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「Dificil de entender」

 6月26日の浦和レッズ戦後、ヴィッセル神戸のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は、苦り切った顔で「理解するのが難しい」と、スペイン語で振り返っている。

 後半に入って、神戸は特に守備面で「理解し難い」ミスが続いた。それによって、攻撃がほとんどできなくなった。守りが乱れ、攻撃どころではなく、修正するどころではない。たとえば、完全に中盤で背後を取られて、後ろから引っ掛けて自陣でセットプレーを与え、押し込まれた挙句だった。85分、ダヴィド・モーベルグのFK一発に沈んだ。

 本拠地で0-1と敗戦。アンドレス・イニエスタや大迫勇也をはじめとする日本代表など"J1で最もお金をかけたスター軍団"でありながら、"残留戦"の相手に力なく負け、最下位に沈んだままだ。

「ディフェンス面でのミスが重なった。(最下位という)順位が(精神的に)影響していたのかもしれない。まずいファウルが続いてしまい、最後の相手の得点につながった」

 ロティーナはそう結論づけ、同時に敗因を説明していた。降格がちらつくなか、神戸は泥沼に入り込んだのか?

 4月まで1勝もできなかった神戸を、ロティーナは「まずは守りから」と立て直しかけていた。

 アジアチャンピオンズリーグでは、2勝2分けで決勝ラウンドへ勝ち上がっている。天皇杯でも、カターレ富山、レノファ山口を苦しみながらも破り、ベスト16に進出した。カップ戦の結果は悪くない。

 しかし、リーグ戦は苦しんでいる。どうにか初白星は飾ったが、監督交代後も2勝1分け6敗と大きく負け越し。開幕前は予想だにしなかった「最下位」に定着しつつある。その焦りか、ひとつひとつのプレーに確信が見えない。うまく噛み合えば力は出るのだが、自信が欠けていることで一定せず、プレー精度が落ちている。そのミスがさらに焦りや苛立ちに変わって、悪循環が起きているのだ。

「いいサッカーをすることで勝つチャンスは増える。ただ、それができない時にミスを犯さないことが重要になる。今は悪い流れに引っ張られている」(ロティーナ)

「イニエスタシフト」にも不信感が

 ロティーナの言葉は正論だが、"わかっていてもどうにもならない"状況にある。

 浦和戦も、チグハグさが目立った。単純なパスのずれが起き、まともに敵陣にボールを運べない。一方でサイドを簡単に崩されてしまい、シュートまで持ち込まれると、イニエスタが味方を厳しく叱咤していた。

 今シーズンも、神戸は「イニエスタシフト」を敷いている。昨季は前半戦までは古橋亨梧が活躍した流れに恵まれて成功を収めたが、後半は不調が明らかで、予兆はあった。現在は結果が出ず、「イニエスタシフト」にも不信感が滲み出している。前からの守備で敵ゴール近くから攻撃を始めるほうが効率的だが、イニエスタがいる限り、それは難しい。結局、一度引いて陣形を構えるしかなく、そうなるとボールを奪っても低い位置からのスタートになる。前線にスピードスターがいるわけでもなく、押し込まれ続け、攻守にストレスが生まれているのだ。

 ただ同時に、何もないところからチャンスを生み出せるのはイニエスタという事実がある。その矛盾を消化できていない。

 浦和戦ではイニエスタがベンチに下がってから、チームはアグレッシブにプレスをスタートさせたが、練度が低いためにはまらなかった。むしろ、背後を取られることが増えた。守りにおけるミスの連続で、FKから失点を喫したのだ。

「チームの意思疎通ができていないところがあった」(酒井高徳)

 選手たちが苦悶するのは当然だ。

 前回の神戸の記事でも書いたが、昨季とのもうひとつの違いはトーマス・フェルマーレンの退団・引退だろう。その穴が埋まっていない。ベルギー代表DFは正しいポジション、正しいタイミングを見本とし、周りのプレーを輝かせることができた。迅速にパスをつけ、的確にカバーし、ここぞという場面では自ら仕掛けるディフェンスもできていた。

 とはいえ、いくらフェルマーレンの不在が痛手だとしても、ここまで低迷する戦力ではないだろう。

チームの指針が定まっていない

 もうひとつ言えるのは、「監督を変えすぎる」ということである。そのたびに、チーム力をすり減らせてきた。フアン・マヌエル・リージョ、トルステン・フィンクは疑問の残る"辞任"だったし、今シーズンもロティーナで3人目の監督。それぞれの監督は信奉するスタイルが異なるし、日本人監督の中には明らかに力不足のケースもあった。

 チームの指針が定まっていないことが、降格も忍び寄る混乱の土台にある。

「バルサ化」。一時はもてはやされたそんなスローガンも、もはや語られなくなった。

 前節の柏レイソル戦で、神戸の三木谷浩史会長が、PKの判定に関し、強く不満を示し、物議を醸した。気の毒な判定ではあったが、正しくファウルの定義を解釈した場合、PKの判定はやむを得なかった。そんな混乱にも、うまくいっていないチームの苛立ちが透けて見えた。

 レッズ戦の前も、三木谷会長はピッチに登場し、サポーターと交流した。不穏さには敏感なはずで、次はどんな剛腕を振るうのか。ストライカー、センターバック、サイドバックなどで補強も噂されるが......。

 現有戦力で救世主となるべきは、武藤嘉紀か。前半、逆サイドからのボールにうまく入ってヘディングシュートに結びつけた場面は"希望"だった。その前後の時間帯、チームのプレーもわずかながら好転した。

「上位にいる時の敗北の痛みよりも、今の状況での敗北の痛みのほうが強い」

 試合後、ロティーナは鎮痛な表情で語った。泥沼に飲み込まれる前に痛みを乗り越える戦いが始まる。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki 










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