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香川真司は2021-22シーズン途中から、ベルギーの地を戦いの場に選んだ。シント・トロイデンに加わり、レギュラーシーズン最終節では移籍後初の先発出場で原大智のゴールをアシストするなど、持ち味を発揮した33歳は今何を思うのか。自身についてや日本代表の現状について思うことを幅広く話を聞いた(全2回/#2も)

【貴重写真】無名だった香川16歳がかわいらしい…若手に慕われる33歳の今や、ドルトムントやマンU,日本代表でのスーパーゴールなどキレキレな技と笑顔を一気に見る

 経験を重ねたアスリートはどのようにポジティブさをもって、自分の心に火をともしていくべきなのか。前後編にわかれた香川真司へのインタビューのテーマとなった。

 2022年の初頭にベルギーのジュピラーリーグに所属するシント・トロイデンへの移籍を決めた。香川は、日本から渡欧する直前まで、Jリーグでプレーする仲間らの力を借りながらしっかり自主トレーニングをしていた。

 しかし――。

「合流して最初の1週間は、練習での身体の動きと自分の考えていることが一致しなくて。当初は『こんなにギャップがあるのか』とショックを受ける部分すらあったんです。だけど……」

 もちろん、この話には続きがある。

 ただ、そこに進む前に、インタビュー前編では昨年の1月からおよそ11カ月所属していたギリシャのPAOKテッサロニキに在籍していた時期から振り返ってもらった。

ギリシャでの時間はメンタル的にも落ちていました
――PAOKでの1年弱を振り返ってもらえますか? 

「ギリシャでの時間はメンタル的にも落ちていましたね」

――日本からも見られる練習の映像の一部などからは、しっかり取り組んでいるように映っていましたが?  

「そもそも、ヨーロッパに来てから全てのシーズンで、最終的には『今シーズンも自分はまた成長したし、ベストの香川真司になった』と思えていました。特に、トゥヘル監督がドルトムントに来て以降(2015-16シーズン)はむしろ、その感覚が年々強まっているくらいで」

――チームとしての目標を達成できずに終ったシーズンはあったにせよ、監督から冷遇されても、シーズン終盤にはレギュラーポジションと同時に、個人的な自信や手ごたえをつかんでいましたね。

「ただ、ギリシャでは唯一、それが得られなかった。移籍する前に聞いていた話と実際の監督の考えとのギャップなどもありましたけど、ケガをしてしまいましたからね。加入して1カ月くらいで戦列を離れて、復帰できたのがシーズン最後の2週間くらい。あれはさすがにこたえたし、そのまま翌シーズンを迎えましたけど……」

あの経験に自分が負けなかったと証明するために
――気持ちでプレーする香川選手にとってかなり大変でしたね。

「原因が自信の問題なのか、モチベーションの問題なのか、一時的なものなのかどうかはわからないですけど、今までにはなかったことでした。だから数カ月で終わった昨シーズンを経て、今シーズンに入ってから『環境を変えないといけないかな』と思うようになりました」

――そこまで赤裸々に語れるようになったということは、あの時間を無駄にしないための戦いに挑む決意が固まったということでしょうか? 

「あの経験に自分が負けなかったと証明するためには、これからの1年でどう戦い、どんな結果を残すかにかかっていると思っていました」

少なくとも2022年W杯まではヨーロッパで戦うと
――報道では北米や中東、さらには日本のJリーグからのオファーが取りざたされていましたが、ヨーロッパで戦うことを選んだ理由は? 

「いろいろな意見もあるでしょうけど、そもそも以前から、少なくとも2022年W杯まではヨーロッパで戦うと決めていました。他の大陸のリーグのレベルを低いと考えているわけではないのですが、ヨーロッパにいた方が僕は強くなれると考えていて。あとは……」

――『強くなれる』というのも興味深いですが、それは後で聞くとして、シント・トロイデンを選んだ要因が他にもあると? 

「ヨーロッパで戦っている限り、何が起こるかわからない。大きな可能性があるからです」

――それは、香川選手がドイツへ渡った2010年夏には優勝候補に挙げる人がほとんどいなかったドルトムントが優勝したり、盟友の岡崎慎司選手のレスター・シティーでプレミアリーグを制するといったことが起きるということですか? 

「それもそうだし、今のベルギーでは、今シーズンに2部から上がってきたばかりのチーム(※ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ。三笘薫が所属)が首位。そういうことが起こりえるのがヨーロッパなんですよ」

――ただ、香川選手加入直後のユニオンとのアウェーゲームでは、なんとシント・トロイデンが勝っていますよね? 

「あの試合で、ベルギーの首位チームがどんなものかわかりました。彼らをリスペクトしていないというわけではないですが、今シーズンの僕たちはプレーオフを目指していけたし、来シーズンはもっと上を目指すことも不可能ではないと思えました」

10歳ほど離れている日本人選手をどう見ている?
――なるほど。ちなみに、先ほどの「ヨーロッパにいた方が最終的には強くなれる」というのは? 

「うーん……まず、シンプルにやはりサッカーにすごく打ち込みやすい環境がありますよね」

――サッカーが最大のエンターテインメントになっていますし、日本にいるときのような周囲からの誘いも少ないですし、サッカー中心の生活を送りやすいですよね。

「あとは、『ここからステップアップするぞ』と考えている選手ばかりなので。ベルギーリーグは特にそういう選手が多いですけど、うちのチームにもポテンシャルを持った若い選手がいます。彼らを巻き込んでチームとして機能できれば、来シーズンは十分に上位を狙えると感じています」

――入団会見の際に、経験のある選手としてチームを引っ張るという覚悟以外に、『自分が若い選手から得るものが大きいと考えている』と語っていましたが、あれは本心ですか? 

「そうですね。例えば、シント・トロイデンの日本人選手は、自分と10歳くらい離れている選手が多い。『これからヨーロッパで戦っていくんだ』と本気で考えている選手ばかりですからね。そういう良いエネルギーを持っている選手と一緒にいることで、自分もさらに良いエネルギーを手にできる。それはメリットでしかないです」

――そうなんですね。

その部分では特に、日本人選手に助けられましたね
「あと、経験を重ねていくと、自分がこれまでいた環境と比較してしまう部分があると思うんですよ」

――例えばマンチェスター・ユナイテッドやドルトムントの練習施設などは世界でも指折りのレベルにありますけど、そこと比べてもナンセンスですよね。

「もし、この挑戦のデメリットがあるとしたら、今の環境に欠けているものや足りないところばかり見てしまうことだと思っていました。

 でも、その部分では特に、日本人選手に助けられましたね。海外で日本人選手と一緒のチームでやるのは実質初めてなんですけど……」(※2014-15シーズンに丸岡満とドルトムントで同じ試合に出場したことがあるが、丸岡はあくまでもドルトムントIIというリザーブチームの登録だった)

――助けられた? 

「彼らの大半は、ここがヨーロッパでの初めてのクラブ。だから、全てが新鮮に映るみたいです。Jリーグと比べたときに、過酷だなと感じそうな場面でも『これもヨーロッパでは当たり前のことなんだろう』と受け入れられるそうです。そこで『ああ、オレもそういう目線で、物ごとを見ていかないと』とハッと気づかされたりする。そういう刺激があるだけで毎日をポジティブなものに変えていけます」

――香川選手にはトップ下と言うよりもインサイドハーフなどのポジションでゲームを落ちつかせる役割も担って欲しいと首脳陣は考えているようですね(※シント・トロイデンはクロス数はリーグ7位だったが、ボール支配率は低く、香川のデビュー時ではリーグ最下位。レギュラーシーズン終了時も下から2番目の17位だった)。

「うちの監督も最終的には4ー3-3を採用して、そういう戦い方を採用したいと話していました。ロングボール主体のサッカーをずっと続けるのであれば、オレを取る意味もないですから」

――インサイドハーフでチームをコントロールするような仕事を期待されているようですね?  

「攻守両面で数多く関与していきたいという気持ちは強いです。オレ1人だけの力でサッカーの内容を変えられるほど簡単ではないけど、小さいことの積み重ねで、最終的にチームに大きな変化をもたらせればいいなと考えているので」

――シント・トロイデンのホラーバッハ監督は、ドイツでもっとも厳格で、ハードな練習を課す監督として知られるマガト監督の下で5年半にわたって(ボルフスブルクとシャルケで)アシスタントコーチを務めていた人ですが……。

「そう! ここで最初の1週間くらいやったときに、頭のイメージと実際の身体の動きが大きく違った。週初めの練習の走り込みがものすごくハードで。『これ、毎週の初めにやるの? 今回だけ? 』とチームメイトに聞いたくらいでしたからね」

理不尽に思えるくらいの練習をやることも、神様から……
――それはおそろしいですね(笑)。

「ただ、不思議なもので、その練習をやればやるほど、コンディションが上がっていったんです。練習量に関しては間違いなく、ヨーロッパに来てから最も多いですね」

――ヨーロッパでの12シーズン目にして、そんな体験をするとは……。

「ただ、『それくらいのことをしないとダメだ』とも思っていて。普通にやっているだけでは、現状は何も変わらない気がして。理不尽に思えるくらいの練習をやることも、『攻めに行けよ! 』と神様から言われているのかもしれない。そうやって物事を捉えられたら気持ちが楽になるというか、前向きになっていきましたね」

――FCみやぎで過ごした中高時代や、高校3年生に上がる直前に加入したセレッソ大阪でのルーキーイヤーのようですね。まるで原点回帰しているというか……。

「そうかもしれないですね。こういう環境に身を置いたことで、シンプルだけど一番大事な、サッカーができる喜びを蘇らせてもらっている。だから、良い方向に行っているんじゃないかなと」

必ず成功できるとオレは信じているので
――今回の決断については様々な意見がありますが、良い選択だったと胸を張れるそうですか? 

「サッカー選手として成功か失敗かは、みなさんに数字や試合内容から判断してもらったほうがいいでしょうね。でも、自分の中では、この選択への後悔は全くないです。

 何より、結果を残すまでのプロセスを最高のものにして、もっと成長したいという気持ちを燃やし続けられると感じています。それがある限り、成長し続けられるだろうし。成長を続ければ、必ず成功できるとオレは信じているので」

 レギュラーシーズン最終節でスタメン出場した香川は、1アシストを記録して、ベルギーのメディアから最終節のベストイレブンや、最終戦のマンオブザマッチに選ばれた。また、香川加入時にはリーグ14位で残留争いに巻き込まれていたチームの成績も向上。プレーオフの最後のイスを掴んだ8位ヘンクと勝ち点差なしの9位(※得失点差で及ばなかった)でシーズンを終えた。

 キャリアを積み、年齢を重ねれば、モチベーションや、成長への意欲が少しずつ下がってしまいがちだ。さらにそれが枯れてしまえば、プロアスリートとして生きていけなくなる。

 だが、香川は目標までのプロセスを最高のものにすれば、枯れることのないエネルギーを手に入れられると信じている。それが、新しい環境に対してきわめて前向きに向き合えている理由だろう。

 後編では、香川が描くこれからの展望と日本代表について語ってもらった。

<後編に続く>

(「核心にシュートを!」ミムラユウスケ = 文)










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