スクリーンショット 2021-09-08 11.59.08

スポンサード リンク




 満足できる試合内容や結果にはほど遠かった。それでも決めるべきエースが決めた先制点を守り抜いた森保ジャパンが、2戦目にしてアジア最終予選初白星をあげた。
 
 カタールの首都ドーハのハリーファ国際スタジアムで、日本時間8日未明に行われた中国代表との第2戦。ともに初戦を落としたチーム同士の激突は、前半40分にFW大迫勇也(31・ヴィッセル神戸)が決めたゴールを守った日本代表が1-0で辛勝した。
 
 日本が所属するグループBは、ライバルとなるオーストラリア、サウジアラビア両代表がともに連勝発進。日本は10月7日にサウジアラビアとアウェイで、同12日にはオーストラリアと埼玉スタジアムで対戦する次回シリーズで、上位2ヵ国が来秋のカタールワールドカップ出場権を自動的に獲得する戦いで最初の正念場を迎える。

後半に古橋、長友が故障退場するアクシンデント
 
 日本の森保一監督は動こうにも動けなかった。4分が表示された後半アディショナルタイム。リードはわずか1点。最前線の大迫をはじめ、疲弊している選手たちが目立つ。しかし、交代枠を「2」も残したなかで時間を稼ぐ選手交代を告げられなかった。
 
 新型コロナウイルス禍が考慮され、2次予選から引き続いて交代枠は「3」から「5」に拡大されているアジア最終予選。ただ、選手交代を告げられる回数そのものはハーフタイムを除いて3回に制限されている状況下で、不測の事態が発生していた。
 
 前半と同じ11人で後半に臨んだ日本は5分にFW古橋亨梧(26・セルティック)が、43分にはDF長友佑都(34・無所属)が相次いで故障。MF原口元気(30・ウニオン・ベルリン)、DF佐々木翔(31・サンフレッチェ広島)との交代を余儀なくされた。
 
 その間の31分には警告を受けていたMF伊東純也(28・ヘンク)に代えて、MF鎌田大地(25・フランクフルト)を投入している。ベンチには追加招集されたFWオナイウ阿道(25・トゥールーズ)、カタールで合流したボランチ守田英正(26・サンタ・クララ)らが控えていたが、守備固めだけでなく時間稼ぎもかなわない状況だった。
 
 それでも中国に反撃の糸口すら作らせないまま、勝利を告げる主審の笛が鳴り響いた。ホテルに戻った後にオンラインで対応した、キャプテンのDF吉田麻也(33・サンプドリア)の第一声に手にしたばかりの勝ち点3の価値が凝縮されていた。
 
「もちろん満足できる結果ではなかったけど、勝ち点3を取って何とか次につなげることができた。内容に関しても手放しで喜べるものではなかったかもしれないけど、これがアジア最終予選だと思っているし、とにもかくにも勝ち点3を取れたことが一番大きい」
 
 ホームの市立吹田サッカースタジアムで、スコアこそ0-1ながら、それまで無敗だったオマーン代表に試合内容でも上回られる完敗を喫してから5日。同じく初戦を落としている中国は、それまでのデータにはない布陣で臨んできた。
 
 李鉄監督に率いられる中国は、これまで[4-4-2]で戦ってきた。ただ、試合前に公表された先発メンバーを見た日本のスタッフが「3バックで来る」と察知し、少ない時間のなかで可能な限りの情報を収集。選手たちに与えた指示を森保監督が明かす。
 
「これまで準備してきたベースとともに、相手が我々に合わせてきた戦術へ臨機応変に対応していこう、と。選手たちは非常に柔軟に戦ってくれたと思っています」

 中国は左右のウイングバックが加わる5バック状態となり、最終ラインの前に3人の中盤が、さらにはラ・リーガ1部のエスパニョールでプレーするウー・レイ、ブラジルから帰化したエウケソンの2トップまでが自陣でブロックを形成してきた。
 
 中国のゴールに迫るほど、日本が攻め込むスペースがなくなる。前半から攻めあぐねた試合展開を、オマーン戦に続いて先発フル出場した大迫はこう振り返る。
 
「あれだけ引かれると我慢の時間が多くなると考えていたし、実際にもどかしい時間が続いた。でも、相手の方が状況的にはしんどかったと思うので」
 
 対する日本の森保監督は、オマーン戦から先発メンバーを4人入れ替えた。
 
 ただ、オーバーワークで戦線離脱した酒井宏樹(31・浦和レッズ)に代わる右サイドバックに室屋成(27・ハノーファー96)が、期限ぎりぎりの移籍で帰国できなかった冨安健洋(22・アーセナル)が植田直通(26・ニーム・オリンピック)に代わってセンターバックで先発したので、実質的に入れ替わったのは2人だけだった。
 
 その一人、鎌田に代わってトップ下に入った久保建英(20・マジョルカ)が熱望していたポジションで躍動する。前半23分に右足から放たれたシュートが左ポストを直撃し、同38分にはペナルティーエリア外から利き足の左足を一閃。強烈な一撃は相手キーパーに防がれ、こぼれ球を詰めた大迫のシュートも左ポストに弾かれた。
 
 嫌な雰囲気が漂い始めた40分に、右サイドの伊東が決まりごとにあえて反した。
 
「サイドバックが高い位置を取るようにして、そこに任せていたので自分はなかなかサイドでボールを受けられるシーンがなかった。そのなかで『やっぱり自分が行った方がいいかな』と思って、サイドで仕掛けてクロスを上げようと。それが出たシーンだった」
 
 右タッチライン際でパスを呼び込み、すかさず縦へ1対1の勝負を挑む。自慢のスピードで瞬く間にマーカーを置き去りにして、そのままの体勢で低空の高速クロスを味方にではなく、相手キーパーとセンターバックの間に狙いを定めて放った。
 
 先発を言い渡されてから、伊東は1トップの大迫へこんな言葉をかけていた。
 
「速いクロスを入れるので(ゴール前に)入ってきてほしい」
 
 引いた相手を崩すセオリーはサイド攻撃。それも相手の守備陣が反応しにくい低く速いクロスを放つほど得点できる確率が高まる。右サイドバックの室屋ではなく、自分がサイドに張ってチャンスを作る。森保監督が求めた「臨機応変な対応」を実践した伊東のプレーに、チャンスを待ち続けた大迫も離れ業で応えてみせた。

 一気にスピードを上げて中国の最終ラインの裏へ抜け出し、宙を舞いながら懸命に右足を伸ばす。足裏あたりにヒットしたボールは、反対側のネットへ吸い込まれた。
 
「試合前に(伊東)純也と話していた通りのボールが来たし、いいゴールだったと思う。最終予選には簡単な試合はひとつもないので、我慢を続けながら決めるべきときにしっかりと決めようと心がけていた。次も厳しい戦いが続くので頑張っていきたい」
 
 決勝ゴールをこう振り返った大迫は、オマーン戦では得意とするポストプレーで精彩を欠き、味方から預けられた縦パスを何度も奪われた。ブレーメンから神戸へ移籍し、2週間の自主隔離期間をへて全体練習に合流した直後にJ1リーグの戦いへ復帰。2戦連続で先発し、代表に合流したコンディションは決して万全ではなかった。
 
「オマーン戦で負けた責任を一人ひとりが感じてくれた結果として、中国戦へ向けたトレーニングからは強い覚悟とリバウンドメンタリティーが伝わってきた。集中力とクオリティーが高く、球際における強度も高い内容だったと思っている」
 
 大迫だけでなく無所属状態が続く長友、今年に入ってA代表戦から遠ざかっていたボランチ柴崎岳(29・レガネス)を引き続き先発させた意図を、森保監督はこう説明した。その上で、オマーン戦後に吹き荒れた批判の嵐をこう受け止めている。
 
「私自身は見ていないが、いろいろな記事が出ている状況は知人からの連絡でだいたい想像はついた。ただ、私の職として一戦一戦、常に生きるか死ぬかの覚悟を持っている」
 
 吉田が言及したように、中国戦の内容はほめられたものではなかった。
 
 ボール保有率で70%をマークし、シュート数でも18対3と圧倒。なおかつ中国が放った枠内への一撃はゼロだったが、対する日本の枠内シュートも大迫の決勝点以外は前半の久保、後半に柴崎が放った無回転のブレ球ミドルの2本にとどまった。
 
 オーストラリアとの初戦に続いて枠内シュートがゼロに終わるなど、チームとしての体をなしていなかった中国から追加点を奪えない課題は残った。それでも後半途中からシステムを[4-4-2]に戻し、エウケソンに加えてブラジルから帰化したFWアラン、アロイージオを同時に投入してきた中国戦を、吉田はトータルでこう振り返っている。
 
「息の根を止めることはできなかったけど、イレギュラーで失点するおそれもあった」
 
 何よりもピッチに送り出された選手たちの踏ん張りで手にした勝利で、失いかけた自信をつなぎ止めた上で10月の2試合へ挑める意義は大きい。アウェイでサウジアラビア、ホームでオーストラリアと勝ち点6でグループBのトップに並び、得失点差で後者がトップに立つライバル勢との連戦を、吉田は「前半戦のカギになる」と言い、こう続ける。
 
「ヨーロッパとサウジアラビアは時差もわずか1時間だし、移動距離も短い。今回と試合の間隔も短いので、戦術などの刷り合わせにもそれほど時間はかからない。何よりもオマーン戦の負けをこんなにも早く取り戻せるチャンスが目の前にある。もう一敗もできない僕たちのモチベーションは、非常に高くなると思っている」
 
 宿泊ホテルでのオンライン対応を終えた選手たちは、カタール時間の8日未明にはヨーロッパ各地へ戻る機上の人となった。再会への合言葉は決まっていると、カタール入り後には選手同士のミーティングを介して中国戦への士気を高めてきた吉田は言う。
 
「疲れなどが言われるかもしれないけど、それでも自チームで試合に出よう」
 
 森保監督も2週間の自主隔離期間が設けられる日本へは帰国せず、齊藤俊秀コーチとともにヨーロッパへ渡る。日本サッカー協会の拠点があるドイツを中心にヨーロッパ組が所属するクラブを行脚し、そのままサウジアラビアとの第3戦へ向かう異例とも言えるスケジュールが組まれた。次なる戦いは、すでに始まっている。
 
(文責・藤江直人/スポーツライター)










スポンサード リンク

ブログランキング にほんブログ村 サッカーブログへ