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ロシアによるウクライナ侵攻が開始されて1週間がたった。ベラルーシを含めて、周辺国には以前から危うい空気が漂っていたものの、いざ現実の戦闘の映像を見せられると、ショック以外のなにものでもない。欧州中が震撼していると言っていいだろう。

 なかでもドイツは今回の侵攻への関心が非常に高く、直後から各地で反ロシアデモが行なわれている。当初、静かにウクライナ国歌が歌われる小規模なデモは悲しく胸に迫るものがあったが、侵攻が始まって最初の日曜日の27日、首都ベルリンのブランデンブルグ門から戦勝記念塔にかけて行なわれたデモには、10万人以上が参加したと言われている。さらに、続く28日は「バラの月曜日」と呼ばれるお祭りの日で、ケルンやその周辺地域では仮装して練り歩くカーニバルが行なわれる。今年のカーニバル参加者は、仮装しながらもウクライナ支持や反ロシアのプラカードを掲げる人が多く、平和を求める25万人が参加するデモとなった。

 そんな世論とスポーツ界も無関係ではいられない。すでにFIFAやUEFAがクラブ、代表を問わずロシアのチームを参加停止にすると発表しているが、欧州でもロシアとの関係が深いドイツでは、さまざまな動きが出ている。

 なかでもドイツのサッカー界では、板倉滉が所属しているシャルケが、ロシアとつながりの深いことで知られている。ロシアの半国営企業で天然ガスを扱うガスプロムが、2007年から胸スポンサーを務めてきたことはご存知の方も多いはず。シャルケにとっては、 長いつき合いの安定的なスポンサーだったのはもちろん、昨季、ブンデスリーガ1部で最下位となり、31シーズンぶりに2部で戦うことになった際も契約を延長してくれた恩もあった。

 今季のスポンサー料は900万ユーロ(約12億円)と言われており、1部に復帰すればボーナスも設定されていたとされる。だが、シャルケは今回、ガスプロムとの契約解除を発表した。

 ビルト紙などのドイツメディアは、この決断がクラブ存続の危機に直結する可能性があるなどと報じているが、クラブは新スポンサー獲得に向けて、「近い将来、新しいパートナーを紹介できると確信している」と、前向きな姿勢を見せている。

「当時の決断は間違っていなかった」

 また、契約解除にさきがけて、クラブはガスプロムから招いた役員マティアス・ヴァルニッヒの辞任を発表している。ヴァルニッヒはロシアの秘密警察KGBの出身とされており、ドイツとロシアを結ぶ天然ガス輸送パイプ会社「ノルトストリーム2」のドイツ側の経営者のひとりでもある。また現在、米国による制裁(ビザの制限と財産没収)を受けている人物でもあった。

 このガスプロムとの関係は「甘い毒だった」と表現するのは、契約を結んだ当時、シャルケの財務部長だったペーター・ペータースだ。26日、第2公共放送ZDFの番組にゲスト出演。生放送のスタジオで20分間にわたり、司会者から尋問にも聞こえる厳しいインタビューを受け、弁明、釈明を繰り返した。

 ちなみにペータースは、2020年夏までの27年間をシャルケで過ごしたあと、ブンデスリーガ機構の相談役会会長を務め、昨年夏、ドイツサッカー連盟(DFB)会長選出馬を念頭に辞職。現在はその会長選挙のまっただなかで、3月11日の会議で決着がつくことになっている。

 インタビューで、ペータースはガスプロムと契約したことについてこう正当化した。

「契約をした2006年は今とは違う時代だった。当時はガスプロムがパートナーとして人気だった。多くのクラブがガスプロムに興味を示し、ガスプロムがシャルケを選んだ。もちろん、私はその決断を当時も今も、支持している。戦争が全てを変えた。でも、当時は(そんな考えが)まだ通用したんです」

 するとここで司会者はペータースを追い込んだ。

「ロシアは2008年、すでにグルジア(現ジョージア)に侵攻していた。当時のシャルケには、グルジア代表のレヴァン・コビアシビリも在籍しており、そのことが問題にもなったはずだ」

 コビアシビリは2010年にヘルタ・ベルリンに移籍し、2014年に引退。2015年にはジョージアサッカー協会の会長に就任している。この追及に対し、ペータースは曖昧な答えしかできなかった。

「当時の私たちはガスプロム側に立ってしまっていた。今にして思えば時代の流れを正しく認識できていなかったのかもしれない」

またペータースは、当時からシャルケの内部にはガスプロムとの契約について懐疑的な声が上がっていたことを認めた。

「とはいえ、最終的に私たちが出した結論です。当時はそれが正しかった。長年にわたりこの議論(ロシア企業にスポンサードされること)はサッカーとスポンサーシップだけの話ではなかった。何度も集中的に議論してきた。私は『甘い毒』という言葉を選んだが、お金があるから甘かったんです。でも今日、私たちはそれが毒であることを知っています」

 結局、ペータースは最後まで、自分の選択を過ちであるとは認めなかった。そして、この経験を踏まえて、「価値観とお金を天秤にかけなければならない場合、お金のためだけに決断してはいけない」としている。

 さて、シャルケには今後、本当に大口のスポンサーは現れるのか。2部に降格した今季、こんな形でさらなる困難が待ち受けるとは思わなかったに違いない。長年にわたり「甘い毒」を吸い込んだ代償はどのように払わされるのだろうか。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko 










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