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「お前が今やるべきことはシュート練習ではない」

 「僕は小さい頃からサッカーを通してしか世の中を見ることがなかった。でも、オシムさんは、もっと広い視野を持って自分自身の頭でしっかり考えることの重要性を僕らに伝えてくれました」

 そう語る元サッカー日本代表・巻誠一郎さん(41歳)にとって、イビチャ・オシムさん(享年80)は、サッカーだけでなく、「人生の師」だった。

 オシムさんは日本代表やJリーグ・ジェフユナイテッド市原・千葉で監督を務め、巻さんはプロ1年目から指導を受けた。

 「当時の僕はプロのレベルについていけないと焦りを感じていたので、オシムさんに『居残りでシュートの練習をやらせてほしい』と直談判したことがあるんです。すると、『お前が今やるべきことはシュート練習ではない』と一蹴されました」

 オシムさんは巻さんをこう諭した。

 「私が課すトレーニングの中に、お前に足りないものは全部詰まっている。まずは目の前のトレーニングをしっかりやりなさい。練習から100%を出し切りなさい」

 この言葉が、巻さんのプロとしての原点となった。居残りでシュート練習ができるのは、まだ余力を残しているからだと気づかされたのだ。

 「与えられた時間の中で、自分のすべてを出し切る。今もその感覚が大事だと思っています。あとは次の日に備えて、休養したほうがいいんです」

「巻は巻だから。巻にしかできないことがある」
 '06年、試合後の会見でオシムさんが、「巻はジダン(元フランス代表)になれない。だが、ジダンにはないものを持っている」と発言したこともあった。

 「その言葉を聞いて、これからも泥臭くハードワークを続けていけばいい、それが自分の持ち味だとあらためて思いましたね。'16年に熊本地震があったときは、熊本出身の僕に元通訳の方を通じて、『巻は巻だから。巻にしかできないことがある』というメッセージをくれました。オシムさんの言葉の一つ一つが、今も僕の中で生き続けています」

 亡き人にはもう会えない。だが、遺してくれた大切な言葉はいつまでも寄り添ってくれる。

 「週刊現代」2022年6月25日号より

週刊現代(講談社)










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