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"古巣"FCバルセロナとの一戦は、甘さよりも苦みのほうが残るものだった。

 現地時間1日に行なわれたバルセロナ対マジョルカ。久保建英(マジョルカ、20歳)は59分から途中出場したが、目に見える成果は残せていない。交代後、チームがFKから1点を返し、攻撃のギアが上がったのは事実だが、2-1と力及ばずに敗戦。スペイン国内スポーツ紙の報道も、直近5試合で先発わずか1試合の久保に関する記述は乏しかった。

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 元日本代表監督のハビエル・アギーレが新指揮官に就任し、久保の周囲は何が変化したのか?

 メキシコ人監督アギーレは合理性、効率性を好むリアリストである。チーム力を見極め、それに応じた戦い方を選択する。そのおかげで母国メキシコ代表を率いて、W杯で二度、ベスト16に進出するなど、多くのクラブや代表で結果を残してきた。

 2007-08シーズンにはアトレティコ・マドリードを率いているが、トップにアルゼンチン代表セルヒオ・アグエロ、ウルグアイ代表ディエゴ・フォルランというストライカーを擁し、得点力を生かしたチームを作り上げている。他にも、アルゼンチン代表マキシ・ロドリゲス、ポルトガル代表シモンなど、個を生かした戦い方が奏功。低迷期にあったチームを4位に押し上げ、12年ぶりのチャンピオンズリーグ出場権を獲得した。

 一方で2019-20シーズンは、レガネスに降格回避のために招聘されると、集団戦を選択している。個の力が乏しかったからで、5-3-2という徹底した守備重視の戦術によって、勝ち点を確保する戦いに舵を切った。ラスト5試合は3勝2分けと奇跡的な戦いをしており、結局は残留こそできなかったものの、名を貶めていはいない。

 アギーレは、降格回避を争うマジョルカで後者の戦いを選んだのだろう。

 ルイス・ガルシア監督に代わって指揮を執った4月のヘタフェ戦以来、基本的に5バックでブロックを作り、守備を固めている。バルサ戦も同様で、2トップの一角のアンヘル・ロドリゲスはセルヒオ・ブスケッツをほとんどマンマーク。守備ありきの戦い方だった。

アギーレは物足りなさを感じている

 攻撃に手数をかけず、フィジカル重視でとにかく持ち場を守り、相手を嫌がらせるようなプレーが増えた。必然的に、攻撃的な選手の起用は制限されることになった。バルサ戦は久保だけでなく、イ・ガンイン、サルバ・セビージャなどもベンチスタートになっている。

 つまり、久保は前監督の時代と比べて「厳しい状況に置かれた」と言える。

 アトレティコ戦で久保を途中投入して劇的な勝利に貢献した後、アギーレはこう語っていた。

「タケ(久保)は1週間を通じて先発組でプレーしてきた。しかし、何ひとつ気に入らなかった。"体温が低く"、無気力な感じで。いるべき場所がなかった。だが、今日ピッチに入った彼は熱意を見せ、プレーするに値した」

 アギーレは久保に期待する一方で、何か物足りなさを感じている。「何か」の正体は、インテンシティと言われるものか。それは攻撃の気迫も当てはまるが、特に守備の激しさなどに表れる。守備戦術を採用する場合、アギーレだけでなく、ビジャレアルのウナイ・エメリにせよ、日本代表の森保一監督にせよ、久保の起用をためらうところがあるだろう。

 守備ができないわけでもないが、守備を重視すると、他に屈強でパワーのある選手がいれば、結果としてオプション的起用になるのだ。久保としてはジレンマだろう。

 バルサ戦で久保は2トップの一角に入ると、広範に動いた。左サイドの崩しからエリア内に入ってパスを呼び込むと、左足でシュートまで持ち込んでいる。また、久保投入の約10分後にイ・ガンインも入ると、その連係からバルサを脅かすシーンが増えた。イからのパスを受け、中央から豪快に振ったシュートはブロックされたが、雰囲気は漂っていた。それまで、マジョルカはほとんど攻められなかったことを考えれば上出来で、好意的に見れば、相手を押し込んだことで1点につながった、とも言えた。

 事実、バルサ戦後の会見でアギーレは久保に及第点を与えている。

「タケは均衡を崩すことができる選手だ。彼をひとつのサイドに閉じ込めることはできない。なぜなら、特別なミッションを与えてしまうと、縛り付けることになる。(今日の)彼のパフォーマンスは気に入ったし、すばらしい仕事をしたと言える」

 アギーレはけっして戦術マニアではなく、選手の個を生かす寛大さを持ち合わせた指揮官である。選手の実力、キャラクター、コンディションを見極める目も持っている。それを合理的、効率的な形に仕上げる手腕に優れているのだ。

 久保が個でチームをけん引するプレーを見せることで、久保のよさに沿った編成にも変えられるということだ。そのためには、明確な結果を出すしかない。その点、バルサ戦の積極的プレーは微かな光明だった。

「ヘタフェ戦から5試合を戦い、残り4試合の"ファイナル"が残っている。最後の最後までリーガ(の残留争い)は決まらない」

 闘将アギーレは総力戦で挑むつもりだ。残留のために久保もすべてをかけるしかない。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki









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