、第2節のレンヌ戦はベンチ入りしたが出場せず。20日のランス戦は左MFとして先発したものおの、精彩を欠いてチームも大敗した。

 PSG戦では偽CFのような役割を担ったが、ボールを失ったりパスミスが多かった。終盤にはゴール前でパスを受けてシュートチャンスになりかけた。しかし、DFをドリブルでかわそうとしたものの、簡単にボールをロスとした。

 それでも、8月31日のトロワ戦で先発に復帰。序盤に蹴ったCKを味方選手が頭で決め、移籍後初アシストを記録した。しかし、DFが退場処分を受けたこともあり、前半だけで交代した。

 これまでチームの7試合中5試合に出場(うち先発は4試合)して無得点。フル出場は一度もなく、今後も先発を任されるかどうか微妙な状況だ。

 チームは1勝3分3敗で、リーグでは第5節終了時点で20チーム中16位と低迷。チームも南野本人も苦しい状況にある。

 これまで、日本人選手は香川真司(ドルトムント→マンチェスター・ユナイテッド)、本田圭佑(CSKAモスクワ→ミラン)、宇佐美貴史(ガンバ大阪→バイエルン)のように欧州中堅クラブや日本の強豪クラブで活躍して欧州ビッグクラブへ辿り着いても、レギュラー争いに敗れて退団を余儀なくされたケースが多い。

 2019年に欧州屈指の強豪リバプールへ迎え入れられながら、絶対的なレギュラーになれずモナコへ移った南野も同じような経過を辿りつつある。

 今年のW杯で日本代表が好成績を残すためにも、南野にはモナコで再び成長曲線を描いてもらいたい。

(「熱狂とカオス!魅惑の南米直送便」沢田啓明 = 文) 










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