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 東アジアの頂点を競うEAFF E-1サッカー選手権の男子第2節が24日に豊田スタジアムで行われ、日本代表は0-0で中国代表と引き分けて2位に後退した。6-0で快勝した19日の香港代表戦から先発全員を入れ替えた日本は計20本のシュートを放つも、23歳以下の若手を中心とする中国の守備を最後まで崩せなかった。4大会ぶり2度目の優勝を目指す日本は大会最終日の27日、連勝で首位に立つ3連覇中の韓国代表と豊田スタジアムで対戦する。

先発11人を全員入れ替えたが…
 待ち焦がれていた瞬間を確信したかのように、何人もの選手がいっせいに日本ベンチを飛び出した。そのなかの一人、MF藤田譲瑠チマ(20、横浜F・マリノス)は夜空へ向けて突き上げていた両手で、次の瞬間、思わず頭を抱えてしまった。
 両チームともに無得点で迎えた後半8分。日本に訪れた、この試合で最初にして唯一のビッグチャンスが、中国のゴールキックに変わった直後の光景だった。
 敵陣の右サイドでパスを受けたMF脇坂泰斗(27、川崎フロンターレ)が、縦ではなく真横へボールを運ぶ。前半から何度もチャンスに絡んできた脇坂は、ペナルティーエリアの右角付近で右足アウトサイドを駆使した横パスを選択した。
 ターゲットはゴール中央へ侵入してきたA代表デビュー戦のFW細谷真大(20、柏レイソル)。左足でトラップしながらDF蒋光太(28、広州FC)の前へ出た細谷は、必死に右足を伸ばしてきた蒋のタックルをかわしながらさらに一歩抜け出した。
 目の前にいるのはGK韓佳奇(23、広州城)だけ。誰もがゴールを確信したからこそ、我先にとアクションを起こした。特にパリ五輪世代の盟友同士で、今大会でともにA代表デビューを果たした藤田は、自分のゴールのように喜びかけたはずだ。
 しかし、細谷の右足から放たれた一撃はゴールの枠をとらえるどころか、ゴールバーの上を大きく通過していった。ショックのあまりその場に座り込んでしまった細谷は、試合直後のフラッシュインタビューでも表情をこわばらせたままだった。
「最後、決め切るというところは自分の課題だと思いました」
 前後半を通じて日本が放ったシュートは20本。中国の5倍を数えたものの、可能性を感じさせたのは細谷が放った後半8分の一撃だけだった。23歳以下の若手を中心とする中国とまさかのスコアレスドローに終わった大会第2戦は、イコール、森保ジャパンの単調な攻撃をこれでもかと見せつけられた90分間でもあった。
 森保一監督(53)は6-0で快勝した19日の香港との初戦(茨城県立カシマサッカースタジアム)から、先発11人全員を入れ替えて中国戦に臨んだ。そのうちサンフレッチェ広島勢が5人を数えたが、これはある意味で予想された通りだった。
 大会へ向けた準備期間をほとんど取れない状況で、香港戦では7人招集した横浜F・マリノス勢のうち5人を先発で起用。J1リーグ戦の首位を快走するマリノスのコンビネーションを軸に、他チームの選手を組み合わせる戦い方を採用した。
 中国戦も然り。J1リーグ戦の日程との兼ね合いで、初戦は起用できなかった広島勢を軸に戦う。招集した6人のうち5人を先発させ、後半24分からは大卒ルーキーのFW満田誠(23、流通経済大)も代表デビュー戦のピッチへ送り出した。
 今シーズンから指揮を執るドイツ出身のミヒャエル・スキッベ監督のもと、開幕前の予想を覆す形で4位(代表発表時)につける広島を、森保監督は2位の鹿島アントラーズよりも高く評価していた。代表メンバー発表時には次のように言及している。
「チームとして攻守ともにアグレッシブに戦う姿勢が見えているなかで、チーム戦術のなかで輝きを見せている選手を今回は招集させてもらった」
 もっとも、今シーズンの広島は3バックで戦っている。しかし、中国戦における日本は4-2-3-1。香港戦と同じシステムに、広島の5人があてはめられた形だ。
 皮肉にも中国戦で機能したのは、A代表初先発のFW宮市亮(29)に同デビューのDF小池龍太(26、ともに横浜F・マリノス)、そして脇坂がからんだ右サイドだった。対照的にFW森島司(25)にゲームキャプテンのDF佐々木翔(32)、A代表デビューのボランチ野津田岳人(28)と広島勢が配置された左サイドが機能したとは言い難い。
 オンライン形式で行われた試合後の記者会見で、森保監督も特に攻撃において左右のバランスが“歪”だったと認めた上で、こんな言葉を紡いでいる。
「右で突破してチャンスを作れていたので、右肩上がりは問題ないと思っていた」
 つまりアンバランスを承知の上で、手をつけなかったと明言したに等しい。広島勢のコンビネーションを生かすのであれば、広島と同じ3バックを採用するのも一手だったのではないか。アジア最終予選や6月シリーズは4-3-3に、今大会は4-2-3-1に選手をあてはめるだけで、いざ始まれば選手任せの采配はまったく変わらない。
 選手交代も然り。途中から送り出された5人全員が、そのまま同じポジションでプレーしている。システムを変えるわけでも、前線の人数を増やすわけでもない。実質的な5バックで守備を固める中国を攻めあぐね、自ら白星を手放した感は否めない。
 生中継した地上波のテレビは、ファン・サポーターが発する大声援をよく拾っていた。しかし、実際に豊田スタジアムへ足を運んだのは1万526人だった。
 日本サッカー協会(JFA)は今大会で、観客数の上限をスタジアムの収容人員の50%に設定した上で、両ゴール裏などに「声出し応援エリア」を設置している。
 豊田スタジアムの収容人員は約4万5000人なので、中国戦の上限は約2万2500人。声を出せる環境にありながら、50%にも到達しなかった計算になる。
 連休明けの平日夜に行われた、香港戦の観客数が4980人だった件が少なからず波紋を広げた。鹿島アントラーズの小泉文明代表取締役社長は自身のツイッター(@koizumi)で来場者へ感謝した上で、サッカー界全体へ警鐘を鳴らしている。
「カシマだから、火曜だから、香港が相手だからと言い訳せずに協会やリーグと今の代表人気を考えないとサッカー人気の停滞は本当に危機感しかないですね」
 中国戦は日曜夜の開催だったが、それでもスタンドは満席にはほど遠かった。海外組が参加していない過去のE-1選手権で比較すれば、ハリルジャパンが臨んだ2017年大会の初戦、12月9日の北朝鮮戦が土曜夜の開催であり、試合会場となった味の素スタジアムには2万806人のファン・サポーターが駆けつけている。
 この日は日本ツアーを行っているフランス・リーグアンの強豪、パリ・サンジェルマンの公開練習がパナソニックスタジアム吹田で行われ、1万7916人ものファンが詰めかけている。一般4500円、小中高生2000円と有料だったにもかかわらず、だ。
 すでに2試合の日本ツアーを勝利で終えたパリ・サンジェルマンは、20日の川崎フロンターレ戦で改修後の国立競技場で最多となる6万4922人を集客。23日の浦和レッズ戦でも埼玉スタジアムに6万1175人の大観衆を集めている。
 4年に一度のビッグイベント、カタールワールドカップ開幕をわずか4ヵ月後に控えた段階で突きつけられた、これらの数字の違いがいったい何を意味しているのか。鹿島の小泉社長が指摘したように、サッカー離れではなく日本代表離れが、特に森保ジャパンになってからの4年弱の間に急スピードで進んでいる証に他ならない。
 パリ・サンジェルマンにはフランス代表キリアン・エムバペ(23)、ブラジル代表ネイマール(30)、アルゼンチン代表リオネル・メッシ(35)の世界最強FWトリオがいる。彼らが放つ圧倒的かつ眩い存在感がファンを引きつけているのは明白だが、それでも日本代表はひとつのブランドとして1990年代からサッカー界をけん引してきた。
 E-1選手権の価値そのものにも問題があるだろう。しかし、根本にはサッカーに魅力があるかどうかに集約される。ヨーロッパ組がそろった陣容で4試合を戦った先の6月シリーズでも、スタジアムが満員になったのはブラジル代表戦だけだった。もちろん大半のお目当てがスーパースター軍団だったのは言うまでもない。
 迎えた今大会。ヨーロッパ組を招集できない状況で、代表の現在地に対して非情な現実を突きつけられた。勝ち点3を手にできなかった責任を一身に背負うかのように、細谷はフラッシュインタビューで努めて前を向くように自らに言い聞かせた。
「次の韓国戦でぶつけたいと思います」
 もちろん細谷だけの責任ではない。何がなんでもゴールを、勝利を、という執念のような雰囲気が、ピッチ上からなかなか伝わってこなかった。しかし、これまでも采配を通じて何度も不安をのぞかせてきた指揮官は、人ごとのように話すだけだった。
「どれだけ頑張っても結果につながるかどうかは、選手たちにもわれわれにもわかりません。勝てなかったという悔しさは、次の韓国戦に向けてパワーに変えてほしい」
 27日の韓国戦で勝てば4大会ぶり2度目の優勝が決まり、引き分け以下ならば目の前で4連覇を達成される。ただ、ホームで開催される韓国戦は、大会前に指揮官が掲げた優勝という目標を達成できるかどうか、の問題だけではなくなった。代表離れをほんの少しでも食い止められるのか、それともさらに突き落とされるかの分水嶺となる。
(文責・藤江直人/スポーツライター) 










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