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 金メダル獲得を目指すサッカーUー24代表の、東京オリンピックでの戦いがついに始まった。7月22日20時キックオフ、東京スタジアムで行われたグループステージ第1節、対南アフリカ戦。日本は、71分のMF久保建英のゴールで、1対0と勝利を収めた。シュート数13対4。CK6対1と日本が攻め込んだ一戦だったが、結果は辛勝――。

 辛くも、しかし大きな初戦勝利を挙げたこの試合を、2003年の入団以来、18年間川崎一筋でプレーし、「川崎のバンディエラ」と呼ばれ愛された元サッカー日本代表・中村憲剛さんに解説してもらった。サッカー批評Webでは、東京五輪のサッカー日本代表戦全試合を中村さんの解説でお届けする。

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 南アフリカ戦は難しい試合だったと思います。

 コロナ禍での試合で、南アフリカの選手が感染した。試合は無観客で行なわれる。色々なものがいままでと違いました。経験を持った選手でも、初めて味わうような雰囲気があったのでは。それに加えて、スタジアムには五輪独特の緊張感が漂っていたでしょう。

 ただ、緊張感がプレーに大きく影響を及ぼしたところはなかったと感じます。もちろん緊張感があったとは思いますが、メンタル的にしっかり準備をして、同じ方向にベクトルを向けている、というのは試合の入りを見ていても、試合全体からも読み取ることができました。緊張に縛られてどうしようもない、といった種類のプレーはほとんどなかった。

 相手との兼ね合いもありました。南アフリカが5-4-1のシステムで前からプレスをかけてこなかったことで、ある程度余裕を持ってボールを回すことができた。それもまた、落ち着いて試合に入れた要因でしょう。開始から5分で選手たちは、「今日の相手はこんな感じか、どうやって崩そうかな」という感覚になったと思いますね。

 コンディションもそこまで悪い印象はなかったです。暑いなかでも動けていた。日本サッカー界としてW杯や五輪で積み重ねてきた蓄積、暑熱順化の蓄積があるので、そういうところも含めてしっかり準備できたのでしょう。

■南アフリカ戦の焦点は「“いつ”クサビを入れるのか」
 南アフリカ戦の焦点は、「いつ」クサビを入れるのかにありました。

 相手は5―4―1で守ってくるから、サイドは空いている。そこにパスを「出させられて」しまうのか。それとも、中央が狭いなかでもクサビを入れることで、相手をより集結させてサイドを空けて突破するのか。真ん中から突破できるなら、もちろんそれはそれでいい。

 試合が進むなかで生まれたもうひとつのポイントは、遠藤航と田中碧、ダブルボランチのうちひとりが相手のボランチの背中に入れるかどうか、にありました。

 それについては、2人のプレータイプの関係上、田中碧が試合の途中から変えていったと思います。

 システムの兼ね合いを考えると、ダブルボランチのふたりが後ろで回していても、相手を崩すことはできない。どこかで自分が前にいかないと攻撃に厚みができない、という戦況を見極めて判断を下したように映りました。相手のボランチの背中を取った田中に斜めにボールが入り、ファウルをもらうこともありましたし、チャンスを作ることもあった。

 また、それを可能にさせた後ろの配球のテンポにも触れるべきでしょう。CBの吉田麻也と板倉滉のところは比較的時間があり、そこで持ち過ぎると相手を楽にさせてしまうし、的も絞りやすくなるのですが、ふたりはテンポ良く配球していた。それが南アフリカの選手たちの体力を削るジャブのような効果を与えていました。

■「『幅』を作った」久保の見事なゴール
 久保建英の決勝点は、71分に生まれました。

 第2戦以降の対戦相手を考えても、南アフリカ戦では勝点3が欲しい。森保一監督は60分に1枚目の交代カードとして、三好康児に代わって相馬勇紀を投入していました。久保が得点を決める直前には、旗手怜央と上田綺世が準備をしていました。代わって退いたのは、左サイドバックの中山雄太と1トップの林大地です。得点を取るために左サイドバックに旗手を入れ、1トップを変えてより攻撃的に、という交代でした。

 後半も半分が過ぎていたので、そろそろ焦りが忍び寄ってもおかしくない。先制するために何かを変えようとしていたところで、久保が取ってくれた。いい時間帯の先制点でした。

 得点につながった長いサイドチェンジは、前半はあまり見られなかったものです。前半は2列目のサイドに立つ堂安律も三好もタイミングを見て中へ入っていき、トップ下の久保と林を含めた4人で流動的にやりながら攻撃の形を作っていました。

 ですが、得点シーンは久保が右サイドに張って幅を作ったところで、それを見た田中碧がサイドチェンジを狙うことができた。相手を見ながらうまく立ち位置を取って、相手を広げることのできたシーンでした。

 森保監督の選手交代では、町田浩樹を入れるタイミングが絶妙でした。失点をしたことで攻勢をかけてきた南アフリカに、旗手が入った左サイドを何回か突かれていたので、85分に町田を投入して旗手を2列目へ上げた。守備を安定させつつ、190センチの町田の高さも加えて、相手のセットプレーにも備えた。また、旗手のSBも2列目もできるポリバレントさも、それを可能にしていました。町田の投入という一手は、最終ラインの安定、2列目の強度を保つ意味でも、終盤の戦いぶりを盤石にしました。

(構成/戸塚啓)

なかむら・けんご  1980年10月31日東京都生まれ。中央大学を卒業後03年に川崎フロンターレに入団。以来18年間川崎一筋でプレーし「川崎のバンディエラ」の尊称で親しまれ、20年シーズンをもって現役を引退した。17年のリーグ初優勝に始まり、18年、20年に3度のリーグ優勝、さらに19年のJリーグYBCルヴァンカップ、20年の天皇杯優勝とチームとともに、その歴史に名を刻んだ。また8度のベストイレブン、JリーグMVP(16年)にも輝いた。現在は、育成年代への指導や解説活動等を通じて、サッカー界の発展に精力を注いでいる。

中村憲剛,戸塚啓










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