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 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の関係で未消化だった、明治安田生命J1リーグ第11節の2試合が18日に行われ、埼玉スタジアムでは浦和レッズと横浜F・マリノスが対戦。前半に3点を奪われた浦和が、後半にハットトリックを達成したFWキャスパー・ユンカー(28)の活躍で3-3の引き分けに持ち込んだ。クラブ最長記録を更新する6試合連続のドローで、史上3クラブ目となるJ1通算450勝をまたも逃した浦和だが、4試合ぶりの得点と逆境をはね返す執念で復調への狼煙をあげた。

ロドリゲス監督は核心を突く質問に…
 劇的なドローの余韻が色濃く残る試合後の記者会見ルーム。浦和のリカルド・ロドリゲス監督(48)が臨んだ質疑応答の最後に、核心を突く質問が飛んだ。
「サッカーはもっとシンプルだと思うが、監督のサッカーは非常にわかりづらい。今日の得点のように、シンプルなサッカーを見せてもらうことはできないのか」
 浦和を率いて2シーズン目のスペイン出身の指揮官は「私の戦術が、複雑なところがあるかもしれない」と表情と口調を変えずに、質問をしっかりと受け止めた。
「今日のように簡単にプレーすることによって生まれる得点もあるし、実際そのなかで3ゴールを奪えた。そういった(シンプルな)点を考慮しながら進めていくこともあるが、これまでわれわれがやってきたこと、積み重ねもあると思っている」
 今シーズンでワーストといっていい前半と、ホームの埼玉スタジアムを最もヒートアップさせた後半。ハーフタイムをはさんで、浦和が対照的な顔を見せた。

 前半12分にあっさりと先制を許すと、19分と30分にもゴールネットを揺らされた。前半だけで今シーズン最多の3失点を喫して迎えたハーフタイム。ベンチで戦況を見守っていたFW松尾佑介(24)は、チームの変化を感じずにはいられなかった。
「誰も(心が)折れていなかったし、いろいろな意見をぶつけ合っていた。サッカーは流れのあるスポーツなので、これは息を吹き返せると。自分が入ったら流れをさらに変えるために、パワーを出さなければいけないと思っていました」
 前節までクラブ最長記録タイとなる5試合連続ドロー。さらに直近の3試合はすべてスコアレスだった浦和は、3点のビハインドとともに文字通りの崖っぷちに立たされた。
 ホームでサンフレッチェ広島と引き分けた前節でさえ、試合後にはコロナ禍で禁止されているブーイングが浴びせられた。スタジアム内を一周しているときには、何かを訴えかけられたキャプテンのGK西川周作(35)が対話をしようとスタンドとの距離を詰め、ただならぬ気配を察したスタッフが止めに入る事態も生まれた。
 必勝を期して臨んだマリノス戦で、前半と同じサッカーを見せるわけにはいかない。ハーフタイムの話し合いをへて共有された答えは、後半開始2分に具現化された。
 マリノスの直接フリーキックをカットしたセンターバックの岩波拓也(27)が、つながずにそのままロングキックで返す。全体的にラインを高く保つマリノスの背後を狙った、前半にはなかったロングパスに反応したユンカーが冷静にまず1点を返した。
 タイで集中開催されたACLのグループステージで右手薬指を骨折。帰国後に手術を受けてから初先発を果たしたユンカーは「まだ指は痛むが、プレーできる範囲内のものだ」とエースの自覚をにじませながら、後半の浦和の変貌ぶりを振り返った。
「このような試合では全員が100%のプレスをかけ続けて、絶対に勝ちたいという気持ちを見せなければいけない。前半はそれが不十分だったが、後半は開始から最後まで『浦和はこうあるべきだ』という姿を、チームの全員で見せることができた。自分もそのなかでクオリティーを見せられたと思っている」
 パスを足元でつなぐのではなく、スペースを意識して前方へ送る。マリノスのゴールへ力強く向かい始めたベクトルの圧力を、ユンカーとトップ下に入ったアレックス・シャルク(29)が何度も、執拗に仕掛けたハイプレスが増幅させた。
 オープンな展開に持ち込んだなかで、後半36分に2点目が生まれる。スコアラーはまたもユンカー。アシストしたのは同24分から投入されていた松尾だった。
 後方から繰り出された低く、速いロングパスを、マリノスゴールに背を向けた体勢になって右足を軽くヒットさせる。わずかにコースを変えたボールは、オフサイドぎりぎりで前へ抜け出したユンカーへの絶妙のスルーパスになった。
 浦和レッズユースから仙台大、横浜FCをへて、今シーズンから再び浦和へ帰ってきたアタッカーは「マリノスが背後のスペースを空けてくれるのはわかっていた」と狙い通りのプレーだと明かしながら、前半までの浦和との違いを説明した。
「個人的には、ペナルティーエリア内に入る回数が少ないかなと思っていた。その前まではボールを持てているけど、そこからのランニングや、勇気のあるボールをなかなか入れられないところが停滞感につながっていたのかな、と」
 後半44分に決まった同点ゴールを生み出したのも勇気だった。
 左サイドで松尾のスローインを受けた途中出場のMF大久保智明(23)が、ゴールラインが見えるあたりから思い切ってドリブルを仕掛ける。2人を振り切り、ペナルティーエリア内へ深く侵入した直後にシュート性の強いパスを一閃。ゴール前にポジションを取っていたユンカーが、利き足とは逆の右足をワンタッチさせてゴールへ流し込んだ。
 来日2シーズン目で初めてハットトリックを達成したユンカーが声を弾ませた。
「どのチームもどこかにスペースを空けてしまうもの。それを利用するには正しいポジショニングが必要だ。それが前半と後半の違いのひとつだったし、後半は攻撃的なサッカーができたので、ご覧になった方も楽しめたのかなと思う」

 そして、大久保へスローインでボールを託した松尾は、ボールが左タッチラインを割るやいなや、すぐに自分へボールを投げてくれたボールパーソンを称えた。
「負けていたこともあって、リスタートもクイックでできた。ボールをすぐにわたしてくれなかったら、ゴールが決まっていなかったかもしれないし、とても大きなプレーだったと思う。スタジアムの雰囲気や後押しがあって、引き分けまで持っていけた。勝利まで導けたら最高だったけど、それでも大きな勝ち点1だったと思う」
 結果だけを見れば6試合連続ドローと、クラブ最長記録を更新した。3月19日のジュビロ磐田戦で今シーズン2勝目をあげ、鹿島アントラーズ、マリノスに次ぐJ1通算450勝に王手をかけながら、2ヵ月も勝利から遠ざかっている。
 清水エスパルスに勝ち点13で並び、得失点差でわずかに上回って順位を入れ替えた。それでも15位と、優勝を目指していたはずの3年計画の3年目で想定外の状況が続く。ただ、これまでの戦いとは異なる一面も確かにのぞかせた。
 4月6日の清水戦の前半33分にMF江坂任(29)が決めたのを最後に、実に374分間も遠ざかっていたゴールを後半だけで3つももぎ取った。試合後にスタジアム内を一周した際には、万雷の拍手が浦和の選手たちへ降り注いだ。追い詰められた浦和を鮮やかに変えた、リスクを冒し続ける姿勢をロドリゲス監督も試合後に称えている。
「相当なリスクをかけた攻撃だったので、逆にマリノスに決められてもおかしくない場面も作られてしまった。そこを西川や守備陣、そして選手全員が体を張りながら守ってくれた。最後の最後まで、すべてをピッチで出し尽くしてくれた選手たちのスピリットに感謝している。これを残るシーズンの戦いでも活用して、気持ちを出していきたい」
 試合展開によっては戦術を上回るものがある。惨敗必至の流れを自分たちの変化を介して強引に変え、手にした勝ち点1ポイントが、戦術家であるロドリゲス監督の思考回路に大きな影響を与えた跡がこのコメントからも伝わってくる。
 もちろん、上位浮上を目指していく上で厳しい状況はまだ何も変わっていない。マリノスとの激闘をターニングポイントにできるかどうかは、2位につける好調の鹿島を中2日で再びホームの埼玉スタジアムに迎える、21日の第14節で明らかになる。
(文責・藤江直人/スポーツライター) 










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