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【インタビュー】試合の進行を妨げる「ダメな審判」 マイナス要因をいかに減らすか9月3日のJ1リーグ第28節の鹿島アントラーズ対浦和レッズ戦で「家本政明ぶっちゃけLABO」というオンライン同時視聴イベントを開催する元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏。2010年にサッカーの聖地ウェンブリー・スタジアムで日本人として初めて主審を務め、11年にFAカップでイングランドサッカー協会に登録していない審判として初めて主審を担当し、Jリーグでも主審として歴代最多516試合担当という経歴を持つ家本氏が、「いい審判」「ダメな審判」について持論を展開した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・大木勇)◇ ◇ ◇まず「いい審判」には、人それぞれの捉え方や考え方があると思います。例えばファン・サポーター目線、リーグや組織目線、レフェリー目線などでも変わってきますし、状況次第で判断は変わりますが、「ダメな審判」にはいくつかの共通項があります。1つ目は、試合の邪魔をすること。例えばパスコースに入る、選手が行きたいスペースに入ってしまう。レフェリーが試合や選手の邪魔をすることになる。フットボールの魅力と価値を下げる要因になります。プレーの邪魔になる場面が頻発する審判、というのを想像してもらえれば分かりやすいかと思います。2つ目は、試合をノッキングさせること。スムーズな試合進行ができていない状態になります。例えば球際での攻防があり、「さぁ今から次の展開!」という時に笛が鳴る。あるいは「さっきの反則と今のプレー、何が違うの?」という場面が頻発する。判定基準が分かりづらく、判定の幅が広すぎる、笛を吹くタイミングなどで試合をノッキングさせるレフェリーというのは、やはり乗れない。当然、選手も観客も、今ひとつ試合に入り切れない場面が続くことになります。車の運転で言うと、スーッと行くのか、ブレーキやアクセルでガシャガシャするのは乗っていて心地良くない。それはレフェリングにも相通じるものがあります。3つ目は、あまりに高圧的・上から目線・傲慢・偉そうなこと。南米の試合などでみなさんも目にしたことがあるかと思いますが、選手がガッと(抗議しに)来た時、レフェリーも同じテンションでガッと行って収める方法があります。目には目を歯には歯を、というやり方があるとはいえ、それが世界共通なのか、あるいは日本人に合ったいいレフェリングかと言うと、日本には合わないと思います。ちょっと引いてしまう感じもあります。誠実さ、真摯さ、丁寧さがあり、選手らへの敬意や配慮があるというのは大事なところだと思いますし、それを感じさせないレフェリーが信頼を勝ち取るのは難しいと思います。ほかにも「ダメな審判」の共通項はありますが、この3つはできるだけないほうがいいNG項目になります。この3大NG項目がなければ「いい審判」かというと、それはまた別の話ですが、少なくともこれらがなければ、レフェリーが試合の進行を妨げることはなく、選手はスムーズにプレーができ、見ている人も心地良く試合に没入できるかと思います。最低限の基準をクリアすれば、レフェリーの存在はあまり気にならず、試合は心地良い流れになっていきます。少なくともマイナス要因を作らないこと。それが「いい審判」の最低限のラインであり、ベースになる部分でもあります。「いい審判」が引き出す選手の能力と名シーン、杓子定規ではなく柔軟なポジショニングでは「審判」とは何者かを考えた時、競技規則の番人なのか、フットボールの魅力と価値を高める人なのか。前者は競技規則をきっちり運用する人。競技規則でうたっているのが、規則の適用・運用は手段の1つということ。その手段の目的は何かと言えば、みんながフットボールを楽しむことに尽きます。そして、そんなフットボールの魅力と価値を高めることができるのが「いい審判」と言えるかと思います。巧みなレフェリングは、選手の持っているポテンシャルを最大限発揮させることができ、記憶に刻まれるような名シーンを生み出します。またファン・サポーター目線で見ても、レフェリングによる余計なストレスがゼロであれば試合を存分に楽しめるので、結果的にフットボールの価値が高まることになります。「いい審判」は、離れすぎず近すぎずの適切な距離感を保っているのも特徴です。基本的にはボールから10~15メートルぐらいの距離感。さらにエリア、シチュエーション、試合の流れに応じて、その距離感をさらに近づけたり、さらに離したり臨機応変に適切な距離感を保っているのが大前提になります。そのうえで、目立たないポジションにいるかどうか。目立たないということは、プレーや試合の邪魔になっていない。それでいて、何か事象があった時には近くで見ていて、場をすぐさま収められる。では、どうしたら適切な距離感が保てるのか。先の展開を読む洞察力、プレーに付いていく運動量、チームスタイルの分析など、複合的な要因があります。「対角線式審判法」というポジショニングの基本はありますが、チームのスタイルや選手のプレースタイルによって適切な距離感の意味は変わってきます。堅守速攻型か、ポゼッション型か。プレッシングは前線からか否か。そうしたチーム戦術と選手のプレースタイルによって、レフェリーのポジショニングも大きく変わってきます。裏返せば、杓子定規に同じポジションを取るのは「ダメな審判」の典型であり、柔軟に対応できるのが「いい審判」とも言えます。優先されるべきは、フットボールであり、選手であり、チームの戦術であると考えています。「いい判定をするために、いいポジションを取る」は、優先順位としてあくまで2番目。仮に、Aという地点がレフェリーにとってベストポジションだったとしても、そこに立つことによってプレーや戦術の妨げになるのであれば、Bというセカンドベストを選ぶべきです。どのポジションを取っても、必ずメリットとデメリットがある。それを場面ごとに瞬時に判断し、試合の邪魔にならない範疇で最良のジャッジが求められる。レフェリーの判定がブレる時、その多くは適切なポジショニングを取れていないことが原因になっています。審判のイメージは水鳥 見えないところで努力し、見えているところでは優雅に美しくイングランドサッカー協会やプレミアリーグなどでプロリーグの審判を統括する組織(PGMOL)で長年指導に携わり、日本でも審判委員会副委員長などを歴任したレイモンド・オリヴィエさんが、かつて面白いことを言っていました。水鳥は水面を優雅に泳いでいるように見えるが、水面下では足をバタバタさせている。そのイメージが審判には大事だと。見えないところで一生懸命努力し、見えているところでは優雅で美しくあれ、という趣旨の話をされていました。つまり、人に見えないところ・分からないところで最高の努力をして、悪い芽を事前にすべて摘み取ってしまい、リスクも事前に回避する。そのなかで、どうしてもこぼれることもあるので、小さな芽の内に摘めるのが「いい審判」と言えるかと思います。もちろん、レフェリーの存在とは関係なく、選手同士がヒートアップしてしまう試合もあります。それでも「いい審判」は、ヒートアップしている選手の心情や背景までくみ取ることができます。その選手がどんな思いでこの試合に臨んでいるのか。例えば、メンバー発表やウォーミングアップから選手を観察する必要があります。これまで主力だった選手がベンチスタートで途中出場した時、普段はしないような強烈なタックルをしたとします。その事象だけ見れば「なぜ?」となりますが、その背景まで意識が行き届いていれば、そのプレーを見せた選手の心情も十分理解できますよね。選手の背景、普段との違いや違和感に気付けていれば、事前に本人や別のチームメイトに対して、「気合が入っているのは分かるけど、あまり激しくいきすぎると危ない。そのへんは大丈夫だよね?」と注意喚起もできるわけです。プレー以外でもさまざまな情報に意識を向け、ちょっとした変化や違和感にも気付けることが「いい審判」の条件の1つだと思います。◇ ◇ ◇「『いい審判』『ダメな審判』の特徴や見分け方は、ほかにもいろいろあります」と語る家本氏。9月3日のJ1第28節の鹿島対浦和戦で「家本政明ぶっちゃけLABO」というオンライン同時視聴イベントを開催し、参加者の意見や質問にNGゼロで回答しながら、独自のレフェリー目線でリアルタイム解説をするなか、舌鋒鋭い“家本節”に注目が集まる。FOOTBALL ZONE編集部・大木 勇 / Isamu Oki
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しなきゃいけない競技規則の説明すらしないことがある