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 明治安田生命J1リーグ第21節の2試合が9日に行われ、ヴィッセル神戸が1-0でジュビロ磐田を撃破。連勝を今シーズン最長の3に伸ばし、磐田を抜いて暫定16位に浮上した。敵地ヤマハスタジアムに乗り込んだ神戸は、後半31分にFW大迫勇也(32)がPKで決めた1点を死守。J2自動降格圏から脱出したが、大迫と交代で同19分にベンチへ下がったキャプテンのMFアンドレス・イニエスタ(38)が激怒。目の前のペットボトルを蹴り上げるハプニングがあった。

「ベンチへ戻って来たし試合が終わった後には拍手も」と吉田監督
 神戸のベンチから穏やかならぬ衝撃音が響いてきた。後半19分。最初の交代カードでFW小田裕太郎(20)と、キャプテンのイニエスタがピッチを去った直後だった。
 小田はMF佐々木大樹(22)と、イニエスタは大迫とそれぞれ交代した。しかし、イニエスタはキャプテンマークをMF山口蛍(31)へ託すのを忘れるほど、大雨が降り続けるピッチの上で明らかに不満そうな表情を浮かべていた。結局、キャプテンマークはイニエスタから大迫へ預けられ、大迫からようやく山口に手渡された。
 うつむきながらベンチへ下がってきたイニエスタは、まったく笑顔を見せない。何かをつぶやき続け、それまでのプレーをねぎらうコーチ陣やチームメイトを拒絶するかのように、左手を小さく振り上げるしぐさも見せ、最後に左足を思い切り振った。
 聞こえてきた衝撃音は、目の前に置かれていたペットボトルをイニエスタが蹴り上げた刹那のものか、あるいはペットボトルがどこかに当たった音だった。
 対面形式で行われた試合後の記者会見。清水エスパルスとの前節に続いて決勝ゴールをマークした大迫を「いやぁ、半端ないですね」と称賛し、会場内の笑いを誘った神戸の吉田孝行監督(45)は、その時点ではイニエスタとまだ話をしていないと明かした上で、交代に不満そうな立ち居振る舞いを見せたキャプテンにこう言及した。
「その後にベンチへ戻って来ましたし、試合が終わった後には拍手もしていました。そういう部分も含めて、しっかりコミュニケーションを取ってやっていきたい」
 神戸総合運動公園ユニバー記念競技場に北海道コンサドーレ札幌を迎えた、昨年9月18日の明治安田生命J1リーグ第29節を思い出さずにはいられなかった。
 札幌を1-0でリードして迎えた後半25分。佐々木との交代を告げられ、ピッチを後にしたイニエスタはタッチライン際に置かれていたペットボトルをおもむろに蹴り上げた。さらにベンチ前ではペットボトルが数本入ったケースにもキックを見舞い、ベンチに座ってからはそれまで履いていたスパイクまでをも投げ出した。
 温厚な性格で知られる人格者のイニエスタが、怒りの感情を露にしたシーンは大きな注目を集めた。イニエスタは試合後に自身のインスタグラム(@andresiniesta8)を更新し、スペイン語と日本語の両方で自らの行為を謝罪している。
「自分らしくない、不適切な行動を示したので、サッカーファンやサポーターの皆さんに詫びます。時々フラストレーションが溜まりますが、僕はそのような人ではありません。申し訳ありません」(原文ママ)
 当時は夏場に大迫や武藤嘉紀(29)を補強するもなかなか噛み合わず、札幌戦で3試合ぶりに白星を手にしていた。何とかしたいとピッチの内外で、キャプテンとして苦心していたのだろう。フル出場できない自身へ募らせたふがいなさが、イニエスタにフラストレーションという言葉を使わせ、それを思わず爆発させてしまった。
 昨年は名古屋グランパス、サガン鳥栖、浦和レッズ、鹿島アントラーズと3位の座を激しく争っていた。しかし、今回は神戸が直面する状況がまったく異なる。
 開幕から未曾有の不振にあえぎ、5月21日には最下位へ転落した。ここまで3度も監督が交代し、吉田氏が実に4人目の指揮官となる。神戸がもがき苦しむなかで、イニエスタは磐田戦まで10試合連続で先発に名を連ねてきた。
 5月に38歳になったイニエスタの起用について、吉田監督は高温多湿の夏場の戦いも考慮した上で「年齢もあるし、ずっと出るのは難しい」と慎重を期してきた。それでも先発出場を続けてきたのは、チームを何よりも考えるイニエスタが懸命にコンディションを調整し、チームに貢献できると首脳陣にアピールしてきたからだ。
 ただ、吉田体制になってからは8日間で3試合を戦う過密日程だった。しかも、清水戦からは中2日。怪我を負うリスクも計算しなければならない。加えてコンディションに不安を抱える大迫も、時間限定で起用すればピッチ上で違いを生み出せる。
 イニエスタと大迫の交代は、ともに同点の状況で清水戦は後半21分であり、磐田戦では同19分だった。選手のコンディションを把握した上で、今後の戦いも見すえながら、そのなかでゴールを奪える可能性を求めての采配だった。
 吉田監督が会見を終えた直後に、イニエスタはフェラン・サンティ通訳を伴いながら取材エリアを無言で通過した。メディアの呼びかけにも応じなかったが、試合後のロッカールームではいつも通りのイニエスタだったとDF酒井高徳(31)が明かした。
「もちろん満足はしていないと思うけど、やはりキャリアのある選手ですし、何よりも交代を告げられて嬉しいと思う選手はいないと思うので。そういうのは絶対にサッカー選手として持っていなければいけない部分だと思うし、何て言うのかな、全然当たり前の反応というか、みんな理解しているし、誰もとがめることもないので」
 清水戦の後半アディショナルタイムに劇的な決勝ゴールを決め、神戸を最下位から脱出させた大迫は、磐田戦でも後半31分に決勝点となるPKをゴール左上へ豪快に蹴り込んだ。武藤がPKを獲得した直後から自分が蹴るとばかりにボールを抱えていた大迫は、ゴールを問われると「気持ちです」と、ごく短い言葉に思いを込めて答えた。
 大迫や佐々木ら、交代で入った選手たちの胸中を慮るように酒井が続ける。
「代わって入った選手たちが、そういう(悔しい思いをした)選手たちの気持ちを背負ってプレーしなければいけない。サコ(大迫)や(佐々木)大樹は得点であるとか、流れをつかむようなプレーをしてくれた。それもあってのチームとしての戦いなので」
 武藤がペナルティーエリア内でDFリカルド・グラッサ(25)に倒され、PKを獲得した場面をさかのぼれば自陣でFW大森晃太郎(30)からボールを奪い、長い距離をドリブルで駆け上がり、武藤へパスを出した佐々木のプレーに行き着く。魂を引き継ぐと言うべきか。開幕から低迷してきた神戸のなかにポジティブな循環が生まれつつある。
 イニエスタは今回も、雨中でプレーする写真などを添えながら試合後に自身のインスタグラムを更新。連勝を今シーズン最長の3に伸ばし、暫定ながらJ2自動降格圏から脱出する16位に浮上した状況に対してこんな言葉を綴っている。
「勝利!このまま勝ち続けよう!サポーターの皆さん、いつも応援ありがとうございます!」(同)
 昨年9月も、そして今回も、神戸の勝利にかける思いが熱すぎるあまりに、自分自身へのふがいなさも相まって、イニエスタは一瞬ながら感情を高ぶらせてしまった。キャプテンの心情を周囲も理解しているからこそ、交代に激高し、最終的にはセレッソ大阪を退団してしまったMF乾貴士(34)のような事態は招かない。
 むしろ雨降って地固まるとばかりに、昨シーズンの神戸は札幌戦以降の11試合を8勝1分け2敗で駆け抜け、クラブ史上最高の3位に躍進した。果たして、今シーズンはどうなるのか。神戸は13日に柏レイソルとの天皇杯4回戦(ノエビアスタジアム神戸)、16日には鹿島との第22節(カシマサッカースタジアム)と来週も2試合に臨む。
(文責・藤江直人/スポーツライター) 










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