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 数多くの激闘が繰り広げられた2021/22シーズンが幕を閉じた。欧州各国でプレーする日本人選手たちは、果たしてどのような活躍を見せたのだろうか。今回は、ドイツのフランクフルトに所属する鎌田大地のシーズンを振り返る。(文:小澤祐作)

●「全員がゼロからのスタートでした」

 オリバー・グラスナーを新監督に迎えたフランクフルトのスタートは、あまりにも低調だった。ブンデスリーガ開幕節でドルトムントに2-5と大敗すると、その後の5試合はすべてドロー。第7節バイエルン・ミュンヘン戦でようやく初勝利を挙げたが、第8節と第9節で敗戦。第10節ライプツィヒ戦は後半アディショナルタイムの得点でなんとか引き分けに持ち込むという結果だった。

 昨季ヴォルフスブルクをチャンピオンズリーグ(CL)出場に導いた新指揮官は、試行錯誤を繰り返していた。第1節で3-4-2-1を採用するも大敗を喫したため、第2節からしばらくは4-2-3-1にチェンジ。ただここでも結果が出ず、第7節バイエルン戦は5-4-1、第8節と第9節は3-4-1-2を選択。第10節ライプツィヒ戦で3-4-2-1に戻り、ここでようやくベースが固まるという形だった。

 そんな中で鎌田大地も苦戦を強いられていた。序盤は先発から外れることも多く、ブンデスリーガ開幕10試合を終えた時点で得点もアシストもなし。第11節グロイター・フュルト戦でようやく初アシストを記録したが、リーグ初得点はシーズン折り返し直前の第16節ボルシア・メンヒェングラードバッハ戦とかなり遅かった。

 やはり新監督の元でプレーする難しさはあったようだ。鎌田はドイツ『ヘッセンシャウ』のロングインタビューの中で「グラスナー監督の元で心機一転しました。昨季までのものは全て通用しなくなりました。全員がゼロからのスタートでした。何人かの同僚が去り、新たな選手が来ました。フォーメーションも新しくなり、トレーニングのデザインやルートも変わっています。今はもっとディフェンスの裏を狙うべきで、プレースタイルも変わってきました」と話している。また、新監督が要求するものを理解するにも「時間がかかった」と明かしていた。

 しかし、鎌田はヨーロッパリーグ(EL)では誰よりも好調を維持していた。グループリーグ6試合すべてに出場し、チームトップとなる3得点をマーク。決勝トーナメント進出に大きく貢献していたのである。

 ブンデスリーガよりもELで結果を残せた理由についてだが、鎌田自身もよく分からなかったようだ。『ヘッセンシャウ』のインタビューの中で、鎌田らしい冗談を交えながら次のように話していた。

●結果の出ない鎌田に訪れたもう一つの試練

「今季のブンデスリーガでなぜゴールやアシストでうまくいかないのか、自分でもよく分からないんです。ELはレベルが1つ高いから、そっちの方が居心地が良いのかもしれませんね(笑)。でも真面目な話、ここまでブンデスリーガでゴールを脅かすことができないのは謎です」

 結局、鎌田のブンデスリーガ前半戦の成績は16試合1得点1アシストだった。もちろんパフォーマンスの良いゲームがなかったわけではなく、11月以降は主力としての地位も確立していたが、やはり攻撃的MFとして満足いく結果とは言い難い。状況は異なるが、昨季は同時期に2得点6アシストを記録していた。

 そんな鎌田に更なる試練が訪れたのは、今年2月のことだ。

 ブンデスリーガ第23節、敵地でのケルン戦。この日の鎌田はベンチスタートで、セバスティアン・ローデとの交代で後半頭よりピッチに立った。しかし、膠着した展開の中でなかなか輝きを放てずにいると、84分に失点に関与。すると、途中出場にも関わらず、グラスナー監督によって後半ATにベンチへ下げられることになった。

 0-1で敗れ2連敗となったこともあり、グラスナー監督の怒りは爆発した。ケルン戦終了後、同指揮官は決勝ゴール献上に関与した鎌田の元へ向かい、雷を落としている。またドイツ『ビルト』によると、グラスナー監督はロッカールームでも大きな声で怒りを露わにしていたのだという。

 途中出場で途中交代という屈辱的な罰を受け、監督から公の場でお説教…またそれまでの物足りない成績も相まって、鎌田に対し地元メディア、また一部サポーターからは厳しい声が挙がっていた。続くバイエルン戦は怪我の影響や戦術的理由もあってスタメン落ち。82分に出番がやって来たが何もできず、チームも0-1で敗れてリーグ3連敗となった。

 鎌田にとってこの時期が最大の正念場だったことは間違いない。上記の通りフランクフルトで思ったような結果が出せず、この時すでに4-3-3へとベースフォーメーションをチェンジした日本代表での立場も怪しくなっていた。このままいけば、昨季高めた評価を一気に落としてしまうことは目に見えていた。

 しかし、鎌田は不屈の精神でこの逆境を跳ね除けることになる。

●結果で示した存在の大きさ

 グラスナー監督の公開説教後、初めて先発出場を果たした第25節ヘルタ・ベルリン戦で、鎌田はラファエル・サントス・ボレのゴールをアシスト。その4日後に行われたEL・ラウンド16のベティス戦では決勝ゴールを決め、さらにその4日後の第26節ボーフム戦でも決勝ゴールを奪取。公式戦3試合連続で目に見える結果を残し、監督に自身の価値を改めて証明してみせたのである。

 その後、チームの視線はELへと移った。その中で鎌田はブンデスリーガでのプレー時間を減らすことになるのだが、ELでは決勝トーナメントすべての試合で先発出場。ケルン戦で不甲斐ない出来に終わるも、そこで腐らず結果を出していた鎌田に対するグラスナー監督の信頼の表れだったと言っていいだろう。

 そんな技巧派MFの決勝トーナメントでの働きぶりは、指揮官の期待に応えるほど素晴らしかった。準々決勝2ndレグ、バルセロナ戦ではフィリップ・コスティッチの得点をお膳立てし、3-2の勝利に貢献。準決勝ウェストハム戦では1stレグと2ndレグともにフル出場し、1得点をマーク。英紙『ガーディアン』には「デクラン・ライスすら抑えるのに苦労していた」と称賛されていた。

 そして決勝レンジャーズ戦でも鎌田はフル出場を達成した。ゴールやアシストこそなかったが、マンマークを受ける窮屈な中でも随所で持ち味を発揮し、3度のタックルを成功させるなど守備でも奮闘。PK戦では3人目のキッカーを務めこれを成功させ、チームを42年ぶり2度目の優勝に導いた。試合後、鎌田は「試合後初めて嬉しくて号泣しました。振り返ると自分のサッカー人生はいつも上手くいかず難しかったけど自分を信じてやり続けてやっと報われた気がします」と自身のSNSで喜びのコメントを残していた。

 そうしたフランクフルトでの活躍もあり、鎌田は6月シリーズで日本代表への復帰を果たした。4-3-3への適応が注目され、インサイドハーフで出場したパラグアイ代表戦では、ゴールも決めるなど躍動。カタールワールドカップのメンバー入りに向け、一歩前進したと言えるような内容だった。

 苦しい時期を不屈の精神で乗り越え、フランクフルトに欠かせぬピースとしてEL制覇という財産を手にした鎌田には、現在トッテナムやセビージャといったクラブからの興味が噂されている。カタールW杯を控える中、フランクフルトを離れるかどうかは本人とその周囲にしかわからないことだが、どんな壁にぶつかろうとも、鎌田は今シーズンのように不屈の精神で乗り越えていくのだろう。
 
(文:小澤祐作)

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