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 カタールワールドカップ開幕を5カ月後に控えた森保ジャパンで、致命的ともいえる問題が露呈した。国内4連戦に臨んだ6月の強化マッチシリーズを終えた直後に、切り札的な存在になりつつあるFW三笘薫(ユニオン・サンジロワーズ)が「チームとして決まり事のようなものを持たないといけない」と明言した。就任から4年がたとうとしている森保一監督のもと、特に攻撃面で共通認識が設けられていない現実を前にして、日本代表は何をすべきなのか。(ノンフィクションライター 藤江直人)

● チュニジアに惨敗した理由 チームに「約束事がない」

 ホームで喫した惨敗を介して、森保ジャパンの現在地があぶり出された。カタールワールドカップ開幕まであと5カ月という時間を考えれば、暗たんたる気持ちにさせられる。

 14日のチュニジア代表戦で0‐3と完敗し、キリンカップ優勝を逃した直後のオンライン会見。三笘が残した言葉は衝撃的であり、同時に「やはりそうだったのか」と思わせるものだった。

 「ボールを持ったときに、チームとしてどのようにして攻めるのかという意識の共有とバリエーションが不足している。そういった部分の組み立て、というものをやっていかないと」

 後半途中から左サイドアタッカーとして投入され、何度も果敢な仕掛けを披露。パナソニックスタジアム吹田を沸かせたドリブラーはこう振り返りながら、さらにこんな言葉を紡いだ。

 「今日のような流れになって相手のカウンター攻撃を受けて、というのはワールドカップで絶対にあってはならないこと。チームとして決まり事のようなものを持たないといけないと思っています」

 三笘の言葉の中で気になったのは、言うまでもなく「チームとしての決まり事」の箇所だ。チームとしてこう攻めるという共通認識、すなわち約束事が森保ジャパンには存在しない。ゆえに個人の力量に頼る単発の形となり、相手も対策が立てやすくなる。三笘はさらにこう続けた。

 「選手同士のコミュニケーションで『こういうふうにしてほしい』と言っていますけど、チーム全員でそれを共有できているかというと、そうではないところが多いし、そこは必要かなと」

 決して批判を展開しているわけではない。A代表デビューからわずか7試合目ながら大きなインパクトを残し続け、森保ジャパンにおける存在感を一気に増幅させている25歳は、攻撃陣の中心を担う自覚と責任を込めながら、現状に対する危機感を言葉へ転換し続けた。

 年間を通して活動できるクラブチームほど緻密なものではないにせよ、攻守における約束事は代表チームにも必要不可欠だ。そして、それらをデザインするのはもちろん代表監督となる。船出からまもなく4年。森保監督が攻撃面で何も施さなかった跡が図らずも明らかになった。

 大きな衝撃を与えたからか。オンライン会見の最後には約束事に関して、あらためて三笘へ質問が投げかけられた。ワールドカップ予選を戦ってきた今までは時間がなかったのか。チームとしての意識がそこへ向いていなかったのか。解決するためにはどうすればいのか、と。

 「僕はアジア最終予選の途中から代表に入りましたけど、当時は本当に時間がなくて、コンディションを優先しないといけない、というのはありました。チームとして落とし込む時間がなかったわけではないけど、そこへ持っていけるような雰囲気はなかったですね」

 三笘はA代表に初招集された昨年11月シリーズをこう振り返った。しかし、アジア最終予選の序盤でつまずき、7大会連続7度目のワールドカップ出場へ向けて一戦必勝だった時期とは異なり、今回の6月シリーズは計12回の練習を積めた。三笘は「それでも」とこう続けた。

 「今回はけっこう時間もあって、みんなのコンディションもよかった。その中でコミュニケーションを取りながら、相手に対するチームとしての戦術というところで狙いはありましたけど、狙いの細かさといった部分は全然足りていない。ピッチ内での自分たちの対応力であるとか、そういったところにいってしまったところがあるので、いろいろな人たちで議論してやっていく必要があると思う」

● 「勝っているチームはいじらない」 監督のこだわりには批判も

 森保監督の采配に対して内部、すなわち選手から声が上がるのは今回が初めてではない。金メダル獲得を目標に掲げながら、4位に終わった昨夏の東京五輪直後。オーバーエイジとして参戦し、キャプテンを務めたDF吉田麻也は出演したテレビ番組でこう語っている。

 「大会を通して言うと、6試合を戦っていく上で、できればローテーションしてほしかった、というのはありますね。最後の試合は僕もそうですけど、選手たちがかなり疲弊していたし、疲労からくる判断力や集中力の欠如というものがあったと思うんですよね」

 グループリーグ初戦から銅メダルをかけた3位決定戦までの6試合を、森保監督に率いられたU‐24日本代表は全て中2日の過密スケジュールで戦った。吉田が言及した「ローテーション」とは、選手をある程度入れ替えながら戦っていく方法を指している。

 東京五輪では吉田とともにオーバーエイジで参加したMF遠藤航、24歳以下の選手ではMF田中碧、GK谷晃生、攻撃陣をけん引した堂安律、久保建英の両MFが全6試合に先発した。

 中2日では疲労やダメージが抜けにくく、日本特有の高温多湿の過酷な気候が追い打ちをかけた。久保の3試合連続ゴールなどで、グループリーグを3連勝で突破した日本は決勝トーナメントで失速。3試合で挙げたゴールは、メキシコとの3位決定戦で一矢を報いた三笘の1点だけだった。

 先発メンバーを固定した戦いへの是非は、当然ながら森保監督の耳にも届く。非が占める割合が圧倒的に多かった中で、指揮官の反応は頑固とも、いい意味での鈍感ともいえるものだった。例えば東京五輪における選手起用を問われたときには、こんな言葉を返している。

 「世界の中で日本が勝ち上がろうとしたとき、先を見越して戦うことはまだできない」

 実際には世界はおろか、東京五輪後の昨年9月に幕を開けた、カタールワールドカップ出場をかけたアジア最終予選を勝ち抜くのにも、一戦必勝態勢となった。チーム内に約束事が存在しない以上は、ある程度の意思の疎通が図れる、慣れ親しんだ顔ぶれで戦うしかなかったからだ。

 必然的に森保監督が選ぶメンバーは“いつメン”と呼ばれるようになった。いつものメンバーを揶揄(やゆ)したものだが、対策が練りやすい点で相手にとっては大歓迎だった。加えてFW大迫勇也やMF柴崎岳ら、固定されてきた主力が調子を崩せば、その分だけチーム力も低下してしまう。

 アジア最終予選で1勝2敗と黒星を先行させ、一敗も許されなくなった瀬戸際に追い込まれた森保監督はシステムを4-2-3-1から4-3-3へスイッチ。遠藤を除いた中盤の構成も変えた。

 アジア最終予選の潮目を変えた決断は評価できる。迎えたオーストラリア代表との第4戦。試合終了間際のオウンゴールが決勝点となり、かろうじて土俵際で踏み止まった森保監督は、再び「勝っているチームはいじらない」なるサッカーの格言を愚直に実践し続けた。

 けがで離脱した選手や累積警告による出場停止の選手を除いて、敵地で勝利したオーストラリアとの第9戦までシステムも先発する選手も基本的に同じ。その間に6連勝とV字回復を果たした森保ジャパンは、ワールドカップ出場権獲得という最初の目標をクリアした。

 迎えた6月の強化試合シリーズ。いずれも日本国内で行われた4連戦で、吉田と遠藤は全てで先発に名を連ねた。本大会へ臨む代表メンバーを絞り込んでいく段階に入った中で、後半で交代した試合こそあったものの、2人は代役の利かない存在であり続けた。

 しかし、最後を締めくくるチュニジア戦で、吉田は後半に喫した3失点全てに自らのミスで絡み、遠藤は攻撃時にパスが入った瞬間に標的とされ、幾度となくボールを失ってカウンターを受けた。試合後のオンライン会見。森保監督は吉田と遠藤の異変に気づいていたと明かした。

 「長いシーズンをヨーロッパで戦ってきた後の代表ウイーク4試合ということで、心身ともに疲労がかなりきていたのかなと思う。今後の対戦チームも同じような狙いを持って、われわれの意図するところをつぶしにくると考えられる中で、いいシミュレーションになったと思っています」

 4試合が全て中3日で行われた6月シリーズを、森保監督は同じく中3日でドイツ、コスタリカ、スペイン各代表とグループリーグを戦うカタール大会のシミュレーションと位置付けていた。チュニジア戦で疲労が目立った吉田と遠藤を代えなかった指揮官は、さらにこう語っている。

 「アタッキングサードのところで、どのようにして攻撃の形を作ってシュートまで持っていくのかを、さらに上げていかないといけない」

 アタッキングサードとはピッチの全長を3分割した場合に、相手ゴールに一番近いエリアを指す。しかし、攻撃の形を作る上で森保監督が約束事を持ち合わせず、選手個々のテクニックや判断に丸投げされている実情が、三笘の言葉を介して図らずも明らかにされた。

● 森保監督は何もしない? 選手たちはどうするべき?

 これまで何もしない、いや、できなかったのだから、これから「さらに上げていく」ための術もおそらく提示できない。森保監督は、21日の取材対応でも「さらに独力でいける選手になってほしい」と、三笘をはじめとする選手個々の成長に期待した。ならば、選手たちはどうするべきなのか。

 6日のブラジル代表戦を終えた後に、35歳のベテラン、DF長友佑都は「最終的な部分で、個の力で勝てる確率を上げていかなければいけない」と課題を挙げた上でこう補足している。

 「いろいろなところにサポートがいる状況での1対1ならば、相手を引きつけて剥がせる場面もあるんじゃないかと。もちろん一人一人がもっと突き詰めていく必要もあるけど、おとりになるランニングを含めた味方との連携で相手のマークのずれ、意識のずれを引き起こせると思っている」

 6月シリーズでは右の伊東純也、そして左の三笘の両アタッカーが個の勝負を挑み続けた。日本の攻撃の生命線になると信じて周囲もボールを託した。ブラジルはさらに強力な個の力で2人を凌駕し、チュニジアは場合によっては複数の選手を対応させて伊東や三笘を封じ込めにきた。

 ここで相手の選択肢を増やさせ、少しでも後手に回らせるコンビネーションを構築できれば、状況が変わる可能性も生まれる。森保監督が手段を講じられない以上は、選手が率先して動くしかない。そうしなければ手遅れになるギリギリのところまで日本は追い詰められている。

 大きな変化を好まない、頑固で保守的な性格の持ち主である森保監督だが、攻撃の約束事を作ろうと試行錯誤する選手たちの自主性は尊重する。勝負師の側面こそ持ち合わせないが、優しさと謙虚さもあって選手たちから“いい人”と慕われる指揮官の数少ないプラス材料がここにある。

 カタールワールドカップへ向けて、ヨーロッパ組を含めた陣容で活動できるのは9月の国際Aマッチデー期間の9日間と、あとは大会直前の数日間しかない。この時期に露呈した危機を克服できるかどうかは、ヨーロッパ組を中心とする選手たちのアイデアと経験値に委ねるしかなくなった。

藤江直人 










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