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ワールドカップ経験者の招集は見送る方針だったそうだが、E-1選手権に臨む日本代表にはロシア大会のメンバーである武藤嘉紀の名前があった。


 2019年を最後に日本代表から遠ざかっており、今年初めのウズベキスタン戦に招集されながら、新型コロナウイルスの感染拡大によって試合は中止となった。森保一監督とすれば、昨夏のJリーグ復帰後に結果を残しているこのストライカーの状態を手もとで確認しておきたい思いがあったのだろう。

 なにより、いまだ最適解を見出せていないセンターフォードの選択肢を増やしたいという意向が、"特例"でのワールドカップ経験者の招集に踏み切った理由だと考えられる。

 大迫勇也を負傷で欠いた6月シリーズでも、センターフォワードは固定化されなかった。浅野拓磨、古橋亨梧、前田大然、上田綺世がそれぞれチャンスを得たものの、インパクトを残せたとは言えない。大迫もコンディションが上がらず、衰えを指摘する声も大きくなっている。日本の"アキレス腱"とも言えるこのポジションに武藤が割って入ることができるかが、E-1選手権のひとつの焦点だと言えた。

 その武藤が所属するヴィッセル神戸が、大会前最後の試合で鹿島アントラーズと対戦した。一時は降格の危機に瀕していた神戸は、3度目の登板となる吉田孝行監督就任後に3連勝と復調。その立役者のひとりが武藤であることは間違いなかった。

 もっとも鹿島戦での神戸は、ほとんどいいところがなかった。鹿島の縦に速い攻撃に押し込まれ、攻め手はカウンターのみ。アンドレス・イニエスタの個人技で時折チャンスを作ったものの、いわば個人技頼みのサッカーにすぎなかった。

 武藤もサポートの足りないカウンターで走らされるだけで、エリア内でチャンスボールを待ち受ける機会はなかった。さらに39分に悪夢が訪れる。ハーフウェーライン付近で相手をかわそうとした際に交錯し、負傷交代を余儀なくされてしまうのだ。

不要論を吹き飛ばす大迫

 試合後に吉田監督は、武藤の状態について「状況は聞いてないですけど、ハーフタイムもベッドに横になってアイシングしていたので、おそらく足首のケガだと思います」と話していたが、松葉杖をついて会場をあとにした武藤の代表辞退のリリースは、翌日に流れた。国内組にとって最後のアピールの機会を失うこととなった武藤の心情は、察するに余りある。

 その武藤に代わって出場したのは大迫だった。ケガ明けで限定的な起用が続いているが、2試合連続ゴール中と、武藤とともに神戸の復活を支える存在だ。この日も本人曰く「当初は30分の予定だったけど、アクシデントがあったので」と、39分から急遽ピッチに立っている。

 緊急出場だったにもかかわらず、そのパフォーマンスは圧巻だった。とりわけ52分のゴールシーンは大迫の真骨頂だろう。自ら運んで右にはたき、そのままエリア内に飛び込んでクロスを頭で合わせた。エリア内には大迫ただひとりで、相手とすれば的を絞りやすかったはずだ。しかし、その対応をものともせず、確実にネットを揺らした。

 さらに60分には鋭いターンで入れ替わり、キム・ミンテの退場を誘発。ほかにもエリア内の深い位置でポストワークをこなし、汰木康也の決定機も導いている。数的優位になったとはいえ、後半に神戸の攻撃が機能し始めたのは、この背番号10の存在があったからにほかならない。

 コンディションが万全でないにもかかわらず、これで3試合連続ゴールである。不要論も囁かれるなか、日本の最前線にはやはりこの男が必要ではないか。そう思わせる、別格の存在感だった。

 一方で鹿島側にも、目に留まる選手がいた。こちらは待望論が日増しに高まる鈴木優磨である。

 今季古巣に復帰した武骨なストライカーは、自在なポジショニングでゴール、アシストと多くの得点機に絡み、鹿島の躍進を牽引している。ベルギーに移籍した上田がゴールを量産できたのも、鈴木というベストパートナーの存在が大きかったはずだ。

鈴木優磨と闘莉王の共通点

 この日は連戦の疲労からか細かいミスが散見されたが、その分、献身性が光った。とりわけ、数的不利に陥ってからの鈴木のプレーには鬼気迫るものがあった。

 なにより感じられたのは、勝利への執念だ。

 理不尽だと感じれば、相手だけではなく、主審にさえも食ってかからんとする。その振る舞いに賛否があるかもしれない。しかし、矢面に立ち、チームを鼓舞する姿はまさに闘将そのもの。ポジションこそ違えども、かつて浦和レッズと名古屋グランパスに栄光をもたらした田中マルクス闘莉王がオーバーラップした。

 ただし、ハートは熱くとも、頭は冷静だった。87分に絶妙なポジショニングからファーサイドでフリーとなり、和泉竜司の同点ゴールをお膳立て。一瞬の隙を逃さない狡猾なその動きに鈴木の真骨頂を見た。

「5連戦で苦しかったと思いますけど、この最後の試合は勝ち点3を取りたかった思いがあるので、非常に悔しい結果になった」

 手負いの状況で追いついても、それでよしとしない。どこまでも貪欲で勝気な選手である。

 森保監督との軋轢があるだとか、招集されながらも代表を辞退しているという報道もあるが、その真意はさておき、やはりこの男も日本代表には必要なのではないか。勝利をあきらめずに身体を張って闘う魂のプレーを見るにつけ、そう思うのだ。南アフリカでの闘莉王がそうであったように。

原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei 










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